退職勧奨・退職強要の横行と弁護士交渉
【横行する退職勧奨・退職強要】
私が代表をつとめる銀座通り法律事務所の相談事例の中で、最近退職勧奨や退職強要に関する相談が増えています。退職勧奨というのは文字通りの意味としては使用者が社員に退職を勧めるということです。「勧める」という言葉の本来的意味は勧められる人の立場に立ち、その人にとってのより良き選択を助言するということにあります。ところが使用者による退職勧奨は当該社員の立場に立っての助言ではありません。当該社員をやめさせたいという考えが基底にあり、正面から解雇をすると後で争われるリスクがあるので退職を勧奨し、当該社員の意思で退職届を出させようとするものです。その場合には後で争われる余地がない(少なくなる)との判断からです。退職勧奨が勧奨の程度を超えて強圧的になされるのが退職強要ですが、退職勧奨にしろ、退職強要にしろ社員の側から退職届けを提出させるという目的は同じです。これを社員の立場から見ると退職届けを出した以上後で争うのはむずかしいという意味では大きな差はあまりありません(多少の差はありますが)。
【退職勧奨を受けた人の心理】
退職勧奨を受けると誰しも大きなショックを受けます。自分では会社のために一生懸命働いてきたつもりなのに、ある日突然“君はいらない”と宣告されるわけですから、当然のことです。次第に家族のことが気になります。同僚や部下の目も気になってきます。日本の労働者は“闘い”を経験したことが皆無に近いですから、言われると不本意とは思いながらも退職を受け入れるケースが少なくありません。退職勧奨のときは使用者は一方で労働者の欠点をあげつらい、他方で退職金の上乗せを提案します。アメとムチによる追い出し作戦です。しかし、かつては年収の2年間分以上の上積みを提案するケースが少なくありませんでした。最近では給与1年分にも足りないケチな提案が目立っています。転職先の見通しもあって、かつ上乗せ額も満足のいくものであれば、退職勧奨を受け入れるか否かはそれこそご本人の選択の問題で、退職勧奨を受け入れ転職して転職先で重用されハッピーな展開になった人も過去にはありました。しかし今はハッピーな展開になることはほとんど期待できません。転職市場もかつてと比べて格段に狭くなっています。「おれ(私)をいらないという会社はこちらからごめんこうむりたい。」という一時の義憤から退職届を出すのはやめましょう。使用者が解雇をせず退職勧奨という手段をとるのはあなたを法的に解雇できないという弱味があると思った方がよいと思います。
【使用者は正当な事由がなければ労働者を解雇できない】
使用者は労働者を自由に解雇することができません。貸家契約の場合に貸主が賃貸借契約を一方的に解約するには余程のことがないとできません。借家人保護のために借地借家法は正当な事由がない解約は無効としています。労働契約もこれと同じで、使用者が労働者を解雇するにあたっては正当な事由が求められ、それがない場合の解雇は無効です。このことは法律で次の通り明記されています。「解雇は、客観的に合理的な理由欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)。要は使用者が一方的に解雇するためには、①客観的な合理的理由と ②社会的相当性 の2つの要件をクリアする必要がありますが、判例は余程のことがないかぎり2要件の充足を認めません。解雇事件の多くは労働者が勝訴しています。
【退職勧奨を受けたときは労働組合と弁護士にすぐに相談することを勧めます】
<さまざまな人と相談しよう>
退職勧奨を受けるとほとんど全員がパニックになります。平気でおれるのは長年労働組合運動をやってきた人位です。あわてて結論を出さないで、さまざまな人に相談することを勧めます。
<行政の労働相談>
労働基準監督署や行政が主宰する労働相談所に相談するのも一つで法的・中立的なアドバイスをしてくれます。ただ例えば労働基準監督署は賃金不払いや偽装請負のような法律違反が明らかな場合は主体的に動いてくれますが、解雇に関しては主体的に動いてもらうことはあまり期待できません。このように行政への相談は一定の限界がありますが、中立的立場から客観的な意見を述べてくれるという意味では相談してみる価値はあります。
<企業内組合への相談>
日本の労働組合は企業内組合がほとんどで、しかも組織率も18%しかありません。ヨーロッパや韓国の労働組合は企業や政府と断固とした姿勢で闘っていますが、日本の労働組合は闘わない労働組合です。闘わない労働組合ではありますが、就業規則・退職金規定などの社内規定や、その会社における過去の解雇・退職事例等について一定の情報をつかんでいます。企業内組合でも親身になって相談に乗ってくれる人もいます。自分が組合員でなくとも遠慮なく相談してみることをお勧めします。相談した後で組合に加盟することも可能です。ただ企業内組合に相談すると時には、あなたが相談したことが会社に伝わる可能性があることを頭において相談してください。
<個人加盟の地域ユニオンへの相談>
企業内労働組合が全く闘わないため最近では個人加盟の労働組合が○○ユニオンとしてあちこちにできています。これらは職場に根ざした労働組合ではありませんが、労働組合法上の正当な労働組合であり、あなたの会社と団体交渉をする権利があります。団体交渉でらちがあかなければ都道府県の労働委員会に救済申し立てをすることができます。それぞれのユニオンには労働組合運動の経験を積んだ執行委員がいて、どこを攻めればあなたに有利に展開できるかをそれなりに真剣に考えてくれます。○○ユニオンは相談の価値があります。各ユニオンは快く相談を受け入れてくれますので、ご自分に合いそうなユニオンに相談することをお勧めします。
<弁護士への相談>
私は企業内組合や地域ユニオンとともに弁護士への相談も同時にすることをお勧めします。最後は裁判で勝てるかどうかは、あなたが最終決断をする上で重要なポイントです。法的な裏付けがあれば、使用者が強硬であっても一歩も引く必要はありません。
これまで弁護士の役割は会社に退職勧奨をやめるよう内容証明郵便を送ったり、解雇された場合は仮処分や労働審判や訴訟をおこすという形態のものが主流でした。弁護士が直接会社と交渉するということはあまりしませんでした。しかし、本人まかせにすると会社の組織力といやがらせに負けて本人は退職してしまうケースが多いのが現実です。退職届けを出した後で争うのは法的には大変困難です。そうしたことから銀座通り法律事務所では退職勧奨を受けたときから弁護士による代理交渉を積極的に行うことを心掛けています。弁護士がつくと会社は一時的にカチンとくることは確かですが、会社主導の流れが一変することも確かです。私は本人交渉で解決できる場合には本人にまかせますが、それではらちがあかないときは本人と相談の上、弁護士が代理人として会社と直接話し合いをします。その結果、退職勧奨を撤回したり、退職条件を有利に決着させることができたケースが少なくありません。代理人による交渉をするのが良いのかどうかも含めて弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士との相談料は、30分以内5,250円、60分以内10,500円です。
なお、銀座通り法律事務所に相談を希望される方は、働く市民の弁護団の相談メールをご利用ください。
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