労働問題

2013年3月18日 (月)

「精神障害者の雇用義務化」10年後に後退

【精神障害「雇用義務化を」 厚労省分科会が意見書 法案提出めざす】
              (2013年3月15日 日本経済新聞 より)

 厚生労働省の労働政策審議会の分科会は14日、障害者雇用促進法で精神障害者の雇用を義務付ける必要があるとする意見書をまとめた。これを受け、同省は改正法案を作成し、21日に開かれる分科会で議論する。分科会で合意が得られれば改正法案を今国会に提出し、5年後の2018年4月の施行を目指す。
 ただ企業側からは「精神障害者の雇用支援策を充実させ、効果を確認してから義務化に踏み切るべきだ」などと慎重な声も出ており、法改正の見通しは不透明だ。
 厚労省が雇用義務の対象と想定するのは精神障害者保健福祉手帳を持つ統合失調症、そううつ病、てんかんなどの患者。近年は精神障害者の就労意欲が高まり、大企業を中心に採用が増えている。

【障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会報告書】

 「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会」は平成24年8月3日厚生労働大臣に研究会報告書を提出した。その中で、精神障害者の雇用義務化について「精神障害者に対する企業の理解の進展や雇用促進のための助成金や就労支援機関における支援体制の強化等の支援策の充実など、精神障害者の雇用環境は改善され、義務化に向けた条件整備は着実に進展してきたと考えられることから、精神障害者を雇用義務の対象とすることが適当である。」と明確に結論した。ところが、労働政策審議会 障害者雇用分科会で経営者側委員が猛烈に反対し、義務化の実施時期が5年後に大幅に後退する法案を厚労省は準備中である。

 ※報告書全文はこちら〔障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会報告書〕(PDF)--厚生労働省ホームページ

【雇用義務制度の変遷】

<身体障害者・知的障害者>

 雇用義務制度は、昭和35年の法制定時に身体障害者を対象とした努力義務として創設され、昭和51年の改正により、法的義務へと強化された。また、昭和62年の改正により、知的障害者に対する雇用率の適用に関する特例(実雇用率の算定特例)が設けられ、その後、平成9年の改正により知的障害者に係る雇用率制度上の取扱いが法的に整備され(雇用義務化)、その算定基礎に知的障害者を含む障害者雇用率が設定された。さらに、平成17年の改正により精神障害者に対する雇用率の適用に関する特例(実雇用率の算定特例)が設けられた。

<精神障害者の取扱い>

 精神障害者については、平成16年の労働政策審議会障害者雇用分科会意見書において、「将来的にはこれを雇用義務制度の対象とすることが考えられる。」とされ、精神障害者の雇用の促進を図ることを目的に、平成18年4月からは精神障害者(精神障害者保健福祉手帳の所持者)が実雇用率への算定対象とされた。また、平成20年の法律改正における国会の附帯決議においても、「精神障害者を雇用義務の対象に加えることについて、可能な限り早期に検討を行うこと」とされた。

【私の意見】Up63

 わが国は精神障害者に対する偏見のきわめて強い国です。精神障害者のほとんどの人はわずかな配慮さえあれば有為な社会人として活躍できる人たちです。モノづくりやサービスの提供で日本の企業は世界市場で高く評価されつつあります。ところが、足元の自社の職場における障害者雇用の世界では、障害者を差別し排除する前時代的な考えが大手をふっています。このような時代遅れの感覚をもつ企業は、すぐれたモノづくりやサービスの提供の面でも長続きはせず、いずれは凋落すると私は思います。1980年に国連総会で採択された「国際障害者年行動計画」は「ある社会からその構成員のいくらかの人々を締め出す場合、それは弱くてもろい社会である」としていましたが、同様のことが企業にもあてはまるのではないでしょうか。

3月25日追記New2↓↓

【精神障害者の雇用義務化 実は10年後に実施?】

 3月15日の日本経済新聞記事から私は精神障害者の雇用義務化は5年後と思っていました。ところが労働政策審議会 障害者雇用分科会の3月21日の議事次第(PDF:厚労省ホームページ)を見ると精神障害者の雇用義務化の改正は「平成30年4月1日から施行する」(資料1要綱案第六の一(8頁))としているが第四の二(7頁)は「二 障害者雇用率及び基準雇用率についてはこの法律の施行の日から起算して5年を経過する日までの間、労働者の総数に対する対象障害者である労働者の総数の割合に基づき、対象障害者の雇用の状況その他の事情を勘案して政令で定めるものとすること」としています。5年後に施行され施行されてから更に5年以内に法定雇用率を見直すというもので実際は10年後実施となる可能性が大きいと思われます。
 最近事務所では一般労働市場で働く統合失調症、てんかん、発達障害などのさまざまな精神障害をもつ労働者からの労働相談が一挙に増えています。これまでは身体障害の労働者の相談ばかりでしたので、良い傾向と思っていました。雇用義務化を見越した厚生労働省を含む行政側の積極的な働きかけであると前向きにとらえていました。それだけに、えっ!10年後?とびっくりするとともに、ようやく社会に出はじめた精神障害者を再び排除する動きに強い憤りを禁じ得ません。

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2012年10月 2日 (火)

電機リストラと日経働きやすい会社上位

【私の意見】Up63

 9月30日付の日経新聞としんぶん赤旗日曜版に2つの相反する内容の記事が掲載されました。
 日経記事は2012年の「働きやすい会社」調査の結果を発表し、パナソニックをはじめ、電機各社が上位を占めたことを明らかにしました。
 赤旗日曜版は電機大手の内部留保は27兆円に上るのに電機・半導体産業は13万人のリストラ計画を実行しようとしていると掲載しています。
 この違いは根本的に両紙の企業に対する見方に違いがあり、それにもとづくものが大きいでしょうが、日経調査が2011年の実態にもとづくものであり、赤旗は今後のリストラ計画ということの時点の違いも反映しているのかもしれません。
 「人材の採用・育成」と「育児・介護との両立をめざした企業支援」が業績不振の前にリストラに突き進むというのは悲しいことです。困難を乗り越え、従業員にとって働きやすい会社がグローバル化でも企業業績でも良い結果を出してほしいものです。
 日経と赤旗日曜版の記事を以下に紹介します。

【パナソニック、再び首位 働きやすい会社2012 日経調査】
                (2012年9月30日 日本経済新聞 より)

 日本経済新聞社は29日、主要企業を対象に実施した2012年の「働きやすい会社」調査の結果をまとめた。3年ぶりに総合首位となったパナソニックをはじめ、電機各社が上位を占める傾向が続いた。グローバル化に即した人材採用や、育児・介護との両立支援など働く環境の変化に素早く対応した企業が高い評価を得た。

「働きやすい会社」調査ランキング〔総合〕
 1位(4位)   パナソニック 511.16得点
 2位(2位)   日立製作所 503.55
 3位(3位)   東  芝 503.52
 4位(5位)   ダイキン工業 502.86
 5位(1位)   ソ ニ ー 500.06
 6位(13位)  第一生命保険 490.51
 7位(6位)   富士フイルム 488.08
 8位(7位)   キヤノン 483.83
 9位(50位)  イ オ ン 481.78
 10位(10位) 損害保険ジャパン 478.75
   ※()は前年順位

【グローバル人材育成 上位に電機】

 調査は10回目で今回は日経HR、日経リサーチと共同で企画。企業の人事・労務制度の充実度を点数化し、ビジネスパーソンが重視する度合いに応じて傾斜配分し、ランキングを作成した。4つのテーマ別にランキングも作った。
 パナソニックは前年の4位から順位を上げ、09年以来の総合首位。テーマ別でも「人材の採用・育成」と「多様な人材の活用」で2位に入った。グローバルに活躍できる人材の獲得に向け、中国や北米などに「リクルートセンター」を設けて現地で人材を一括採用。12年度は通年で1100人を採用し、来年度も同水準を予定している。
 社員教育も充実させている。今年から丸1日英語のみを使う日を設けるなど、社員が自ら語学の習得に取り組むよう意識づける研修を始めた。「内向き」といわれる新入社員向けに精神面のケアを重視した教育も始めた。

<内外の人事評価 日立が共通化へ>

 日立製作所は前年と同じ総合2位。昨年度からグループ約900社、32万人の人事データベースの整備に着手した。課長職以上では世界共通の人事評価制度づくりも進める。国内外で人事制度を統一して人材を有効活用する狙いだ。11年度には主任級以下の海外研修制度を大幅に拡充し、この2年間で約2千人を海外に送り込んだ。
 総合3位の東芝は「多様な働き方への配慮」で高評価を得た。11年4月に横浜事業所に「きらめキッズ横浜」と呼ぶ社内保育園を開設するなど、仕事と育児の両立支援を強化している。妊娠、出産、育児といった各段階で利用できる支援制度を分かりやすく紹介した冊子も発行している。
 電機各社はバブル崩壊後の低成長に加え、ここ数年はグローバル競争の激化で経営環境が厳しく、国内では人員増強が難しくなっている。賃上げよりも労働時間の短縮や休業制度の充実などで社員の働きに報いてきた。一方で競争力を高めるため、外国人や女性など多様な人材の戦力化を急いでいる。

【働く環境、何を重視 労働時間の適正さ】

 同時に実施したビジネスパーソン調査では、働きやすい会社の条件を聞いた。非常に重視する項目で最も多かったのは「労働時間の適正さ」(43.48%)で「休暇の取りやすさ」(42.26%)が続いた。「半休や時間単位など年次有給休暇の種類が充実」(32.03%)も多い。
 厚生労働省の就労条件総合調査によると2011年の年次有給休暇の取得率は48.1%で前年から1ポイント上昇。一方、年次有給休暇を時間単位で取得できる企業は7.3%にとどまる。育児や介護をしながら働く人が増え、より柔軟に勤務時間を選べる制度が求められている。
 「社員の勤続年数の長さ」(36.82%)や「若手社員の定着率の高さ」(30.10%)を重視する人も多い。また、「人事考課の結果伝達、反論・修正機会の有無」(32.20%)や「評価結果・目標達成度フィードバックの有無」(28.58%)といった人事評価の透明性を望む声も多かった。

【電機リストラ 生産崩壊の危機】
              (2012年9月30日 しんぶん赤旗日曜版)

<コスト優先のアジア進出 技術流失し敗北の種まく 名古屋経済大学名誉教授坂本雅子さん>

 国内のものづくりを支えてきた電機産業が、生産の崩壊とも呼べる危機に直面しています。
 例えば、液晶テレビでも生産を丸ごと台湾企業に委託し、それを輸入しただけの「東芝」製や「日立」製が主流になっています。ノートパソコンはほぼ100%が台湾企業などに生産を委託して作ってもらった製品です。
 半導体では国内唯一のDRAM(随時書き込み読み出しメモリー)製造会社エルピーダメモリが今年、米国企業に買収され、日本企業による生産は消滅しました。DRAMはコンピューターなどの記憶装置に使うもので、かつては日本の電機各社で世界シェアの8割を独占していました。
 システムLSI(大規模集積回路)も同じ道をたどろうとしています。システムLSIはDRAMとならぶ半導体の主製品で家電や携帯電話などの「頭脳」になります。現在はルネサスエレクトロニクスを中心に富士通セミコンダクター、パナソニックなどが生産しています。しかしこの3社も生産から撤退し、設計だけを行う企業を合同で設立する方向で協議が進んでいます。当該部門の工場を台湾企業に売却する交渉も進んでおり、労働者もリストラして身軽になろうというのです。米国ファンドによるルネサス全体の買収提案や日本側の出資対案も出て半導体の未来は不透明です。

誤った戦略

 なぜこんなことが起きているのでしょうか。
 日本企業の敗退の裏にアジア企業の急成長があることは、よく指摘されます。確かに今、DRAMでは世界生産の6割を韓国企業が占め、システムLSIでは台湾企業が受託製造のトップ、液晶テレビで韓国2社が世界シェアのトップを走るといった具合です。しかし重要な問題は、日本企業自身が長期にわたってアジア企業への技術流出を続け、自ら敗北の種をまいてきたことです。
 現代の電機機器の中枢部品や半導体は、それを作る機械(製造装置)が決定的な意味を持っています。日本の電機や機械メーカーは、長い間共同で優れた製造機械を開発してきました。日本企業はそのノウハウがぎっしりつまった製造機器を技術者付きで、生産の立ち上げまで指導して韓国や台湾に売り込んできたのです。アジア企業が追い付けない高度な中枢の化学素材も日本企業が供給しました。日本の電機メーカーがアジア企業に生産を委託する時は、委託先の工場を日本工場の「コピー」に造り替え、技術者も派遣して徹底的に指導しました。
 この結果、アジア企業はあっという間に技術面で遜色がなくなり、あとはコストの勝負となってしまいました。劣勢に立った日本企業は利益の薄れた半導体部門等を分社化して投資や技術開発をなおざりにし、コスト低下だけを追求してアジア企業への委託生産を拡大しました。一方で国内でのリストラや工場閉鎖を行ったため、行き場を失った技術者が韓国や台湾企業に大量に移り、ますますライバル企業の競争力を強める結果も引き起こしています。
 日本企業は目先の利益だけにとらわれず、10年、20年先の将来を展望して、人を大切にし、日本の技術とものづくりを守り発展させる戦略に根本から転換すべきです。

【電機・半導体産業 13万人リストラ計画】

 パナソニック 40000人
 ルネサス   14000人
 TDK      11000人
 ソニー     10000人
 NEC      10000人
 リコー     10000人
 シャープ    8500~10000人
 東芝      3050人
 オリンパス   2700人
 富士通     2450人
 日立      1600人
 太陽誘電   1420人
 SUMCO   1300人

<電機大手 内部留保は27兆円>

 昨年以降、電機・半導体大手が雪崩を打つように新たな大リストラ計画を発表し、実行に乗り出しています。
 1000人以上の大規模リストラを打ち出した13の企業・グループの計画だけで、人減らしは約12万人。さらに1000人未満のリストラを進めている企業は50社を超え、合わせると電機・半導体産業の人減らしは13万人規模に上ります。
 「ここにはきみが働く場所はない」--。人減らしの計画は「希望退職」募集の看板を掲げています。しかし実態は、個別の事前面談で労働者の働く誇りを傷つけ、無理な広域配転を命じるなど、人権を踏みにじる退職強要にほかなりません。
 全国の生産拠点の閉鎖・縮小は、地域経済にも大打撃になります。
 電機大手の内部留保は27兆円に上ります。人を使い捨てにし、地域経済を顧みないリストラは許せません。内需に大打撃を与え、人材と技術を流出させる無謀なリストラとのたたかいは、日本経済を守るたたかいでもあります。

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2012年9月23日 (日)

外資系企業の解雇・降格と弁護士サポート

【高学歴・高収入の労働者の解雇・退職勧奨】

 外資系企業に勤める高学歴・高収入の労働者の解雇事例・退職勧奨事例・降格減給事例が増えています。これら労働者は年収1000万円を超える人も少なくなく、米国でMBA(Master of Business Administration 経営学修士)の資格をとっている人も少なくありません。外資における解雇・退職勧奨・降格の事例は上司が交替したという理由で、あるいは上司がラインを入れ替えその部下を使いたくない(気に入らない)という理由で簡単に退職を求める傾向があります。退職しない場合には解雇に踏み切っています。日本では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と法律に明記されています(労働契約法16条)。これは長年にわたる判例法理を明文化したもので、日本の裁判所は労働者の解雇を正当な理由がないかぎり認めません。上司が気に入らないからその部下を解雇することを日本の裁判所が認めることはまずありません。

【外資系企業に働く労働者の意識】

 ところで外資系企業に勤める高学歴・高収入の労働者の意識は日本企業に勤める労働者に比べ一つの企業に対する従属意識が高くありません。その意味では“キミは要らない”と宣告されると労働者の側も次を探す(転職活動をする)という傾向があります。長期・安定雇用を当然と思っている日本資本の労働者の意識とは明らかな違いがあります。しかし世界的不況であり、その中でも日本市場は外資にとって魅力のある市場とは言えません。外資系企業労働者の転職市場もかつてより狭き門になりつつあります。外資系企業も上乗せ退職金をケチる傾向があり、双方が接点を見出せず、弁護士マターとなり法的紛争になることが最近少なくありません。

【解雇、降格・減給処分の無効】

 外資系企業の強行する解雇は日本の労働法規からは無効になる場合が少なくありません。最近では解雇が難しいと判断した外資系企業が降格・減給処分を行って退職に追い込む事例も増えています。降格・減給処分にも正当性が必要であり、外資系企業が挙げる当該労働者の欠点の多くは本質的なことは少なく、そう簡単に裁判所が認めるものではありません。外資系企業は降格・減給の根拠を人事権の行使であると強調しますが、当該労働者に対する不利益処分であることに変わりがなく、人事権の行使だからと言って何でもできるものではありません。

【労働者の旬を大切にすること】

 そんな訳で外資系企業の解雇や降格・減給処分が法的には無効となることが少なくありません。ただ、私どもが外資系企業労働者の方の代理人となる場合は、当該労働者が外資で活躍し働く労働者としての“旬(しゅん)”を常に意識しています。外資系企業で働く労働者の値うちは過去の勤務歴と経験、年齢(若さ)にあり、過去の勤務・経験から遠ざかれば遠ざかるほど値打ちが下がっていきます。若さも年齢がかさむごとに値打ちが落ちると思った方がよいと思います。ですから、“キミは要らない”と告げられた場合に企業と何年も裁判で闘っているうちに“旬”が過ぎてしまっては意味がありません。外資系企業に勤める労働者をサポートするにあたっては、この“旬”を常に見すえながら、経済的に有利な接点をどう見出すかを意識してサポートします。外資系企業にとっても延々と裁判をすることにメリットはありません。そんなことから、私としては双方のために早期解決をめざしながら、当該労働者の満足が得られるような解決を常に探るように心がけるようにしています。

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2012年9月18日 (火)

若者が働けないのは中高年正社員のせい?

【私の意見】Up63

 日本経済新聞が9月14日からはじめた「働けない若者の危機」シリーズの第1弾として「過保護に慣れた中高年正社員」を取り上げ既得権の壁と位置づけています。
 確かに私が相談を受ける事例でも中高年正社員による若者労働者のバッシングが少なくありません。中高年層がみんながみんな企業人として後輩に誇れる働きぶりをしたかというと、どの時代も、どの職場でも同じで、すぐれた社員もいる一方、使えない社員もいました。これら社員が中高年層になった途端にみんなすぐれた社員になるかというとそんなことはあり得ず、若いころに使えない社員は年齢を経ても同じであることが普通です。ですから中高年層が管理者の端くれになったとたんに部下を物知り顔に品定めし、バッシングするのは容認できません。
 日経の「若者の雇用取材班」は世界一厳しい日本の解雇規制を緩和して、若者の雇用を増やすべきであるとの基調になっていますが、それには賛同できません。取材班はスペインやデンマークの解雇規制をとりあげていますが、日本では失職した場合のセーフティネットが十分ではない上に転職市場が未発達です。社会保障が不十分な日本で中高年の失職が続けば、うつ病発症者が増え新たな社会問題を生みます。
 日本経済も日本の大手企業も経済的基盤は確固たるものがあります。小泉・竹中改革以降のクビ切り自由の労働政策がそもそも間違っているのであって、中高年も若者も安心して働ける環境をつくることが政府の役割です。
 正規雇用と非正規雇用の関係では、まずやるべきは同一労働・同一賃金制度の確立です。これが確立すれば中高年も若者も同じ職場にしがみつくことは減るでしょう。
 以下に9月14日の日本経済新聞をそのまま引用しますので私の意見と対比して読んでください。

【働けない若者の危機 第2部既得権の壁①】
                   (9月14日 日本経済新聞 より)

 若者の就職難の裏側には正社員ら既得権を持つ年長者がいる。若い層にだけ重荷を負わせる仕組みは持続しない。痛みを分け合う工夫が要る。
 派遣社員として3年間勤めた食品会社から5月に契約を打ち切られた安永美佐子(仮名、26)。派遣先の上司が送別会でささやいた言葉が忘れられない。「正社員は切れないんだ。申し訳ない」

<厳格な解雇規制>

 社員食堂が使えず、自分だけロッカーもなかったが、正社員以上に働いた。「頑張っても真っ先に切られることがよく分かった」とつぶやく。
 学校を出た15~34歳の2割が契約社員など非正規で働き、なかなか抜け出せない。60歳まで雇用が保障され、年功賃金の恩恵を受ける大企業正社員との格差は大きい。

<過保護に慣れた正社員>

 正社員の長期雇用は、日本企業の競争力の源泉だった。時間をかけて育てた人材は組織への忠誠を強め、「カイゼン」など生産効率上昇を担う。だが企業が新規採用を続ける余裕を失い、負の側面が目立ち始めている。
 「若者の雇用のため、もっとできることがある」。経済協力開発機構(OECD)は日本の正社員と非正規の格差を問題視し、何度も改革を促してきた。4月の提言では正社員の雇用保護を緩めるよう求めた。
 OECDによると、日本の正社員の解雇規制は加盟する34カ国で最も厳しい。民法上は「解雇の自由」があるが、過去の判例が企業をしばる。会社存続の危機でなければ不当解雇になる。
 解雇の前に新規採用を抑え、非正規労働者を削減するよう義務付けてもいる。業績が悪化すると、中高年正社員を守るために、若年層を犠牲にする構図が浮かび上がる。
 「会社が働かない中高年を何とかして、後輩を採ってくれたら僕も辞めなかったかもしれない」。2月にNECから外資系に転職した川島直人(仮名、30)は振り返る。
 ここ数年は業績悪化で「目標を超える成果をあげてもボーナスが下がった」。一方でパソコンで時間をつぶす50歳代は安泰に見え、「会社の先行きが不安になった」。
 若者の苦境が行き着く先。それは25歳未満の失業率が50%を超えるスペインかもしれない。
 マドリード市在住で医師資格を持つマルチン・モレノ(27)は国内での職探しを断念し、英国に渡ることを決めた。高学歴・高技能の若者が職を求めて流出し、経済の活力は低下している。
 原因の一端は解雇規制にあった。「人員整理のコストが膨大で、企業は採用に消極的」(スペイン経団連幹部)。今年、改革に踏み切るまで、解雇する社員への補償金は欧州連合(EU)平均より3~4割高かった。

<北欧に処方箋>

 事態への処方箋も欧州に見ることができる。デンマークの解雇規制はOECD加盟国で最も緩いが、失業率は14%とEU平均(22.5%)より低い。情報技術や外国語など数千種類の職業訓練で技能を高め、速やかな再就職につなげる。
 柔軟な労働市場と手厚い失業対策を組み合わせた「フレキシキュリティ」と呼ぶ政策で、衰退産業から成長産業へ人材を移す。「転職や失業を恐れる若者は少ない」(デンマーク労働総同盟)
 日本が正社員への過保護を続ければ、若者のチャンスはさらに減り、中高年は衰退産業にたまっていく。人材の目詰まりを防ぎ、スペイン化を避けるために、正社員の既得権をどこまで守るべきか検証し直す時期にきている。=敬称略 (若者の雇用取材班)

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2011年7月13日 (水)

社内格差が大きい企業ほど健康状態は悪い

【人口減時代の人材力強化】
【ポイント】

        (2011年4月21日 日本経済新聞 経済教室 より)

・体調不良による労働生産性の低下が問題に
・社内格差が大きい企業ほど健康状態は悪い
・企業は意思決定で従業員の健康に配慮必要

[河野敏鑑 富士通総研経済研究所上級研究委員 こうの・としあき 78年生まれ。東大博士(経済学)。専門は社会保障、公共経済学。]
[齊藤有希子 富士通総研経済研究所上級研究委員 さいとう・ゆきこ 74年生まれ。東大博士(理学)。専門は産業組織、計量経済学。]

【私の意見】Up63

 この論文は企業単位で構成されているすべての健康保険組合に着目し、その組合別月次データを情報公開請求を用いて入手し、企業内格差、企業内年齢格差と企業の従業員の健康状態の関係について分析を試みています。そして「企業内格差、企業内の年齢内格差が大きい企業の方が健康状態が悪いことが明らかになった」としています。私は不公正な人事がまかり通っている企業、若者を粗末にしている企業に精神疾患で苦しむ従業員が多いことを日頃感じていました。この研究はそのことを客観的なデータをもとに実証した貴重な研究だと思います。企業経営者や管理職の方は是非目を通していただきたいと思います。論文が長いので私の方で小見出しを<>でつけました。

【格差拡大 企業に損失 法律超えた対応が必要に】

<高齢者も働ける社会、若年者がより意欲的に働ける社会を構築しなければならない>

 日本は2005年から人口が減少する社会に突入した。有史以来、日本で人口が減少する局面は何度かあったという。しかし、今回の人口減少は過去のものとは大きく異なる。それは医療水準の向上によって死亡率がここ60年ほどで劇的に下がったため、高齢者が増加するなかで人口が減少するという事態である。約20年後の30年には、日本は人口の3人に1人が65歳以上の高齢者になると予測されている。

 こうした超高齢社会においても日本が経済的に持続可能であるためには、人的資本の維持・強化が重要である。高齢者も働ける社会、若年者がより意欲的に働ける社会を構築しなければならない。金融立国を目指すにせよ観光立国を目指すにせよ、どのような成長戦略や社会の幸福度の向上を掲げるにしても、まずもって人的資本の維持・強化がなければ、絵に描いた餅に終わるだろう。

<特に職場においては精神疾患に伴う休業や退職が大きな問題になっている

 人的資本の強化といえば、教育を想像する人も多いだろうが、教育と並んで人的資本の重要な部分を占めるのが健康である。まずもって健康でなければ、働くことも消費することも大きく制限される。
 特に最近、健康について話題となるのは精神疾患である。特に職場においては精神疾患に伴う休業や退職が大きな問題となっている。文部科学省によると公立学校教育職員のうち病気休職者は約1%、そのうち約3分の2が精神疾患によるものであるという。こうした教育職員に支給されている給与は年間で少なくとも総額数十億円に上るものと思われ、少なくともこの分だけ公立学校の生産性は低下している。
 しかし、健康状態が生産性に与える影響は、欠勤・休業に伴うものだけではない。休業せずに出勤したとしても、体調が悪ければ集中力が落ちるなど、仕事の効率が悪くなることが予想される。欠勤・休業に伴う生産性の低下を「absenteeism」と呼ぶのに対し、体調不良で職務を行うことによる生産性の低下を「presenteeism」と呼んでいる。ハーバード・ビジネス・レビューにおいてポール・ヘンプ氏は、米国において「presenteeism」による損失は「absenteeism」や医療費の会社負担などによる損失の合計の2倍以上に上ると推計している。
 また、日本においても厚生労働省は昨年9月に自殺・うつによる社会的損失の試算を公表し、09年における社会的損失の合計額が、自殺・休業による所得の低下、うつ病による社会保護支給費・医療費の増加などで約2.7兆円に上ることを明らかにした。

<企業内部での給与格差が企業内部の信頼感や統合、さらには健康状態とも関連しているのではないかと仮説を立てた>

 さて、日本において、職場環境は従業員の健康にどのような影響を与えているのであろうか。先に述べた公立学校のようなケースは例外的で、企業・職域ごとの健康に関する指標はよくわからないものと考えられてきた。しかし我々は、企業単位で構成されている健康保険組合に着目し、その組合別月次データを情報公開請求を用いて入手することで、企業の従業員の健康状態について分析を試みた。分析の対象は03年度から07年度にかけて5年度にわたって存在したすべての健康保険組合(1496組合)である。
 特に我々の研究で着目したのは、職場における給与格差と健康の関係である。地域における所得格差は、その地域の信頼感や社会的統合と関係し、さらには死亡率や健康状態にも影響するといわれている。一方で日本においては企業が共同体としての役割を果たしてきたことから、企業内部での給与格差が企業内部の信頼感や統合、さらには健康状態とも関連しているのではないかと仮説を立てた。

<企業内格差、企業内の年齢格差の大きい企業の方が健康状態が悪い>

 入手した月次データには、標準報酬月額(税引き前月給)給等級別の被保険者(本人)の人数が男女別に記載されており、企業別に給与格差(ジニ係数、平均対数偏差)を測定することが可能である。リーマン・ショックに至るまでの数年間、景気は回復したが格差が拡大したのではないかと指摘されてきた。我々の研究により、5年度の間に給与格差は拡大していたが、企業間では給与格差は大きく変化しておらず、企業内部での給与格差拡大が健康保険組合の被保険者全体の給与格差拡大に大きく寄与していたことが明らかになった。
 また、ここで観測される企業内格差を介護保険のデータとあわせて40歳以上と40歳未満に分け、年齢内格差と年齢間格差に分解することも可能である。観測期間において、企業内格差が拡大した企業が7割程度、年齢内格差が拡大した企業が8割弱存在することがわかっている。
 さらに、疾患に伴う長期休業で給与が支払われない従業員に支給される傷病手当金の件数や死亡した被保険者に支払われる埋葬料の件数を用いて、長期休業率や死亡率などを推測できる。そこで長期休業率や死亡率を健康状態の代理変数ととらえ、平均給与や、平均年齢、女性割合、給与格差などとの関係を分析した。その結果、平均給与が高い、平均年齢が低い、女性割合が高い組合の方がそれぞれ健康状態が良いことが確認された。さらにはこれらの変数の影響を調整しても、企業内格差、企業内の年齢格差が大きい企業の方が、健康状態が悪いことが明らかになった。
 長期休業を疾患別に区分した統計は全国的には集計されていないようだが、産業医や企業の人事担当者などにヒアリングしたところ、精神疾患がかなりの割合を占めているとのことである。厚労省の患者調査によると男性より女性の方が気分障害(うつ病・そううつ病など)の患者数が多いが、この研究では女性割合が高い方が長期休業率が低くなっている。一見、既存の統計と矛盾する研究結果に見えるが、これは女性が働きやすい職場環境の方がそうでない職場より健康状態が良いことを示唆しているのではなかろうか。

<一見、生産性を高めるように見える企業の意思決定が従業員の健康状態を悪化させて、かえって企業の生産性を損ねる可能性も否定できない>

 所得格差と健康の関係について、日本でも地域(都道府県・市町村)単位での研究が行われてきた。我々はこの研究で、職域単位(企業単位)においても所得格差が健康に影響を与えることを示した。確かに高齢者や子供にとっては生活の大部分を過ごす地域こそ健康状態に大きく影響を与える要素であろう。しかしながら、働いている現役世代にとっては、地域以上に職域が生活環境として大きな影響を与えていると思われる。本稿はこうした推察が正しいことを示唆していよう。
 既存研究において、企業内所得格差を包括的に測定した分析は少なくとも日本においては皆無と思われる。したがって、給与格差を含めた職場環境が従業員の健康状態、ひいては労働生産性に影響を与えるという分析結果だけでも学問的に大きな貢献があると思われるが、ここではさらに公共政策・企業経営に与える意味合いを考えてみたい。
 医療・健康産業は成長戦略の観点から注目されているが、その背後には高齢化に伴ってこうした産業への需要が増大するという需要面からの視点がある。しかし、人々が健康になることを通じて労働生産性が向上するという経路にも目を向けることが必要である。人的資本の維持・増進として健康をとらえ、そのなかで医療・健康産業の成長戦略を語るという供給面からの視点も必要であろう。
 またこれまで、経営者はここで示した健康と生産性との関係を考慮に入れたうえで、企業経営を行ってきたのであろうか。多くの企業では従業員の健康は法律で強制されてやるもの、あるいは、福利厚生の一環として行われるのもにすぎなかったというのが現実で、企業経営そのものが従業員の健康に与える影響など意思決定に際して考慮の対象外であっただろう。
 成果主義による賃金の決定や組織の意思決定の改革は、従業員のインセンティブを引き出すなどの点から必ずしも否定されるべきものではなかろう。しかしながら意思決定のプロセスや手続き、部下に対する接し方が不公平であると受け止められると、従業員の健康状態に影響を与えることが、近年指摘されている。一見、生産性を高めるように見える企業の意思決定が従業員の健康状態を悪化させて、かえって企業の生産性を損ねる可能性も否定できない。
 今後は、法律で定められた最低限の基準をクリアするという後ろ向きの視点ではなく、労働生産性の向上といった前向きな視点を交えて、職場環境の改善や従業員の健康に関する取り組みが積極的に進められるべきであろう。

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2010年3月15日 (月)

退職勧奨 一人で悩まない一人で決めない

【ごくごく普通の社員が退職勧奨を受けるケースが増えている】

 私は「退職勧奨・退職強要の横行と弁護士交渉」というブログ記事を2009年8月9日に書きました。その後退職勧奨は更に増えていると思います。しかも私が相談者とお会いして話を聞いても、なぜこの人が退職勧奨を受けるのかわからないケースが増えています。ごくごく普通の正規社員のしかも30~40代の働き盛りの人が退職勧奨を受けていることを知りました。企業の中には業界のトップ企業もあり、“えっ、この会社がこんなことをするのか?”と思うこともあります。
 退職勧奨がすべて違法というわけではありませんが、行きすぎた退職勧奨が増えていることは事実です。リーマンショック後の世界同時不況の長期化の中で企業経営者の焦りを反映しているのでしょうが、行きすぎると裁判所も違法行為として労働者からの差し止め請求や損害賠償請求を認容しています。

【一人で悩まない、一人で決めない】

 前の記事で書きましたが、退職勧奨を受けたときは一人で悩まずさまざまな人と相談することをお勧めします。上司から退職勧奨を受けると誰しも精神的に落ち込みます。“この組織はおれを必要としていない。おれは役立たずの駄目人間だ”という後ろ向き、下向きの考えに陥りがちです。多くの人がうつ状態になり、現実に精神科医の治療を受けることになった人も少なくありません。退職勧奨を受けうつ病を発症するのは、精神・身体の正常な反応と思われた方がよいと思います。あなたの精神が異常だからではありません。退職勧奨を受けると精神的落ち込みだけでなく、生活(経済)不安が現実のものとして迫ってきます。家族も動揺します。こういう時こそ支えてくれるのが妻(あるいは夫)であると思いたいですが、なかなか期待どおりにいかないのが現実です。うつ状態になった夫のもとでの生活に愛想をつかして奥さんが子どもを連れて実家に帰ってしまったというケースは少なくありません。次々と起こる現実からついつい自己否定的で後ろ向き、下向きな発想になりがちです。しかしよくよく考えてみてください。そんなにあなたは世の中に不要で有害な存在でしょうか。そんなことはないはずです。発想を前向き、上向き、積極的なものに転換する必要があります。とは言っても発想の転換は一人ではなかなかできません。こういう時こそいろいろな人の知恵を借りましょう。一人で悩まない!一人で決めない!これが鉄則です。退職届を出した後に争うのは多くの困難を伴います。

【最高裁で退職の意思なき教員への執拗な退職勧奨を違法として損害賠償の支払いを命じた原判決が維持された事例】

 最高裁でも執拗な退職勧奨を違法だと判断してくれています。
 ちょっと古い判例ですが、最高裁裁判所の判断はこれしかないので、以下に労働判例1989.9.15(345号)20頁のコメントをそのまま引用します。

<下関商業高校事件 最高裁一小 昭55.7.10判決 昭52(オ)405号 損害賠償請求 上告 棄却>

 被上告人S(明治41年生)は昭和27年から、被上告人K(明治40年生)は昭和26年から、いずれも下関商業高校の教諭であった。
 下関教育委員会は、従来から、退職勧奨制度を実施してきたが、被上告人Sに対しては昭和40年度末(当時57歳)から、被上告人Kに対しては41年度末(同59歳)から、毎年、校長および市教委を通して退職勧奨を実施してきた。しかし、両名ともこれに応じなかったので、市教委は44年度末においても、45年2月26日被上告人らに対し第一回の勧奨をなし、以後一貫して勧奨に応じないことを表明していたにもかかわらず、被上告人Sに対しては3月12日から5月27日までの間に計11回、同Kに対しては3月12日から7月14日までの間に13回にわたって、市教委に出頭を命じたうえで、教育次長ほか6名の勧奨担当者が1人ないし4人で、1回につき短い時で20分、長い時には2時間15分に及ぶ勧奨を繰り返した。また、被上告人らの要求した組合役員の立会いは拒否され、市教委は右組合の要求していた宿直廃止や欠員補充について、被上告人らが退職勧奨に応じて退職しない限り右要求に応じられないとの態度をとる等した。
 これに対し、被上告人らが、右退職勧奨は違法であるとして、上告人下関市、同市教育長および教育次長を相手として、各50万円の損害賠償支払請求をなしたところ、一審は、下関市に対し、被上告人Sに4万円、同Kに5万円を支払うべき旨判示し(山口地下関支判昭49.9.28労判213)、二審もこれを支持した(広島高判昭52.1.4後掲22頁)。本件は上告審であるが、本判決も3対2をもって原判決を支持した。
 従来の下級審は、定年制の存しない場合における退職勧奨の合理性を容認しつつも、それは説得等の事実行為にすぎず、それに応ずるか否かは対象者の自由意思に委ねられるべきであるから、退職勧奨がその自由な意思決定に対し「不当な心理的圧力を加えて退職を強制したり、あるいは任意退職を拒否する被勧奨者に対して合理的理由に乏しい不利益を与えるなどの形で行われることは許されない」(国鉄九州地方自動車部事件熊本地八代支判昭52.3.9労判283、福岡高判昭53.3.23カード299)とする点で共通していたといえる。右観点からすれば、原判決が引用する一審判決の認定するところからみると、本件勧奨行為には行きすぎが多かったみられ、これを維持した多数意見を妥当とみるべきであろう。ともあれ、この種の事件についての初の最高裁判決である点で、注目してよい事案といえよう。

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2009年8月 9日 (日)

退職勧奨・退職強要の横行と弁護士交渉

【横行する退職勧奨・退職強要】

 私が代表をつとめる銀座通り法律事務所の相談事例の中で、最近退職勧奨や退職強要に関する相談が増えています。退職勧奨というのは文字通りの意味としては使用者が社員に退職を勧めるということです。「勧める」という言葉の本来的意味は勧められる人の立場に立ち、その人にとってのより良き選択を助言するということにあります。ところが使用者による退職勧奨は当該社員の立場に立っての助言ではありません。当該社員をやめさせたいという考えが基底にあり、正面から解雇をすると後で争われるリスクがあるので退職を勧奨し、当該社員の意思で退職届を出させようとするものです。その場合には後で争われる余地がない(少なくなる)との判断からです。退職勧奨が勧奨の程度を超えて強圧的になされるのが退職強要ですが、退職勧奨にしろ、退職強要にしろ社員の側から退職届けを提出させるという目的は同じです。これを社員の立場から見ると退職届けを出した以上後で争うのはむずかしいという意味では大きな差はあまりありません(多少の差はありますが)。

【退職勧奨を受けた人の心理】

 退職勧奨を受けると誰しも大きなショックを受けます。自分では会社のために一生懸命働いてきたつもりなのに、ある日突然“君はいらない”と宣告されるわけですから、当然のことです。次第に家族のことが気になります。同僚や部下の目も気になってきます。日本の労働者は“闘い”を経験したことが皆無に近いですから、言われると不本意とは思いながらも退職を受け入れるケースが少なくありません。退職勧奨のときは使用者は一方で労働者の欠点をあげつらい、他方で退職金の上乗せを提案します。アメとムチによる追い出し作戦です。しかし、かつては年収の2年間分以上の上積みを提案するケースが少なくありませんでした。最近では給与1年分にも足りないケチな提案が目立っています。転職先の見通しもあって、かつ上乗せ額も満足のいくものであれば、退職勧奨を受け入れるか否かはそれこそご本人の選択の問題で、退職勧奨を受け入れ転職して転職先で重用されハッピーな展開になった人も過去にはありました。しかし今はハッピーな展開になることはほとんど期待できません。転職市場もかつてと比べて格段に狭くなっています。「おれ(私)をいらないという会社はこちらからごめんこうむりたい。」という一時の義憤から退職届を出すのはやめましょう。使用者が解雇をせず退職勧奨という手段をとるのはあなたを法的に解雇できないという弱味があると思った方がよいと思います。

【使用者は正当な事由がなければ労働者を解雇できない】

 使用者は労働者を自由に解雇することができません。貸家契約の場合に貸主が賃貸借契約を一方的に解約するには余程のことがないとできません。借家人保護のために借地借家法は正当な事由がない解約は無効としています。労働契約もこれと同じで、使用者が労働者を解雇するにあたっては正当な事由が求められ、それがない場合の解雇は無効です。このことは法律で次の通り明記されています。「解雇は、客観的に合理的な理由欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法第16条)。要は使用者が一方的に解雇するためには、①客観的な合理的理由と ②社会的相当性 の2つの要件をクリアする必要がありますが、判例は余程のことがないかぎり2要件の充足を認めません。解雇事件の多くは労働者が勝訴しています。

【退職勧奨を受けたときは労働組合と弁護士にすぐに相談することを勧めます】

<さまざまな人と相談しよう>

 退職勧奨を受けるとほとんど全員がパニックになります。平気でおれるのは長年労働組合運動をやってきた人位です。あわてて結論を出さないで、さまざまな人に相談することを勧めます。

<行政の労働相談>

 労働基準監督署や行政が主宰する労働相談所に相談するのも一つで法的・中立的なアドバイスをしてくれます。ただ例えば労働基準監督署は賃金不払いや偽装請負のような法律違反が明らかな場合は主体的に動いてくれますが、解雇に関しては主体的に動いてもらうことはあまり期待できません。このように行政への相談は一定の限界がありますが、中立的立場から客観的な意見を述べてくれるという意味では相談してみる価値はあります。

<企業内組合への相談>

 日本の労働組合は企業内組合がほとんどで、しかも組織率も18%しかありません。ヨーロッパや韓国の労働組合は企業や政府と断固とした姿勢で闘っていますが、日本の労働組合は闘わない労働組合です。闘わない労働組合ではありますが、就業規則・退職金規定などの社内規定や、その会社における過去の解雇・退職事例等について一定の情報をつかんでいます。企業内組合でも親身になって相談に乗ってくれる人もいます。自分が組合員でなくとも遠慮なく相談してみることをお勧めします。相談した後で組合に加盟することも可能です。ただ企業内組合に相談すると時には、あなたが相談したことが会社に伝わる可能性があることを頭において相談してください。

<個人加盟の地域ユニオンへの相談>

 企業内労働組合が全く闘わないため最近では個人加盟の労働組合が○○ユニオンとしてあちこちにできています。これらは職場に根ざした労働組合ではありませんが、労働組合法上の正当な労働組合であり、あなたの会社と団体交渉をする権利があります。団体交渉でらちがあかなければ都道府県の労働委員会に救済申し立てをすることができます。

<弁護士への相談>

 私は企業内組合や地域ユニオンとともに弁護士への相談も同時にすることをお勧めします。最後は裁判で勝てるかどうかは、あなたが最終決断をする上で重要なポイントです。法的な裏付けがあれば、使用者が強硬であっても一歩も引く必要はありません。
 これまで弁護士の役割は会社に退職勧奨をやめるよう内容証明郵便を送ったり、解雇された場合は仮処分や労働審判や訴訟をおこすという形態のものが主流でした。弁護士が直接会社と交渉するということはあまりしませんでした。しかし、本人まかせにすると会社の組織力といやがらせに負けて本人は退職してしまうケースが多いのが現実です。退職届けを出した後で争うのは法的には大変困難です。そうしたことから銀座通り法律事務所では退職勧奨を受けたときから弁護士による代理交渉を積極的に行うことを心掛けています。弁護士がつくと会社は一時的にカチンとくることは確かですが、会社主導の流れが一変することも確かです。私は本人交渉で解決できる場合には本人にまかせますが、それではらちがあかないときは本人と相談の上、弁護士が代理人として会社と直接話し合いをします。その結果、退職勧奨を撤回したり、退職条件を有利に決着させることができたケースが少なくありません。代理人による交渉をするのが良いのかどうかも含めて弁護士に相談することをお勧めします。
 弁護士との相談料は、30分以内5,250円、60分以内10,500円です。
なお、銀座通り法律事務所に相談を希望される方は、働く市民の弁護団相談メールをご利用ください

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2009年7月 6日 (月)

連合の「雇用における障害差別禁止法」案

【連合の「雇用における障害差別禁止法」(仮称)制定について】

 連合は第20回中央執行委員会(2009.5.21)で確認の上、連合の「雇用における障害差別禁止法」(仮称)制定についてを発表しました。その内容はこちら(連合ホームページhttp://www.jtuc-rengo.or.jp/roudou/seido/shougaisya_koyou/data/20090521.pdf)をご覧下さい。内容についていくつか検討すべき点があることはありますが、大筋では連合がこのような案を発表したことは大変意義深く、障害をもって働く労働者にとっては大変心強いことだと前向きに評価したいと思います。

【連合主催によるシンポジウム「雇用における差別禁止法」をつくろう開催】

◆日時 2009年6月29日(月)14:00~17:00
◆場所 全電通労働会館2F「全電通ホール」
◆主催 日本労働組合総連合会(連合)
◆参加対象 構成組織・地方連合会、障害者団体、一般、マスコミなど 150人程度
◆開催内容
*主催者代表挨拶
 古賀 伸明  連合事務局長

*基調講演「国連の障害者権利条約について」
 長谷川 珠子 成蹊大学法学部講師

*厚生労働省「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」中間整理について
 吉永 和生  厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課長

*連合の「雇用における障害差別禁止法」(仮称)について
 長谷川 裕子 連合総合労働局長

*障害者関連団体、労働組合からのコメント
 西村 正樹 (自治労障害労働者全国連絡会代表幹事)
 土師 修司 (社会福祉法人電機神奈川福祉センター理事長)
 下堂園 保 (NPO法人タートル理事長)
 尾上 浩二 (DPI日本会議事務局長)
 長谷川 裕子(連合総合労働局長)

*閉会

 私は、全国働く障害者ユニオンの組合員や障害児・者人権ネットワーク会員とともに一聴衆として参加しました。

【厚生労働省「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」中間整理について】

 これについては、吉永和生 厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課長から発表がありました。その内容はこちらをご参照ください(厚生労働省ホームページ〔労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会(第11回)議事次第 資料〕)
 私はこの中間整理は次のとおり現行の障害者雇用率制度を無批判のまま積極的差別是正措置として高く評価していることに危惧しています。

【障害者雇用率制度の位置付け】
○ 差別禁止の枠組みと、現行の障害者雇用率制度との関係については、実際問題として雇用率制度は障害者の雇用の促進に有効であり、差別禁止の枠組みと矛盾しない、積極的差別是正措置(ポジティブアクション)に当たるとの意見が大勢であった。

 私がこれまでも述べてきましたように現行の障害者雇用率制度は厚生労働省の企業に甘い運用の結果、障害者は契約社員・嘱託社員などの非正規雇用に固定化されつつあります。この点の改革なしには現行の障害者雇用率制度が積極的差別是正措置と言えず、むしろ差別固定化措置と言った方が的確です。
 シンポジウムで私は連合に現状の雇用率制度の改革に取り組んでほしい旨述べました。これについ長谷川裕子連合総合労働局長より連合の労働契約の基本はすべて「期間の定めのない契約」と考えており、障害者雇用についても、同一姿勢で取り組んでいきたいと回答がありました。

【働く障害者の弁護団の今後の取り組み】

 法定雇用率制度で採用されている障害者の雇用形態について今後独自に調査を進めていきたいと考えています。また、実態調査のため「障がい者非正規雇用110番」なども検討したいと思います。ただ、障害者団体も弁護士もいろんな課題に追われているため十分な取り組みができるか一寸心配な面があります。とはいえ政局が流動化する中で、国連の障害者権利条約を大きな後ろ盾として、今こそ障害者の権利に根ざしたしっかりとした国内法をつくるベストチャンスだと思います。多くの人と力をあわせてその実現に向け取り組んでまいりたいと考えます。

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2009年6月29日 (月)

障害者の正社員扱いを求める訴訟を検討

【訴訟に向けてご意見をお寄せ下さい!】

 6月21日のブログで私の論文「裁判に見る日本の障害者雇用の現状」を紹介させていただきました。その同じ日に朝日新聞が「進まぬ障害者雇用」という記事を掲載していました。この中で18年間「一般嘱託」という非正規社員のため18年間で月給はわずか2千円しか上がらず、住宅手当も家族手当もない加賀沢志のぶさん(50)のことが紹介されていました。私は論文の中で障害者の雇用の促進等に関する法律は「常時雇用する労働者」のみを法定雇用率の対象とする労働者としており、これは正規雇用労働者を指します。それにもかかわらず国(厚生労働省)は非正規雇用でも常時雇用する労働者としてカウントするという企業に甘い運用をしていることを指摘しました。加賀沢さんは国による障害者差別の容認の犠牲者と言えます。加賀沢さんにかぎらず多くの障害者が非正規雇用のため不安定な地位にあり解雇(雇い止め)をされても争えない弱い立場にあります。働く障害者の弁護団はこれら非正規雇用の障害者の方を原告、国と企業を被告とする訴訟提起を検討したいと思います。訴訟提起が可能かどうか、可能としてどのような訴訟になるか、まだ検討の段階ですが、関心をお持ちの方は是非働く障害者の弁護団にご意見をお寄せ下さい。
 以下、朝日新聞の記事「進まぬ障害者雇用」を紹介します。

【現状は、企業の過半、法定義務下回る】
                     (6月21日 朝日新聞 より)

 東京都港区のオフィスビルの一室。障害者7人がパソコンの操作やビジネスマナーを学ぶ。NPOが企画した障害者向けの就職支援プログラムだ。
 参加者の男性(40)は元イラストレーター。交通事故で手に障害が残り、4年前から派遣社員として自動車関連の工場で働いていた。不況を理由に今年1月に「雇い止め」された。再就職先はまだ見つからない。
 景気の低迷で、08年度に解雇された障害者は、前年度の1.8倍の2774人に上る。ハローワークを通じて求職のあった11万9765件のうち、就職できたのは4万4463件で、就職率は37.1%と前年度より5ポイント余り下がった。
 日本で障害者の働く場は、一般の企業と、作業所などの福祉施設に大別される。知的障害者が通う作業所で公園清掃などをしてきた参加者の女性(26)は、企業への就職を目指す。「作業所の工賃は安い。企業で働いて、生活費を親に渡したい」と話す。
 企業には、障害者雇用促進法で、全従業員数の1.8%分の障害者を雇うことが義務づけられている。だが、実際の平均雇用率は1.59%で、過半数の企業が未達成だ。
 たとえ雇用されても差別を受けるケースも少なくない。
 大手損害保険会社で保険金の支払い業務を担当する前橋市の加賀沢志のぶさん(50)は、両足に障害がある。入社してから18年間、正社員と同じように働いてきた。
 しかし、18年間で月給はわずか2千円しか上がっていない。正社員に支給される住宅手当や家族手当もない。この企業が、主に障害者雇用のために設けている「一般嘱託」という非正社員での採用だからだ。
 加賀沢さんは、個人で加入できる労働組合に入り、待遇改善を求めて会社と団体交渉を続ける。「正社員並みの仕事をさせながら、障害を理由に低い待遇に抑える差別は許せない」と訴える。

【私のコメント】Up63

 個々の企業には待遇改善を求めるとともに国の運用の誤りを正す必要があります。

【欧州は、働く場を確保、差別禁じる法】
                     (6月21日 朝日新聞 より)

 欧州では伝統的に障害者の雇用を促す手厚い政策がとられてきた。これはもともと障害者雇用が第1次世界大戦後の戦傷者らの雇用保障政策から出発したためだ。国家補償の理念に基づき福祉に重点を置いた制度がつ作られ、一般の障害者にも適用が広がった。
 障害者の働く場を確保することが重視され、日本と同じ割り当て雇用制度を持つドイツ、フランスの法定雇用率は、日本より高い5%、6%だ。国や自治体が費用を補助して自活できる賃金を保障する制度も広く普及している。
 90年代の経済停滞の中で、欧州各国は福祉政策の見直しに着手した。障害のある人もない人も共に暮らす「ノーマライゼーション」の理念も広がるにつれて、障害者の「働く権利」を保障し、個々の障害に応じた就労を支援し、労働市場に受け入れることを重視するようになった。
 95年に制定された英国の障害差別禁止法では、障害を理由に採用や昇進などで差別することは違法と定める。欧州連合(EU)は00年、雇用均等指令を出し、障害にかかわりなく雇用について均等に待遇するよう加盟国に求めた。
 これを受けて、欧州ではほとんどの国に障害による差別を禁止する法制がある。この中には、使用者に過度の負担とならない限り個々の障害者の特性に合わせて労働条件や環境を調整する「合理的配慮」の義務づけも含まれる。施設のバリアフリー化や通院のための休暇、手話通訳を置くことなどが求められる。国連は06年、合理的配慮を義務づけた障害者権利条約を採択し、日本も批准に向けて対応を迫られている。
 引馬(ひくま)知子・田園調布学園大学准教授は「欧州は割り当て雇用に加え合理的配慮を含む均等法を定め、多様な施策で障害のある人とない人の間の壁を低める努力を続ける。割り当て雇用に重点を置く日本も、差別禁止法制を検討する時期に来ている」と話す。

【私のコメント】Up63

 欧州のみならず、韓国でもしっかりとした障害者差別禁止法が制定されました。日本も80年代までは政府の側もノーマライゼーションの理念を広げる動きがありましたが、90年代の経済停滞の時期に欧州とは逆にノーマライゼーションの流れを30年以上逆戻りさせました。その最たるものが小泉内閣が2005年に成立させた障害者自立支援法です。

【課題は、訓練から労働へ 後押し必要】
                   
(6月21日 朝日新聞 より)

 日本企業では、義務づけられた法定雇用率の未達成が続く。このため昨年、障害者雇用促進法を改正し、これまで制度の対象外だった従業員300人以下の中小企業にも段階的に適用する。未達成の場合は、不足分1人当たり月4万~5万円の納付金を国に納めなければならない。だが、「障害者を雇うよりも、納付金を払った方が安い」と判断する企業も多い。
 これまで多くの障害者の受け皿となってきたのは授産施設や作業所といった福祉施設だ。こうした施設は「訓練」の場と位置づけられ、最低賃金など労働法の対象外だった。障害者が受け取る工賃は平均で月約1万2千円と、生活を支えるにはほど遠い。
 このため、06年に施行された障害者自立支援法は「福祉から雇用への橋渡しの強化」を目指す。企業への就職を目指す障害者がビジネスマナー講習などを受けられる「就労移行支援事業」を新設。福祉施設で働く障害者についても、訓練型に加え、雇用契約を結ぶ雇用型が導入され、最低賃金の保証や社会保険の加入も義務づけられた。
 これまで福祉施設から企業に就職する障害者は年間約2千人。政府は11年度までに年間9千人の移行を目指す。
 だが、福祉と雇用のはざまで矛盾も残る。同じ障害者でも、公共の職業訓練施設で受講すると無料で、手当が出ることもある一方、福祉施設では応益負担として原則、利用料を支払う必要がある。
 日本障害者協議会の勝又和夫代表は、こう訴える。「障害者だからといって『訓練』で一生を終えるのはおかしい。基本的には『労働』と位置づけ、労働法を適用すべきだ。障害の程度により働く能力には差がある。企業や施設に、国が賃金の補填をすることで、雇用を後押しする必要がある」 (山根祐作。松浦祐子)

【私のコメント】Up63

 障害者権利条約は締約国に障害者が働きやすい職場環境等の改善を義務づけていますが、日本の国内法(障害者基本法と障害者の雇用の促進等に関する法律)は健常者に近づけるための障害者の改造(訓練)を重視しています。障害者権利条約と日本の国内法は法思想が全く異なります。しかも、天下の悪法障害者自立支援法は訓練について応益負担と称して障害者から利用料をとることにしています。国の財政再建のために経済的弱者からお金をむしりとろうとするもので、後期高齢者に医療費の負担を求めるのと共通するものです。

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2009年2月22日 (日)

障害者にも解雇の嵐 実習訓練さえ中止

         (2月15日 朝日新聞大阪本社版「時時刻刻」 より)

【私の意見】Up63


<常用労働者で有期契約>

 日本では民間企業が障害者を雇用しなければならない割合(法定雇用率)を1.8%と定めています。法律はこの法定雇用率にカウントできる障害をもった労働者は「常用労働者」でなければならないとしています。「常用労働者」を素直に解釈すれば法律は正規労働者としての雇用を求めていることが明らかですが、厚生労働省は一般労働市場で非正規労働がほとんどない時代から、障害者雇用は日々の契約(1日契約)でも1か月契約でもよい、とにかく1年以上雇用することを前提としてさえいればすべて「常用労働者」にカウントするという、企業にきわめてゆるい、やさしい指針を出しました。ですから障害をもって働く人の多くは早くから非正規雇用(有期雇用)です。

<万国の女性労働者立ち上がれ!>

 政府は昨年12月法律を改正し障害者をパート(短時間労働)で雇用した場合は0.5人分の雇用として法定雇用率にカウントするとしました。パートはこれまで主として女性が主婦としての生活との両立のなかで選択した雇用形態でした。これ自体とても低賃金で日本の経済界は女性労働者を搾取し続けていると私は思っています。いつか女性労働者がゼネストをしてくれれば、日本の労使関係はずいぶん変わるのになと時々思います。万国の女性労働者立ち上がれ!そこまで発展しないのは男子(夫)の労働の補完として巧妙に位置づけられているからだろうと思います。

<障害をもって働けるだけマシ>

 さて障害者雇用に話をもどしますが、障害をもった労働者のパート労働は配偶者の労働補完ではありません。国は障害のある労働者が自らの稼ぎで食べていける制度を確立するべきです。ところが今日本政府の進めようとする障害者施策は障害をもった労働者を低収入に固定化するものです。“福祉から労働へ”という考え方に異論はありませんが、これを推進する政府や地方自治体の側に“障害をもって働けるだけマシ”という障害のある人の尊厳を否定する考え方が基底にあるように思えてなりません。

 朝日の記事は一寸長いですが全文紹介します。

【実習訓練さえ中止】

 障害者の雇用が世界的な不況に揺らいでいる。国の調査では昨年末から解雇者が倍増しているが、数字に表れない非正規雇用の「雇い止め」などを含めると、実態ははるかに深刻、との指摘もある。賃金カットや実習受け入れ中止も相次ぐ現場で、社会的自立は担保されるのか。なりふり構わぬ障害者リストラの拡大に、明日への不安が募る。(高島靖賢、山内深沙子、滝川卓史)

 「もう仕事がない。申し訳ないが、今月で辞めて欲しい」。岡山県内の電子部品工場。1月下旬、ここで働いていた知的障害者の男性(38)が事務所に呼ばれ、解雇を言い渡された。
 社員20人ほどの小さな工場で組み立て作業を担当していた。状況が一変したのは昨年11月だ。受注激減で勤務時間が半分になり、月10万円あった手取り収入は半分以下に落ち込んだ。12月には1日3時間勤務に。年明けから仕事は工場の掃除だけになった。
 会社には10年以上勤めた。職場の上下関係がすぐのみ込めないなどコミュニケーションに課題はあったが、覚えた仕事をコツコツとこなしてきた。同僚も障害を理解して優しく接してくれた。月給と障害基礎年金をあわせ、アパートで1人暮らしもできた。
 以前働いていた会社でも解雇された経験がある。失業が1年以上続き、福祉施設の職員がつてを頼りにやっと見つけてくれたのが、この工場だった。
 人生2度目のリストラ。「時間があるから」と本人が申し出て、近所にある就労支援のための作業所で、割りばしの袋詰めなどの軽作業を無償で手伝い始めた。貯金は残り約70万円。当面は年金と失業給付でやりくりするが、給付が切れるまでに職が見つかる保証はない。「家族には頼りたくない。また働ける日は来るのかな」。つい不安を口にした。
 全国206か所にある「障害者就業・生活支援センター」には、解雇や賃金カット、出勤日の激減など苦境に立たされた障害者からの相談が絶えない。
 「1月から時給を748円から600円に下げると言われた」。昨年末、大阪府内のセンターに知的障害のある20代男性から、こんな相談が寄せられた。約2年前からリサイクル工場で働いていた。
 男性の時給額は府の最低賃金。会社側は経営悪化を受け、障害者の最低賃金を減額する特例許可を労基署に申請していた。センターから事情を聴かれると、「彼を雇い続けるための苦渋の決断。給料を下げるしか方法がなかった」と説明したという。
 和歌山県内のセンターには昨年末、就労支援団体から「実習生の受け入れを断られた」との相談があった。障害者とジョブコーチが企業で実習する障害者自立支援法の制度を活用し、メーカーの下請け工場で数人の障害者が実習訓練を受けていた。受け入れ中止の理由は、受注の落ち込み。センターの担当者は「就労への大切なステップなのに・・・」と肩を落とす。
 滋賀県のある養護学校は昨年10月以降、就職活動での体験自習を受け入れていた複数のメーカーから、相次いで受け入れを断られた。今春の就職希望者のうち半数は、まだ就職先が決まっていない。

【氷山の一角にすぎない】

 「働く障害者の弁護団」代表の清水建夫弁護士の話  統計に表れる障害者の解雇数は「氷山の一角にすぎない」。障害者の場合、パートや契約社員など非正規雇用で働く人が圧倒的に多く、契約期間満了による「雇い止め」や、強引に自己都合退職に追い込まれた事例を含めると、状況はより深刻だ。不況が続けば、人件費が高い中高年の障害者をリストラの標的にする恐れが強まるだろう。

【弱い歯止め 届かぬ理念 就業規則 リストラに利用】

 従業員数56人以上の企業は、1.8%(法定雇用率)以上の障害者を雇うことが義務付けられている。だが、08年の障害者雇用率は1.59%。過去最高を更新したとはいえ、達成企業の割合は44.9%と半数以下にとどまる。
 法定雇用率を達成できない企業には、1人につき月5万円の納付が課されるが、低額すぎて解雇や退職勧奨の歯止めにならない、との批判もある。さらに、現時点で納付義務があるのは従業員数301人以上の企業だけで、相当数の中小企業は対象から外れる。
 もう一つ、社会的弱者の解雇のハードルを低くしてしまう課題として挙げられるのが、企業の就業規則だ。
 今なお、多くの会社には「精神または身体の障害により業務に耐えられないと認められたとき」は社員を解雇できる、とする就業規則が残る。
 障害者の人権問題に取り組む弁護士有志でつくる「はたらく障害者の弁護団」によると、業績が悪化するとこの規定を持ち出し、露骨な解雇をしようとする企業があるという。
 本来は解雇を決める前に、障害者が働き続けられるように職場環境を整える「合理的配慮」が企業側に欠かせない。視覚障害者のために音声変換ソフトのパソコンを導入するのは、その一例だ。ただ、こうした理念が十分浸透しているとは言い難い。

【昨年11、12月 急に悪化】

 厚生労働省によると、障害者の雇用状況は急速に悪化している。全国のハローワークに届け出があった昨年10月の障害者の解雇者数は125人で、07年度の月平均(126.9人)と同水準だったが、11月には234人に急増。12月も265人に上った。
 資料が残る00年度以降の解雇者数を見ると、01年度の4017人から減少傾向が続き、07年度は1523人だった。だが、08年度は4月から12月までの合計がすでに1411人に達し、前年度を大きく上回るペースだ。
 障害者を解雇した企業はハローワークに届け出る義務がある。ただ、制度を知らずに無届けで解雇する企業も相当数に上るとみられる。
 同省は「障害者は一度離職すると再就職が非常に困難であり、解雇者の増加は深刻な問題」(障害者雇用対策課)として10日、日本経団連に障害者雇用の確保などを要請した。ハローワークの障害者専門支援員を全国で70人増員したほか、障害者を雇いいれた中小企業への助成金を昨年12月から段階的に拡充するなどの対策を講じているが、効果は不透明だ。
 企業からの下請け作業が運営の柱だった障害者施設を取り巻く状況も厳しい。
 全国社会就労センター協議会は1月から2月にかけて、加盟1543の施設を対象に、景気後退による受注減少などの影響を緊急調査。その結果、回答があった632施設のうち416施設が「目立った影響があった」と答えた。
 職業別では、自動車関連が144で最多。次いでリサイクル関連51、段ボール関連20、印刷関連19の順だった。同協議会は今後、国や地方自治体に障害者の積極採用を含む雇用対策を求めていく方針だ。

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