2008年5月18日 (日)

増える若者のうつ

    (NHK「きょうの健康」 6月12日放送(6月19日再放送))

【神庭重信 九州大学大学院教授】

神庭重信(かんば・しげのぶ) 経歴:1954年生まれ。80年慶應義塾大学医学部卒業。専門は精神医学、特に気分障害、精神科薬物療法、ストレス科学、行動遺伝学  九州大学病院(精神科・神経科) 

 「うつ病」は中高年に多い病気ですが、最近では若い年代の人にも増加しています。若者の場合は、起こりやすいタイプ、症状、薬物療法の効果、周りの人の対応方法など、典型的なうつ病とは異なる点が多くあります。

【若者のうつ 中高年に多い典型的なうつ病とは異なる特徴をもつ】

 最近若者にうつが増えています。“うつ”とは、うつ病を含むうつ状態全般を指します。うつ病の患者数は中高年が最も多いのですが、厚生労働省の調査によると、10歳代後半から30歳代前半の人のうつ病が、3年間で約1.5倍に増えているのです。また、日本の若者は諸外国の若者に比べ、うつ病になりやすい傾向があるともされています。
 若者のうつは、うつ病とまではいえない“うつ状態”であることが多く、中高年によくみられる典型的なうつ病とは、いろいろな点で異なります。例えば、中高年でうつ病を発症しやすいのは、「まじめ」「几帳面」「責任感が強い」といった傾向があり、非常に一生懸命仕事をする人です。自分の役割や社会の規範などを重視し、周囲の期待に応えようとすることで無理が生じてしまいます。
 これに対し、若い人でうつになりやすいのは、自己への愛着が強い人、“自分は何でもできる”という漠然とした自信を持っている人、社会的な規範への抵抗感をもつ人、周りの環境にうまく適応できない人などです。伸び伸び育ってきた若者が、社会の規範やビジネスの世界における成果主義、厳しい上下関係などに適応できず、うつ状態になることがあります。

【若者のうつの症状 倦怠感が長引きやすく周囲や環境を非難することが多い】

 中高年に多い典型的なうつ病では「憂うつ感」「意欲低下」「倦怠感」といった症状が現れますが、これは若者のうつでも共通しています。これらに加え、「睡眠障害、食欲低下、不安感、イライラ、焦燥感」といった症状もよく現れます。
 若者のうつに特徴的なのは、倦怠感が長引くことです。その結果、なかなか職場に復帰できず、無理をして戻ろうとすると「めまい、吐き気、頭痛」といった不快な症状が現れたりします。
 また、自分がうつ病になって会社に行けないのは“上司が悪いからだ”“仕事が合っていないからだ”というように、自分ではなく、他人や周囲の環境の責任にして非難する傾向があります。
 中高年の典型的なうつ病では、症状が現れてもうつ病だとは認めたがらず、“自分の頑張りが足りないからだ”と考えがちです。ところが若者のうつでは、みずから“うつ病である”と考えたがることが多いのが特徴です。治療中も、うつの症状が残っていることにこだわったりします。

【診断】

 うつ病の症状が、ほぼ毎日、一日中現れていて、それが2週間以上続く場合には、うつ病だと考える必要があります。
 若者のうつは、うつ病と同じような症状が現れる「双極性障害」や初期の「統合失調症」と見分けにくく、また、「パーソナリティー障害」、「発達障害」などが原因でうつ状態になっていることもあります。うつが疑われる症状が見られたら、きちんと精神科を受診し、早い段階から適切な対策を講じていくことが大切です。

【若者のうつの治療 抗うつ薬が効きにくい傾向があり、環境の改善が特に重要】

 うつ病の治療は通常、「休養」、抗うつ薬などによる「薬物療法」、考え方を変える認知療法などを含む「精神療法」が3本の柱となります。中高年の典型的なうつ病の場合、これらの治療によって、多くは3ヶ月~半年ほどでよくなっていきます。
 ところが、若者のうつでは、この3本柱の治療だけでは解決しないことが多いのが実情です。症状が重いときには3本柱の一般的な治療を行いますが、簡単に効果が現れないこともあります。
 特に薬物療法で使う抗うつ薬は、中高年のうつ病にはよく効きますが、若者のうつには効きにくく、症状が慢性化しがちです。さらに、若い人が抗うつ薬を服用した場合、服用開始から約2週間の間に、「気持ちが高ぶる、イライラする、死にたい気持ちが強まる」といった副作用が現れることがあるので注意が必要です。
 特に24歳以下の人では、抗うつ薬の服用初期に自殺したいという願望が強まる危険性が若干ながらあるため、使用については十分に検討される必要があります。薬物療法は、プラス面とマイナス面を考慮し、慎重に行われなければなりません。
 症状が軽くなってきたら、医師と一緒に、“どんな環境に置かれていて、どんなストレスがあるか”など、うつのきっかけとなっているストレスの原因を整理します。そのうえで、環境を変えたり、足りない能力を習得する手助けをしたりして、患者さんが環境に適応していくのを支援することが、若者のうつの重要な治療となります。

【周りの人の対応 典型的なうつ病と異なることを理解し、環境を整える努力が必要】

 若い人のうつは中高年に多い典型的なうつ病と異なるため、周りの人は特に次の点に注意します。
 若い人のうつは“怠けている”と誤解されがちですが、本人は非常に苦しんでいます。周りの人はその苦しさを理解し、休養と服薬を勧めるようにします。
 典型的なうつ病は、抗うつ薬を服用して休養していればよくなることが多いのですが、若者のうつでは薬が効きにくく、治療に長い時間がかかることも少なくないことを理解してください。
 周りの人は、医師との連携を深めて社会復帰のためのリハビリテーションを支え、さらには勤務先や学校とも協力しながら、患者さんの環境を整えることを考えるのも非常に大切です。
 また、本人を責めないようにします。患者さんを追い詰めて逃げ道を塞いでしまうような対応をすると、自傷行為に走ったりすることもあるため、避けなければなりません。なるべく本人のよいところをほめるように心がけ、前向きに社会復帰しようという気持ちをもたせることが大切です。

【私の意見】Up63

 日本の若者は世界でもとびぬけて危害を加えないやさしい“生きもの”です。私は時々若者の街と言われる渋谷を訪れることがあります。たくさんの若者がいますが、恐いと思わせるようなニイちゃんもネエちゃんもいません。みんな他人のことに無関心です。昔は“眼をつけた”と言ってすごむ若者が時々いましたし、若者同士の喧嘩も時々ありました。渋谷はほんとうに安全なまちです。もともと日本人は殺人の発生率は米国、英国、フランス、ドイツの5分の1ないし3分の1です。若者の殺人や強盗の発生率は他の世代よりも多いのが各国共通です。日本も昭和20年代はそうでしたが今では若者は大人世代と変わりがありません。それだけ日本の今の若者はとびぬけて安全です。
 私たちは青年期によくキレました。キレて友人やまわりの大人と口論になり時にはとっくみあいの喧嘩となりました。でも今の若者は職場で傷つくようなことがあるとキレる前に自分の中にとじこもる傾向があるように思います。
 働くうつの人のための弁護団に休職中の若い人の復職相談が時々あります。ご本人からの相談と両親を通じての相談があります。弁護団から勤務先に働きかけると、多くの場合勤務先は一定の職場環境の改善の努力を示しますが、根本的な解決でないため休職期間が満了により退職したというケースも少なくありません。
 相談を受けながらやさしい“彼にとって”“彼女にとって”魅力のある生き方は何だろうと思いをめぐらしますが、いい処方箋がなかなか見つからないのが私の悩みです。

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2008年4月 1日 (火)

AERA 派遣うつをうつの弁護団が支援

  AERAの4月7日号(3月31日発売)に「『派遣うつ』原因は正社員」という記事が掲載されています。その中で「働くうつの人のための弁護団」の立場から私がコメントした記事が掲載されていますのでご紹介させていただきます。

-以下AERA記事(文・編集部浜田奈美)より-

【「派遣うつ」原因は正社員】

<今や非正規雇用者は1730万人以上。数では正社員の半数に及ぶが、職場での立場は弱く、うつになる人も多い。「心の安全網」も不十分だ。>

 「大変ですねえ。思い切って社員さんに、一度キレてみたらいいじゃないですか」
 自分より2歳年上の派遣元の担当者の言葉に、派遣社員のタカコさん(仮名、28)は耳を疑った。派遣先での仕事量の多さや正社員との人間関係の難しさに、精神的に不安定になり、相談を持ちかけた矢先のことだ。タカコさんはそれ以上相談する気になれず、やりきれない思いで帰途についた。
 「キレて解決できるものなら、とっくにそうしてますよ。それができないのが派遣のつらさなのに。何もわかってないんだと知って、ショックでした」

【オレ忙しいから頼むよ】

 タカコさんが、いま勤務する都内の広告会社に「事務補助」として派遣されたのは2年前だった。営業系の超多忙な職場で、タカコさんは、忙しい正社員たちに代わって電話応対や資料整理、経費書類の作成などを任されている。多忙な部署だけに殺気立つ瞬間も多いのだが、そんな時はタカコさんにも緊張が走る。正社員にかかってきた電話を本人に転送しようと試みて、正社員がいらだち紛れに、「何よ、今すごく忙しいのよ」と、電話口でタカコさんにいわれのない不満をぶちまけることが多々あるからだ。
 「オレ忙しいから頼むよ」と、本来なら自分でやるべき雑用を言いつけにくる社員も、タカコさんが職場に慣れるにつれ増えた。景気づけに職場で宴会がある時は、生ゴミやお酒の片づけを当然のように、「タカちゃん、よろしくね」と任せて二次会に消える社員をよそに、生ゴミと格闘して残業するパターンも度々あった。
 週5日、残業を含めて月収20万円弱。正社員たちはそのダブル、いやトリプルスコアの給料を手にしていると思うと、「いったい、どこまでが自分の給料分の仕事なんだろう」などと考えてしまう自分自身に、さらに落ち込む。
 1年半がすぎた頃、職場で突然、脈絡もなく泣き出してしまった。心療内科を訪ねてみようかと迷ったけれど、職を失いたくない一心でギリギリまで踏ん張ろうと、まずは派遣元の担当者に相談したのだった。
 タカコさんは半ばあきらめたようにこう語る。「『実はうつです』なんて派遣社員が言ったら、『元気なやつよこせ』って言われてクビですよ。だからせめて部署替えを相談できたらと思ったんですが」

【人脈なく相談できず】

 職場のうつの深刻化が指摘されて久しい。最近の調査では、厚生労働省の労働安全衛生基本調査(2006年9月発表)で、従業員10人以上の約8500民間事業所のうちメンタルヘルスを理由に休業した従業員がいる事業所は3.3%。従業員1000人以上の事業所に限れば、8割以上に至った。仕事上のストレスによる精神障害で労災認定を受けた人も、06年度は前年度の1.6倍、過去最多の205人だった。

 人材マネジメント会社「アトラクス ヒューマネージ」では昨年、全国の企業約100社の従業員1400人を対象に独自のストレス検査を実施した。その結果、「正社員」と「非正社員」とでは「非正社員」の方がストレスの対処がうまくいっておらず、身体の不調や憂鬱感をより強く感じていることがわかったという。
 同社の斉藤亮三代表取締役社長はこう分析する。「非正社員は正社員に比べて人的サポート、特に上司からのサポートが得られていない、と数値に表れています。人的サポートの代表的手段が『相談』。相談によってストレス軽減が期待されますが、一般的に非正社員は正社員ほど社内の人脈が豊富ではなく、相談しづらい立場なことが、ストレス状態を悪くしていると考えられます」

【過労で嗅覚まひの後・・・】

 しかし、不幸にして何一つ“心のセーフティーネット”にアクセスできず、最悪の結末を迎えたケースもやはりある。上段勇士さんが23歳で自らの命を絶ったのは1999年3月のことだった。

 98年の年末、上段さんは家族と過ごすため東京の実家に帰宅。やつれ、憔悴した上段さんを自宅に残して母親ののり子さんが外出し、戻ると、家は「カビキラー」の刺激臭が充満し、上段さんはその中で風呂掃除をしていた。嗅覚が鈍っていたのだ。
 目隠しをして様々な調味料の味見をさせても識別できない。ほぼ完全に嗅覚も味覚もまひした、深刻なうつ状態。その3ヵ月後、上段さんは遺書らしき文言を部屋に残して命を絶った。

 のり子さんはこう振り返る。「よく『つらければ言えばよかったのに』と言われますが、非正社員はそうできないことを前提に雇用されています。『いつでも解雇するぞ』という姿勢を感じて生活するから、必死に働きます。それなのに、勇士が過労ラインを超えていることを把握できる上司が、職場に一人もいなかった。正社員である上司が、派遣や請負社員たちの仕事内容をよく知らないのです。正社員が命令だけを下し、非正社員が手足となって働く。そんな理不尽な現場に、何も知らずに社会人の第一歩を踏み出した勇士が不憫でなりません」

【法的手段も活用を】

 もしも自殺に至らなかったとしても、「治療」だけでは決してすまされないケースである。こういう場合、法的アプローチで安易な首切りを阻止したり、労災申請で「実例」を重ねたりすることが大切だ。
 05年、「働くうつの人のための弁護団」を結成した清水建夫弁護士は、非正規雇用者がうつなどを発症した場合でも、労働時間の超過や複雑な人間関係などの「業務起因性」を立証することで、地位保全や解雇権乱用阻止も十分可能と強調する。「派遣先がよく変わる派遣社員でも、派遣元に対して安全配慮義務責任を問うことができますし、日雇い派遣でも、現場に行ったら仕事がなかったという繰り返しでうつになった人などは、裁判で勝てる可能性がある。非正規の人も『うつは自分の責任』と泣き寝入りするのではなく、我々のような窓口を活用する勇気を持ってください」

【私の意見】Up63_2

 正社員も非正規社員も同じ人間。年齢も仕事の内容もほとんど変わりません。それなのに企業が労働条件を差別し、同じ人間同士が足のひっぱりあいをし一方が他方を見下す構造となっています。この記事をみてこのような構造をつくった政治家、財界人、えせ「学者」たちにあらためて言いようのない憤りを感じました。足のひっぱりあいをしなくとも私たちは全員豊かに楽しく生きていける環境にあります。働くうつの人のための弁護団に非正規雇用の方からも時折メールで相談がありますが、職場内での身分がもともと安定していないため“弁護士さんのところまで行ってもどうせクビを切られる”とあきらめる方が多いことは確かです。でもこの歪んだ構造をつき崩すためには最も痛めつけられている人から声を挙げていく必要があります。弁護団は精一杯応援しますので、あきらめずに声を挙げてほしいと思います。

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2007年8月23日 (木)

公務員に増えるうつ病 欠ける助け合い

【「心の病」自治体でも増加 
           仕事量増えた/職場の助け合い減った】

                      (8月23日 朝日新聞 より)

 自治体の半数近くで、過去3年間にうつ病や神経症などの「心の病」になる職員が増えていることが、社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所のアンケートでわかった。企業と同様、自治体でも1人あたりの仕事量が増えて職員同士の助け合いが減り、職場のストレスを高めているようだ。
 社会経済生産性本部が今年4月、全国の都道府県や市区町村など1874自治体にアンケートを郵送、727自治体から回答を得た(回答率39%)。同研究所は、これまで企業などを対象にメンタルヘルスに関する調査を実施してきたが、自治体は初めて。
 過去3年間の心の病の増減傾向を尋ねたところ、48%の自治体が「増加傾向」と答えた。36%が「横ばい」で、「減少傾向」は4%しかなかった。特に規模の大きい自治体では、その傾向が強く、職員数3千人以上の自治体では79%が増加傾向にあった。同研究所が06年に行った企業アンケートでは、3千人以上の66%が「増加傾向」と答えており、自治体の方が13ポイント高い。
 また、回答したうち98%の自治体が「住民の行政を見る目が厳しくなっている」と感じていた。95%が「1人あたりの仕事量が増えた」、49%が「職場での助け合いが減った」と感じていた。
 「職場での助け合いが減少した」という自治体では、心の病が増加した割合が56%。「減少していない」自治体では40%だった。
 同研究所は「仕事量の増加や職場での助け合いの減少が心の病につながる傾向は、自治体も企業も同じだ。自治体の場合は住民の目も厳しく、その大変さを職員がバラバラに受け止め孤立してしまうと、今後も心の病が増える可能性は高い」と分析している。

【進む職場の荒廃・腐敗した管理者の心】

 地方公務員だけでなく、国家公務員の間でもうつ病が増えています。公務員は身分が保障されており、よほどのことがない限り免職されたり降格されることはありません。お互いに身分を保障されているのだから助け合って生きていけばよいと思うのですが現実はそうではありません。働くうつの人の弁護団に相談があり、私が担当した2つの事件についてご紹介します。以下は私の論文の引用です。

1 国家公務員A君(男性、24歳)
  新人研修終了後、女性の多い職場に配属される。職場に馴染もうと努力するが、「男性のくせに 覇気がない」などのセクハラ発言を受け、ストレスがたまり、メンタルクリニックに通い薬を服用し始めた。職場で服用しているのを上司に見つかり、診療所に連れていかれた。診療所の医師は“少し様子をみましょう”という鷹揚な対応であったが、配属先は条件付採用期間である6ヵ月以内にA君を退職させることを決め、A君に上司数名(年齢はいずれも40歳以上)で依願退職を迫り、依願退職をしなければ分限免職をする旨おどした。
  弁護団に依頼があり、私たちが代理人として配属先を訪ね、退職強要をやめるよう求めた。しかしながら配属先は強硬に“依願退職しなければ分限免職をする。分限免職になれば本人に傷がつくので、退職するのが本人のため”というおどしに終始し、とりつく島がなかった。私たちは本庁に掛けあえば何とかなるだろうと思い、分限免職が認められる事案ではないので配属先を指導して欲しい旨要望したが、本庁の管理者は、本庁も同じ考えであるとの態度をとった。法的には分限免職が認められるとは到底思えなかったが、条件付き採用期間中の公務員が争うには訴訟しかなく、数年に及ぶ訴訟期間は裁判は勝ってもA君がボロボロになることを懸念した。A君は他の試験をめざすこととなり、結果としては依願退職をした。A君が私たちに対して自分を評価し、応援してくれる大人がいることを知って、元気が出てきたと言ってくれたのがせめてもの救いであった。

2 地方公務員B氏(男。37歳)
  3年前にうつ病になり7ヵ月間病気休暇ののち、3ヵ月間職場復帰訓練を受けて復職した。その後1年余り支障なく普通に勤務していたが、労働組合の支部長に立候補し当選したのを捉え、所属長が抗うつ薬を飲んでいるから病気が治癒していないとして内科の産業医に強引に面接させた。産業医による保健指導という名目のもとに翌日より出勤停止措置をとった。精神科医の主治医は就業可能との診断をしており、弁護団に依頼。出勤停止措置は地方公務員法上根拠がなく、明白な違法措置である。直ちに撤回を求めるとともに、産業医との面接を希望したが実現せず、逆にB氏に無断で産業医と所属長が主治医に会い、診断の変更を求めるという患者の人権侵害行為を行った。さらにB氏に対し、詫び状を出させるなど管理者としての支配的立場を利用して事態をごまかそうとした。最終的には所属長もあきらめ、7ヵ月後に復職させた。その直後B氏は夜間勤務を命ぜられ、仕返しとしか思われない処遇により、うつが一層重くなり、今なお苦しんでいる。

 日本の企業や官庁は十数年にわたりストライキも団交もなく、すべてが整然と組織的かつ効率的に動いているようにみえる。しかし、うつの労働者をサポートして驚いたことはすさまじく進行する職場の荒廃である。
 A君の上司であった40歳以上の国家公務員の男女数名は、集団的官僚主義の中で粛々と働き、異端と思えるものは目をつりあげて排除に走った。B氏を排除するため違法行為を重ねた所属長と産業医は、不承不承復職を認めたのち、うつ病に悪い職場へのリベンジ配転を強行した。後でこれを聞いた私の心は凍りそうであった。

【日本人の心の質】

 以下も私の論文の引用です。

 小泉構造改革は政府と経済界が一体となって人をコストとみなし、平然とリストラを行い、職場では成果主義を強調し、人と人を競争させた。その結果、職場がギスギスとしたものになり、過労死やうつ病やうつ病による自殺を生んだ。政府・経済界と「学者」の責任は大きいが、それに乗って足の引っ張り合いを演じた日本人の心の質も問い直してみる必要がある。
 日本の労働者は組織の中で、組織を優先することしか学んでおらず、すぐそばの隣人を思いやることに欠落している。集団主義の中で戦後62年間に多くの国民の心の中に形成された他者に冷淡な人間性を改善することは容易ではない。
 人は社会的動物であり、他者に役立っていると思えるときに本当の喜びを感じる。かなりの日本人は真の喜びを見失っているように思えてならない。職場で傷ついている同僚・部下を一人ひとりが大切にし、上司の過ちを正し、経営者に対し、歪んだ職場環境の是正を求める以外に閉塞感に満ちた職場環境を改善する道はない。

【私の意見】Up63

 ① 政治家は3~4流でも公務員は1流
 私の意見はほぼ論文で述べました。別の視点から少し付け加えますと朝日新聞の記事にもありますように、公務員を見る住民の目や国民の目が厳しくなったことも事実です。しかし最近の社会保険庁の解体劇にしても、政府は自らの失政を生身の人間(公務員)をスケープゴート(生けにえ)にして責任を転嫁し、問題の本質を隠蔽することが少なくありません。それに乗っかって“そうだそうだ、あいつらはたいして働いていないのにいい給料をもらっている”とはやしたてる日本国民の心の質も大きな問題です。私は戦後62年間日本の公務員は世界的レベルでも総体的には一流の仕事をしてくれたと思います。そうでなければ、3流、4流の政治家が日本経済にしろ医療を含む公衆衛生にしろ世界一級に仕上げることなどできる筈がありません。
 自らの無能を棚にあげて“諸悪の根源は官僚にある!”“日本の民主主義のために官僚支配を打破する!”と政治家があおると賢いわが日本国民はこれに同調してやんやの喝采を送るのがいつもの風景で、私はもう見あきました。
 
 ② 日本国民の民主主義力が問われる
 とはいえ私も日本の官僚制度に改善すべき本質的問題があることを否定するものではありません。私が言いたいのは制度としての問題点と生身の人間の問題をごちゃまぜにせずに、冷静に判断しなければいけないということです。これは日本国民の民主主義力の問題です。

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2007年3月15日 (木)

朗報!うつ病の労働者の職場復帰増加

【新聞を読むひまがない】

 3月はとても忙しく、新聞を見出しをななめ読みすることしかできていません。これまで新聞記事を中心にブログを構成していましたので、更新しないままに日にちが経ってしまいました。時折私のブログをのぞいて下さる方々の期待を裏切ってすみません。
私の近況をお伝えします。

【労働事件がふえている】

 3月はヘビー級の訴訟事件の証人尋問が2件あり、その準備に時間をとられています。いずれも労働事件(解雇事件)です。私の事務所はさまざまな事件を幅広く受けていて、性格的には市民法律事務所と思っていますが、最近は労働事件がかなりの割合を占めるようになっています。東京地方裁判所だけでなく、名古屋地方裁判所や仙台地方裁判所に係属している事件もあります。それほど働く人の現状が厳しいことを反映しているのだと思います。

【うつ病の労働者の職場復帰の成功例がふえている】

 明るい話題は、働くうつの人の職場復帰が改善してきたということです。企業がうつ病で休職した労働者をやめさせようとする傾向は変わりません。ただ、弁護士がサポートすることにより、企業が方向転換し、復職を受け入れるケースが少しずつでてきました。昨年11月30日NHKがクローズアップ現代で“急増する働き盛りのうつ病”を特集でとりあげたことがよい方向に作用したように感じました。

【でも企業の本音は職場から排除】

 そうかと思うと、別件で大手生命保険会社が中途で視力障害者となった労働者を解雇しようとしていたのには驚きました。本社に行って直談判しましたが頭のかたさに驚きました。“今どき、えっ!”と思いましたが、うつ病であれ障害であれ、排除したいというのが企業側の本音であることをあらためて感じさせられました。解雇や退職扱いになる前に、弁護士が関与してサポートすることが必要であり、重要であると思います。退職扱いになったあとに撤回させるのは大変な労力と時間がかかります。

【楽しく働く】

 このところうつ病や障害者の労働者の代理人として、日本を代表する企業や学校法人の人事部に直談判することが少なくありません。その時いつも私が感じることは、企業側の立場に立って排除の正当性を述べる人事部の担当者の表情も決して楽しそうではないということです。排除の論理を優先させるかぎり、そこで働く人たちは排除される側のみならず排除する側にとっても楽しい筈がありえないということです。
私たち日本人は楽しく生きるということに最も適応性のない民族になってしまいました。このあたりで私たちも楽しく陽気に生きる民族に変身しましょう。
そのためにはどのようにすればよいか、何が欠けているのかをみんなで考えていきましょう。しかめっつらをして考えるのではなく、ワインでものみながらにぎやかに・・・
     Wine

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2006年12月10日 (日)

【激増するうつの真犯人はだれっ?】

私の発表論文より ~

“多様な働き方”というまやかしの言葉を多用し政府が推し進
めたもの


(1) 政府・経済界は総合規制改革会議あるいは経済財政諮問会議を利用し、「多様な働き方」「雇用・労働の規制改革」の名のもとに企業が契約関係を打ち切りやすい労働法制を次々とつくり、拡大した。 a.労働者派遣制度の拡大、b.有期労働契約の拡大、c.雇用と実質的に変わりのない請負契約の容認、d.裁量労働制の拡大等。

(2) 労働契約形態について多様なメニューが用意されれば企業がコストが少なく、契約関係を打ち切り易い契約形態を選ぶのは自然の理である。現実に正規社員が大幅に減少し、パート、有期契約、嘱 託、派遣、請負の非正規雇用形態が著しく増加している。企業の8割は非正規雇用選択の理由を「労働コスト削減のため」と明言している(2006年労働経済白書)。

(3) 非正規雇用では賃金の上昇がほとんどない上に、労働者にとりキャリア形成ができず、技術や経験の蓄積ができない。同白書によれば20歳代の20%以上の者の年間収入が150万円未満であり、200万円未満をとれば3分の1に達している。低収入の若者は現在のところ親と同居していることが多いが、将来自立しなければならない事態を迎えた時に大きな社会問題となることが予測される。

(4) 一方、正規労働者は正規労働者の人数が減る中で負担が増加し、かつ成果主義の厳しい現実のもとに不安が増加し、「心の病」が増加している。「多様な働き方」というのは、労働者が望んで、進んで選べる環境があってこそ意味あるものになる。雇い主側のみ選択権のある現実のもとでは労働者にとってただ悲惨な結果しか残らない。「多様な働き方」という甘い無責任な響きの言葉を多用し、企業のリストラを推進してきた政府・経済界・学者の責任はきわめて重い。

~ 神野直彦東京大学経済学部・大学院経済学研究科教授
             
著 「『希望の島』への改革」より ~


神野直彦教授は、5年前に著書「『希望の島』への改革」(NHKブッ
クス)の中で次のように指摘しています。

(1) 「日本は今、この『歴史の峠』を、『競争社会』への道を目指して超えようとしている。『競争社会』を目指して邁進しさえすれば、『活力ある社会』という『希望の明日』が待っていると吹聴されているからである。」「『競争社会』では、人間は目的達成のための手段として位置づけられ、コストを高める妨害物と見なされてしまう。『競争社会で』称賛される有能な経営者とは、自分が経営する企業から、コストのかかる妨害物である人間を、いかに多く排除したかによって評価される。」「こうして、企業も政府もリストラによって、人間が共同生活をする『場』である社会から人間を排除しようとする。」(9~12頁)

(2) 「社会とは、他者との協力なしには生存ができない人間が、共同生活を営む『場』である。いやしくも人間が共同生活を営む社会というからには、『他者の成功に貢献すれば、自己も成功する』という『協力原理』が埋め込まれていなければならない。」「いま日本は、血眼になって社会から人間を排除することに全力を挙げている。何のために社会から人間を追い出すのかを、立ち止まって再考しなければならない。人間の幸福のために企業があり、政府があるはずである。人間を忘れた日本は、明らかにハンドルを切り間違えたのである。ハンドルを切り間違えたのであれば、アクセルを吹かせても、地獄に向かって突き進むだけである。早くハンドルを正しい方向へ切り替えなければならない。人間は、人間にとって最高の存在である。経済のために人間があるのではなく、人間のために経済はある。ところが『競争社会』では、人間は経済の『手段』にしかすぎない。人間はコストを高める妨害物と見なされ、人間が共同生活を営む『場』である社会から人間を追放してしまう。しかし人間中心の『協力社会』では、人間の能力を相互に高め合い、生産性を向上させることによって、経済成長を目指すことになるのである。今からでも遅くはない。生まれ出ずる痛みに耐え、人間を中心とする社会を目指して『歴史の峠』を超えていこうではないか。つまり、日本を『希望の島』に再生するため、『競争社会』に別れを告げ、『協力社会』への道を着実に歩み始めようではないか。」(10頁、19~20頁)

私の発表の場では、会場から事例報告について質問や意見が活発に交わされました。

論文の6項、7項をお読みください。

私の論文や、神野直彦教授の指摘についてご意見があればお聞かせください。

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2006年12月 1日 (金)

クローズアップ現代の放送

11月30日放送,NHKのクローズアップ現代「急増する働き盛りの“うつ病”」
は,うつ病で苦しんでいる働き盛りの人たちに希望を与える番組としては,とてもよかったと思います。 
後半に登場した企業は企業のあるべき姿としてこの番組のビデオを有効に使えると思いました。
 
働くうつの人のための弁護団も5分間位紹介されました。
番組の後半に登場したうつ病の予防やうつ病の労働者の職場復帰に積極的に取り組む企業はまだ少数です。うつ病を発症した労働者の個人責任として職場から排除しようとする企業が今なお後をたちません。
働くうつの人のための弁護団は,そのような企業に対して仁王さまのようにがんと立って労働者を守っていきたいと思います。

ちょっと残念なのは,番組全体の流れの中では,弁護団の取り組みがむかしむかし話のように異質にうつる感がありました。弁護団に寄せられる相談は,今現在進行中のホットなものばかりだということをご理解ください。

この番組をこまめに足をはこびつくりあげ,弁護団を紹介してくれたNHKの若き女性ディレクターに感謝します。

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