うつ

2008年10月12日 (日)

復職し、うつ病も全快の総合職女性の伝言

【うつ病労働者の弁護士サポートの実際2】

 Eさんは、都内の大学を卒業後、男女雇用機会均等法一期生として、大学を中心として全国規模で展開する大手学校法人に総合職として就職しました。4年前に法科大学院勤務となりましたが、重いうつ病になりました。休職後復職しましたが、出向先でうつ病を再発、回復したので復職を申し出たところ学校法人本部から退職を迫られ弁護団にサポート依頼のメールが届きました(Eさん43歳)。弁護士サポート2ヵ月後に復職、復職1年後にうつ病も全快しました。Eさんは弁護士サポートの成功事例の1つと言えますが、この間のEさんの苦労は並大抵のものではありません。Eさんからこれまでをふりかえってのメッセージをいただきましたので、ご紹介したいと思います。

【Eさんが弁護団に依頼するまでの経緯】

 全国展開している、教職員4000人規模の大規模大学に勤務して20年。民間企業勤務の夫と、12歳、9歳の娘がいる。「均等法第一期生:総合職」として採用になる。一貫して大学本部で経営側に近い立場での仕事をしてきた。
 4年前(就職16年後)の異動で、当時認可されたばかりの法科大学院勤務となり、未整備な学校に抗議する社会人学生への対応、上長のパワハラ、大学院教員のセクハラ、加重労働、学生の抗議が暴力的になり、身の危険を感じる被害に遭いそうになったことなどが2ヵ月のうちに重なった。ある日突然「バッタン」と気を失ってしまい、しばらく口がきけなくなって、そのまま休職した。重症の「抑うつ・適応障害」と診断され、休養の上、1年後、高校以下の付属学校を管轄する部署で復職した。しかし、業務は主として半年以上の地下倉庫整理であった。翌年今度は大学の都合により関連会社に出向。出向先の事務所はワンルームマンションで、男女一緒のトイレとロッカー、一日中の喫煙に悩まされ、また、業務は20年以上昔の機械を使った伝票処理と段ボールや廃物処理などの肉体労働が主となった。産廃物の処理や、一日中煙るタバコにアレルギー症状がでる。原因不明の全身発疹がでて、外出できなくなった。出勤不可能になり、うつ病が再発した。病状が軽快し、復帰しようとしていた矢先、出向元の大学本部より呼び出しがあり、「出向先の子会社の就業規則により2ヵ月後には休職期間満了で自動退職になる」と言われた。「相手にも迷惑かけるから、早く円満退職を決心した方が 経歴に傷が付かない。そもそも『休職制度』は復職を前提としているのだが、現実問題としてまた再発し、半年以上労務提供が出来ていない。先方は契約違反であなたにはコミュニケーション能力なしと大変不快に感じている。お子さんもいるし、療養に専念してはどうか」と言われた。

【弁護団サポートと復職】

 弁護団宛に相談メールが届く。休職期間が2ヵ月しか残っていないとのことで、メール受信後直ちにEさんに連絡。診断書、就業規則等必要書類の送付を受け、4日後にEさんと面談。面談の結果、休職期間については出向先ではなく大学の就業規則の適用があり、1年以上残されていることが明らかとなる。大学理事長(総長)宛にうつ病は業務に起因するものであること、休職期間は1年以上残されていることを内容証明郵便で通知。あわせて今後のことについて面談を申し入れ、数日後秘書課を通じて人事課長と面談。うつ病が大学の業務に起因するものであり、労働基準法第19条により解雇や退職扱いはできないことを強調。人事課長は一転して4月1日からのEさんの復職に向けての話し合いに態度を変え、Eさんは復職した。復職後1年でうつ病は全快し、主治医から抗うつ剤の投与はもう必要がないと告げられた。全快したEさんからのメッセージはうつ病労働者の苦しみを理解する上で教訓に富んでいると思われるので、次に紹介する。

【うつ病が全快したEさんからのメッセージ】

<再発の怖さとの闘い>

 「昨年4月1日に復職いたしました。復職はじめは通勤電車のすさまじさに圧倒され、『できるだけ人にぶつかられたり、怪我をさせられないようにしよう』と、以前の私では考えられないほど『省エネモード』で対処するように心がけています。
 『ふたたび同じ状態に戻る』ということは、いつも頭や心のどこかにひっかかっていて、すごく恐ろしい気持ちです。病気になった人は多かれ少なかれ、この「再発の怖さとの闘い」に自分を対峙させなければなりません。当事者でなければとても共感し得ない感情と思います。」

 弁護士サポートをする中で感じたのは、うつ病を経験した労働者に共通するのがこの恐怖感である。パワハラを受けたときの光景が蘇って会社の門の前で立ちすくむ労働者も少なくない。

<「駆け込み寺」としての役割を果たす産業医>

 「この時いろいろとお世話になったのが、主治医のほか、職場の産業医でした。『駆け込み寺』的な場所として産業医が職場にいることは、精神的にありがたかったです。産業医はメンタル専門の人がベターですが、やはりドクターの人柄に拠るところが大きいです。のんびりした性格のドクターで、中立的な立場をとりつつも、病状の再発については注意を喚起してくれるような人であれば理想的です。」

 Eさんの大学の産業医は女性で、Eさんの立場を理解し、同情さえしてくれていた。Eさんは産業医に恵まれた。従来管理者サイドに立つ産業医が多かったが、産業医の目線は少しうつ病労働者のサイドに変わったと感じるが、Eさんの産業医は特別優れている。

<「何で自分はこんなにヘンになってしまったのか」と自信喪失。「一人・孤独」>

 「復職までの道のりは、大変に長かったです。最終的には弁護士さんにお願いをして、解決をしていただきましたが、弁護士さんにお願いするきっかけも、都の労働相談窓口でのアドバイスによるもので、そこにたどり着くまではたった一人でじたばたとしていました。
 どの人も同じと思いますが、『好きで病気になった』という人は一人も居るはずがなく、それまでに長い勤務実績があれば『辞めてください』といわれることなど考えてもいないはずです。
 病気になると、途端に『一人・孤独』」な立場に追いやられます。体力的にも精神的にも外出をすることが難しくなり、極端に人を信用できなくなり、電車に乗るのも難しい状態なのと、『何で自分はこんなにヘン(思考がまとまらないので)になってしまったのか』という思いで、自分にも自信がなくなると『相談しても相手にされないのでは・・・』とか『相談内容を理解してもらえるのか』という不安ばかりが先に立ちます。」

 Eさんが弁護団に相談するにあたり、「相手にされないのでは・・・」という不安をいだいていたことなど私たちには思いもよらなかった。

<怒りをバネに>

 「それでも復職できたのは、私の場合は一番最初に倒れた原因がセクシャル/パワー・ハラスメントだったことでその間、組織は聞く姿勢を示さなかったこと、一度目の復職後の仕事は地下倉庫で約8ヶ月も廃棄物の分別と処理だったこと、それでも休まずに頑張って勤め上げたのに、『余分人員』として出向させられたこと・・・とても書ききれませんが、これら諸々への『反発・悔しさ・怒り』の強さです。
 この『怒り』を私は『自分の存在意義への否定』と受取り、それをバネにしました。平たく言えば『これ以上、泣き寝入りしない』ということです。『怒り』で行動するには大変なエネルギーが要りますが、それでもアクションを起こせたのは今でも良かったと思います。
 また、思い切って行動にしたことで、自分の話を聞いてくださり、さらに援助してくれる人たちがいることもわかり、その後の人生への支えも得たのだ、と今では考えています。」

 弁護士サポートを選択する人のエネルギーの源泉はEさんのような怒り、不正義を許さないという正義感・使命感にあると思われる。

<主治医「なんだ、もう治っているね!」>

 「『病気の全快』の診断は突然のことでした。春先にひいた風邪をこじらせ、強い抗生物質をとらねばならず、『今飲んでいる薬はストップしてください』と処方時に言われたので、そのとき服用していた抑うつ剤(最低量ではありました)をやめました。1週間ほどしてまた服用を再開しましたが、次の主治医との面談時にこの話しをすると、『なんだ、もう、治ってるね!』と言われたのでした。抑うつ剤は急にやめると副作用が出ることが多いというのですが、私はそれもなく、いつもと同じでしたので、『治りました』と診断された次第です。
 初めて通院してから丸4年経っての回復宣言でしたが、長く薬を飲んでいたので、止めてから1ヵ月くらいは不安でした。いつの間にか薬を『すがり杖』のようにしていたのですね。 」

 Eさんは主治医にも恵まれている。開業医の中には「再発予防のため」という名目で患者への投薬を続け、患者を囲い続ける医師も少なくない。

<「女性」「子持ち」で何重にもバッシング>

 「最後になりますが、私は2児のいる『ワーキング・マザー』でもあります。倒れたときは子供たちが幼少で、ヒステリーになったり、沈み込んだり、寝たきりになった時の影響は、やはり未だに残るところがあります。
 ワーキング・マザーとして復職を果たした人の『ロールモデル』が欲しく、主治医にも産業医にも『そういう例を知らないか』と何度も聞いたのですが、数千人の患者を診ているドクターであっても『今までにフルタイムで復職を果たした女性を、まだ見たことがない』ということでした。
 メンタルな病ということでいろいろなバッシングに遭いますが、それプラス『女性』『子持ち』ということで、そのバッシングがさらに増えること等、女性ならではの問題もきっと、声が上がらないまま潜在していることと考えます。」

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2008年9月28日 (日)

うつ病労働者の弁護士サポートの実際1

【1.弁護士団を結成して3年】

 05年10月に働くうつの人のための弁護団を結成して3年が経過しました。相談はメールによるものが圧倒的割合を占めています。相談メールは今でも毎日のように届きます。今までのサポート事例を何回かに分けてふりかえっていきたいと思います。

【2.弁護士サポートの手順】
 弁護団に依頼する手順は次のとおりです。① 相談者はメール・ファックス等によって事前に相談内容を記載して申し込む。 ②これを見て弁護士がまず電話でアドバイスする(1回目の電話相談は無料)。 ③電話相談で解決できない事案については面接相談。④面接相談の結果、弁護士が代理人として事業主との交渉や法的手続(労働審判、訴訟等)を行う方が良い事案について事件解決の委任を受ける。
 弁護団が相談を受ける事案は事業主が復職を認めない、退職を迫る、解雇された等、相談者の労働契約上の地位が危機的状況にある場合がほとんどです。

【3.弁護士の仕事のスタイル】

 これまでの弁護士の仕事のスタイルは、解雇や死亡(過労死・自殺)という結果が発生したのちに法的手続(解雇無効の仮処分や訴訟、死亡の場合の損害賠償請求訴訟)をとるのがほとんどでした。従来はこのような最悪の結果を回避するための交渉の担い手は本人や労働組合でした。しかし、うつ状態で苦しむ労働者に、これでもかこれでもかと当該労働者のマイナス要因を突きつける人事担当者や上司と対等に交渉する元気は残っていません。弁護士サポートをした3年間の間に、成果主義が当然視される労働環境の中でうつ病に苦しむ労働者の立場に立って事業主と渡り合ってくれた労働組合は、残念ながら零でした。このようなことから結果の発生を防ぐ役割を弁護士が担わざるを得ませんでした。

【4.復職後のリベンジ・いじめ】

 弁護士サポートによって仮に復職ができたとしても、職場での人間関係がぎくしゃくしてうまくいかないのではないかという意見があります。しかし、放っておけば当該労働者は退職に追い込まれるのであり、他に手段がないとすれば労働者としての地位を守るには弁護士サポート(法的サポート)しか選択肢がありません。法的裏付けのもとでのサポートだけに、勝ち目が無いと悟ると大企業その他の民間組織の人事担当者は復職を受け入れる方向に驚くほどあっさりと方向転換をすることがあります。うつ病労働者並びに弁護団と正面から法的闘争を繰り広げることは企業にとっても人事担当者本人にとっても傷がつくことを恐れるからです。そして一旦復職させた以上、組織の一員として有効に活用した方が組織にとっても得という民間の経済合理性が働き、復職後のいじめは言われるほど多くありません。弁護団の無言の監視の目も意識していると思います。むしろ意外だったのは公平・公正と思っていた公務員の世界で復職後の仕返し(リベンジ)、いじめが目立ちました。
 その事例の1つを紹介します。

【5.地方公務員 交通労働者B氏(男性,37歳)の復職事例から】

(1) 弁護士に依頼するまでの経緯
 01年うつ病と診断され、7ヶ月間病気休暇ののち、3カ月間職場復帰訓練を受けて復職しました。その後1年余り支障なく普通に勤務。勤務先にもB氏にも互いに何の不満もありませんでした。ところが、B氏が労働組合の支部長に立候補し当選したのを捉え、04年1月所属長が抗うつ薬を飲んでいるから病気が治癒していないとして産業医(内科医、女性)に強引に面接させました。産業医による保健指導という名目のもとに翌日より出勤停止が命じられました。精神科医の主治医は就業可能との診断をしており、B氏は弁護団に依頼。

(2) 弁護団サポートにより復職
 出勤停止措置は地方公務員法上根拠がなく、弁護団は撤回を求めるとともに、産業医との面接を希望しましたが実現せず、逆にB氏に無断で所属長と産業医が主治医に会い、診断の変更を求めました。さらにB氏に対し、弁護士抜きでの話し合いを求め、詫び状を出させるなど管理者としての支配的地位を利用して事態をごまかそうとしました。最終的には所属先もあきらめ、7ヵ月後にようやく復職させました。

(3)職場復帰後の報復人事
 ①ゴミ収集作業に配置転換
 04年8月に復職。職務内容の変更について事前の説明が全くないまま、当日出勤したB氏に「作業着」一式が渡され、B氏は軍手をはめて外での「ごみ収集作業」を命じられました。前回の職場復帰後の職務は「事務作業」ですが、今回は明らかに報復とされる内容でした。この年は記録的な暑さもあり、外での作業は体力面からもB氏は相当にダメージを受けました。真冬についても同様でした。

 ②深夜勤務への異動発令
 翌年4月に異動命令。今度は、「隔日勤務」つまり「深夜勤務」を伴う作業です。B氏は、「深夜勤務や長時間勤務は禁忌である」といった診断書を「保健指導」時には毎回提出していたにもかかわらず、これを一切無視した異動発令であり、B氏の症状を配慮するどころか、報復人事の徹底です。
 この仕事場は、わずか2畳足らずの小さな部屋に朝の8時10分から21時15分までいなければならず、その間入れ替わり立ち代り、休憩に訪れる他の職員が煙草を吸っていく。22:00から23:45までは、本店に帰り、現金の収集作業をし深夜0時ごろから翌朝5時まで仮眠する。5時から7時まで本店で作業があるが、B氏はいつもボーっとしていました。時折上司から注意されます。そして、7時から8時10分までまた出先の小さな部屋に行き交代し、本店に戻り8時30分からの朝礼を迎えてから、その隔日勤務は終了する。
 当然のこととして2ヵ月もすると、B氏の体調に影響が出始めました。「のどが痛む」「目がかすむ」「皮膚がただれる」。そして、持病となった「睡眠障害」は隔日勤務のローテーションに慣れないため最悪の状況になりました。精神科主治医は、「隔日勤務において服薬治療が困難になること、このことにより、うつの症状が悪化する原因にもなること」と診断しました。また、職場環境から、非常に狭い部屋での煙草による「副流煙」での体調不良から大学研究所病院・アレルギー科は、「シックハウス症候群」(化学物質過敏症)と診断しました。

【6.コンプライアンスが確立していない公務員の職場】

(1)パワハラをする側にも身分保障
 公務員は身分保障がされており、意に反する降任・免職・休職を行いうるのは法律が規定する事由に限定されます(国家公務員法78条・79条、地方公務員法28条)、分限手続も厳格です。休職期間は通例3年であり、民間と比べ長期です。そんなことからうつ病で苦しむ公務員からの相談については相談を受ける私たち弁護団の側に“どうせクビになることはない”と高をくくったところがありました。ところが、身分保障がされているのはうつ病で苦しむ労働者の側だけでなく、うつ病の労働者をパワハラで苦しめる上司(中間管理職)も身分保障がされている、ということを私たちは看過していました。

(2)中間管理職の違法行為に対する歯止めがない
 B氏に対する出勤停止命令は法的根拠のない違法命令です。そのことをB氏の所属長や本局の労働課に訴えましたが、改善する気配がなく、やむなく知事、交通局長以下関連する責任者に内容証明郵便でもって訴えました。所属長は出勤停止の勧告をしたとする産業医とともにB氏の精神科主治医と面談し、診断の変更を求めるという新たな違法行為を行いました。所属長は出勤停止措置を正当化するため、その後も04年1月にさかのぼって就労不能の診断書を提出するようB氏に求めてきましたが、当然のこととしてB氏は拒絶しました。法的根拠がない旨の弁護団の指摘に不承不承復職させましたが、復職させるにあたりB氏を逆恨みし報復人事を重ねました。その結果、B氏の症状はさらに悪化しましたが、このことについて誰も責任を問われていません。B氏は辛抱強い人で報復人事を一人で耐えていました。所属長はB氏に弁護士抜きの話しあいを執ように求めました。公務員の世界では自己の権限内の行為については、裁量という名の一種の治外法権が成立し、例え上司であれ、口を挟むことはありません。そのため、中間管理職のやりたい放題が成立しうるのです。B氏は地方公務員ですが国家公務員でも同様な事例を経験しています。これについては後日紹介致します。

(3)今後は違法行為を行う管理職の責任追及も視野に
 公務員の世界では中間管理職に対する徹底した監視が必要であり、油断できないことを改めて知らされました。今後は違法行為を行う管理職やこれを補佐する産業医の責任追及のための法的手続も視野に入れていきたいと思っています。

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2008年8月27日 (水)

プレジデント 部下がうつ病を訴えたとき

 プレジデント(PRESIDENT)は、40~50代の中堅以上のサラリーマンを主要な読者としている雑誌です。
 8月25日発売の9月12日号で、トクする法律、危ない法律、と題して特集記事を組み、47にわたるさまざまな場面ごとにその分野に詳しい弁護士が解説をしています。
 私はうつ病に関し「もし部下がうちあけたら、こんな発言・態度はアウト!」の部分の記事を担当しました。
 私の担当記事をご紹介します。

             President_2

【もし部下が打ち明けたら、こんな発言・態度はアウト!】

 上司として絶対にやってはいけないのは「うつ病になるのは心が弱いため」と決めつけ、「おまえが悪い」などと本人を責める言葉を浴びせることだ。まして病んだ部下を追い込んで辞めさせようとするなど、もってのほかである。
 2007年10月に名古屋高裁で判決が出た「中部電力事件」は、主任に昇格した30代の男性社員が過労とパワハラからうつ病になり、自殺に至ったものだが、裁判所は上司が「おまえなんかいてもいなくても同じだ」「主任失格」などと、感情的な発言を繰り返したことを重視している。結果は一審二審とも、上司の対応が厳しい指導の範疇を超えたパワハラとみなされ、自殺の原因が会社の業務にあったと主張した原告側が勝訴した(国が上告を断念し、労災の適用を認める判決が確定)。
 また「日本ヘルス工業事件」(大阪地裁2007年11月判決)でも、過労によって心身に不調をきたしているにもかかわらず、心ない発言を投げつけられた40代の男性が自殺している。この裁判では、業務を軽減してほしいと数度にわたり訴えた男性を、直属の上司が逆に「逃げてどうするんや」と叱咤し、さらに仲人をした役員が、社長や役員の出席する懇親会のスピーチで男性のことを「頭がいいのだができが悪い」「何をやらしてもアカン」などと酷評したことが重視され、原告が勝訴している。
 また裁判にならないまでも、うつ病で休職したところ会社が復職を認めず解雇に踏み切った、あるいは休職自体を認めず、自主退職するよう迫られたと訴えて、法律事務所の門をくぐる例は少なくない。しかし、業務に起因する疾病により休職していた期間の解雇は法律上無効(労働基準法19条)なため、こうした会社側の対応は大いに問題があるといえる。

【初の判例となった「解雇は無効判決」】

 長時間労働が原因で発症したうつ病を理由に解雇された東芝の技術者が、その違法性を問うた訴訟では、解雇を無効とし、会社側に未払い賃金など約2825万円を支払うよう命じる判決が下されている(東京地裁2008年4月)。これはうつ病による解雇の違法性を明言した初の判例として、今後の労働問題に大きな影響を及ぼすだろう。
 またこうした労働問題を、訴訟以外の法的手段に訴えて解決することも、もちろん可能だ。私の事務所では依頼者から相談を受けると、まず会社の人事部に交渉し、次に社長宛に内容証明郵便を送り、それでも対応に変化がみられなければ「労働審判」に場を移すといった手順で解決を図っている。
 近年、成果主義の導入と人手不足によって、多くの会社では社員の過労が慢性化し、非常にストレスのたまりやすい環境にある。働く喜びや満足感が極めて得にくい現在の職場環境では、精神が脆弱か否かにかかわらず、一定数の人たちが精神疾患を発症するのがむしろ当然だろう。反面、精神疾患への理解は十分とは言い難いのが実情だ。そこで部下があえてうつ病を打ち明けてくるというのは、よほどのことなのである。
 したがって管理者は部下がうつ病を打ち明けてきたら「やはりうちの会社もそうか」と思ったほうがいい。そして本人の主治医の意見を尊重しながら産業医、人事部に相談して適切な対応をとるとともに、うつを生みにくい体質に組織全体を変えていくための方策を真剣に検討すべきだろう。これは部下一人の悩みではなく、「明日はわが身」ともなる深刻な問題なのだから。
 また、労働者自身も自己防衛策として、会社の就業規則に目を通し、疾病による休職や復職の権利がどのように保障されているのかよく理解しておくことだ。

  弁護士 清水建夫(Tateo Shimizu)  

 銀座通り法律事務所代表。1966年早稲田大学法学部卒業。「働くうつの人のための弁護団」代表

【「うつ」これが職場でのNGワードだ!】

① 山田製作所事件(熊本地裁・2007年1月22日判決) 「ばか」「あほ」「ぼけ」「死ね」と継続的に叱責。

② 日研化学事件(東京地裁・2007年10月15日判決) 「おまえは会社を食い物にしている、給料泥棒」「存在が目障りだ、いるだけでみんなが迷惑している」「おまえは対人恐怖症やろ」

③ 日本ヘルス工業事件(大阪地裁・2007年11月12日判決) 「逃げてどうするんや」「頭がいいのだができが悪い」「何をやらしてもアカン」

④ 中部電力事件(名古屋高裁・2007年10月31日判決) 「おまえなんかいてもいなくても同じだ」「主任失格」「たるんでいる」「会社の中ではきちっとして、家庭の問題を会社に持ち込むな」「その指輪は目障りだ。おれの前では指輪を外せ」
            (※取材をもとに編集部作成)

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2008年8月17日 (日)

うつ病を克服する 倉嶋 厚さんに聞く

                   (8月14日 日本経済新聞 より)

【嵐の後は必ず小春日和 完全主義やめ気楽に】

 くらしま・あつし 気象学者、エッセイスト。1924年長野市生まれ。理学博士。49年気象庁に入り、札幌気象台予報課長、鹿児島気象台長などを歴任。84年定年退職後、NHK解説委員として「ニュースセンター9時」などで気象解説。96年NHK放送文化賞受賞、著書は「花の季節ノート」など多数。

【人生は必ず展開する。死んではいけない】

 1980-90年代、NHKニュース番組などで気象キャスターを務め、含蓄のある解説でお茶の間の人気をさらった倉嶋厚さん。97年に愛妻の泰子さんをがんで失って、重いうつ病にかかり、自殺未遂と長期入院。しかし見事に社会復帰、その後はエッセイストとして原稿執筆や講演に忙しい毎日を送っている。
 うつ病からの回復の経緯は2002年、「やまない雨はない」という著書に。これまでに文庫版を含めて16万部余りを発行、うつ病を扱った本としては異例のベストセラーになった。
 屋上から飛び降りようとした東京・新宿の自宅と仕事場があるマンションで語ってくれた。「自殺者は年間3万人以上。未遂者を入れれば10倍の約30万人。その家族など関係者を含めるとさらに10倍の約300万人。10年続くと約3000万人という数字になります。事実、私の兄も自殺、同僚が3人自殺している。うつ病は自殺の主因といわれるが、国民の多くが身近にうつ病は自殺を経験している。だから私の赤裸々な告白が関心を呼んだのでしょう」
 「うつ病になると、オール・オア・ナッシングの気分になり、離婚してしまえ、職場を辞めてしまえ、死んでしまえという衝動に駆られる。でもとりあえず1分、1時間、1日決断を先延ばしにしてほしい。大事なことは決定しないというのが私の教訓。妻の死がショックでうつ病になり、死んで楽になりたいと思った。マンションの屋上に10日間通い、ついに飛び降りたつもりが元の場所に着地。亡くなった妻が止めてくれたのかもしれない」
 「それから11年。その後の人生を考えるとものすごく展開している。どんどん仕事をしてきたし、全国各地に出かけていろんな人々に出会えた。人生マイナスばかりではない。死んではいけない。西行の歌に『命なりけり』という言葉が出てくる。『命あればこそ』という意味。生きていて良かったと思います」

【人生70点主義。苦しかったら、周囲にSOSを出すことも必要】

 「うつ病になる人にはまじめで完全主義の人が多い。でも完全主義はやめた方がいい。何でも自分だけで抱え込まないで、肩の力を抜いてマイペースでやる。満点ではなく、毎日70点で落第しなければいい。NHKに出演し始めたころ悩んだが、こう考えて楽になりました」
 「その後もNHKを辞めようと考えたことは何度もある。ある夜、NHKの廊下で俳優の故・大坂志郎さんとすれ違った。振り返ると、大坂さんも振り返って声を掛けてくれた。『いつも楽しく拝見しています。役者だから分かりますが、短い時間にあれだけなさるのは大変な苦労や工夫があるのでしょう。これからもいい仕事を続けて下さい』と。私には大きな励ましになりました」
 「道元の教えに『愛語能く廻大の力あることを学すべきなり』という言葉がある。人に慈愛の心で接し、(思いやりである)顧愛の言葉を掛けるていると怨敵さえ降伏するということ。大坂さんは私に愛語を掛けてくれた。愛語に満ちた職場、地域、国をつくれればいいですね」
 「苦しいときは周囲にSOSを出すことも必要。妻が亡くなって間もなく、早朝、資源ごみを出しに行って顔見知りの女性に出会った。目が合うと私は近寄って『妻が死にました。困っているので誰か家事をしてくれる人はいないでしょうか』と話した」
 その女性の紹介で、現在も身の回りの世話を受けている水口きよみさんが来た。長期入院した時も倉嶋さんを終始面倒見てくれたお手伝いさんだ。「あの時、ごみ出しに行っていなければ、今の私はない。周囲の人もSOSに応えて具体的に助けてあげることが必要です」

【自然に対する畏敬の念が失われている。自他を大事にする心も】

 10人兄弟の9番目だった倉嶋さんに父親が残した教訓がある。「心配事は縦に並べろ」
 「15、6歳の時もひどいうつ病になった。不安でいたたまれなかった私に、父は大きな紙を持ってきて一本線を引き、『心配事を近い順から並べてごらん』と言った。書き出してみると、父は『こうやって縦に並べてみると今のお前の心配事は一つだ。一つ一つやっていけばいいんだ』と諭しました。人生の長期予報はあたりません。『あまり先のことは心配せずに、今あることを一つずつ一生懸命やっていこう』と気が楽になりました」
 倉嶋さんの優れた気象解説は、日々欠かさない克明な自然観察のたまもの。「最近、人々の心に自然を恐れ敬う気持ち、畏敬の念がなくなったのではないか。例えば満点の星を見ても感激することがなくなった。以前、NHKのスタッフと群馬県の赤城山に取材に行ったときのこと。夜空を見るとものすごい星空だったのですが、若い人は『プラネタリウムみたいだ』と言って平然としていた。畏敬の念がなくなったことが世相に反映していると思う。マスコミは人々に畏敬の念を取り戻させる優れた番組や記事を提供してほしいと願います」
 「月遅れの盆を前に、芭蕉の『数ならぬ身とな思ひそ玉祭』という俳句を思い出す。若き日の愛人とされる寿貞の墓前で詠んだ句ですが、『ものの数ではない身と思うな』という意味です。現在はみんなが自分や他人を粗末にしすぎている。簡単に人を殺したりする。自他を大切にする心が今こそ必要なのではないですか」
 倉嶋さんは小春日和という気象用語が大好きだ。「木枯らしが吹いて冬が来たと思うと、小春日和になる。激しい嵐にあっても必ず小春日和が来る。人生はこの繰り返し」 (編集委員 木戸純生)

【私の感想】Up63

 NHKの気象解説で私もよく倉嶋さんのユーモアがあふれて、人情味のある解説を聞きました。天気予報を聞くのが楽しみになるほど人をひきつける力がある方です。その倉嶋さんが重いうつ病にかかり、自殺しようとしたことは驚きでした。誰でもうつ病になりうるということを倉嶋さんのこのお話であらためて思いました。倉嶋さんに愛語を掛けた大坂志郎さん、心配事を縦に並べて書かせた倉嶋さんのお父さん。倉嶋さんはすばらしい人に守り育てられたのですね。今度は逆に倉嶋さんの言葉や、著書にいかに多くの人々の命が救われたことでしょう。

【株式会社アーバンコーポレーションの民事再生事件の監督委員に】

 私は8月13日に民事再生の申立をした株式会社アーバンコーポレーションの監督委員に東京地方裁判所より選任されました。負債総額2558億円でマスコミは今年最大の倒産と報じています。
 8月4日のブログで今年は早々の御用納めでルンルン気分ですと書きましたが、御用納めを返上し、今しばらく身も心も引き締めて職務に専念したいと思います。監督委員というのは言葉のとおり、民事再生の申立をした会社が、民事再生手続きや会社経営を公正・誠実に行っているか否かを監督する立場にあります。この事件についての具体的な言及は立場上差し控えますが、新聞記事のご紹介や手続きについての一般的な説明を折をみてさせていただきたいと思っています。

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2008年5月18日 (日)

増える若者のうつ

    (NHK「きょうの健康」 6月12日放送(6月19日再放送))

【神庭重信 九州大学大学院教授】

神庭重信(かんば・しげのぶ) 経歴:1954年生まれ。80年慶應義塾大学医学部卒業。専門は精神医学、特に気分障害、精神科薬物療法、ストレス科学、行動遺伝学  九州大学病院(精神科・神経科) 

 「うつ病」は中高年に多い病気ですが、最近では若い年代の人にも増加しています。若者の場合は、起こりやすいタイプ、症状、薬物療法の効果、周りの人の対応方法など、典型的なうつ病とは異なる点が多くあります。

【若者のうつ 中高年に多い典型的なうつ病とは異なる特徴をもつ】

 最近若者にうつが増えています。“うつ”とは、うつ病を含むうつ状態全般を指します。うつ病の患者数は中高年が最も多いのですが、厚生労働省の調査によると、10歳代後半から30歳代前半の人のうつ病が、3年間で約1.5倍に増えているのです。また、日本の若者は諸外国の若者に比べ、うつ病になりやすい傾向があるともされています。
 若者のうつは、うつ病とまではいえない“うつ状態”であることが多く、中高年によくみられる典型的なうつ病とは、いろいろな点で異なります。例えば、中高年でうつ病を発症しやすいのは、「まじめ」「几帳面」「責任感が強い」といった傾向があり、非常に一生懸命仕事をする人です。自分の役割や社会の規範などを重視し、周囲の期待に応えようとすることで無理が生じてしまいます。
 これに対し、若い人でうつになりやすいのは、自己への愛着が強い人、“自分は何でもできる”という漠然とした自信を持っている人、社会的な規範への抵抗感をもつ人、周りの環境にうまく適応できない人などです。伸び伸び育ってきた若者が、社会の規範やビジネスの世界における成果主義、厳しい上下関係などに適応できず、うつ状態になることがあります。

【若者のうつの症状 倦怠感が長引きやすく周囲や環境を非難することが多い】

 中高年に多い典型的なうつ病では「憂うつ感」「意欲低下」「倦怠感」といった症状が現れますが、これは若者のうつでも共通しています。これらに加え、「睡眠障害、食欲低下、不安感、イライラ、焦燥感」といった症状もよく現れます。
 若者のうつに特徴的なのは、倦怠感が長引くことです。その結果、なかなか職場に復帰できず、無理をして戻ろうとすると「めまい、吐き気、頭痛」といった不快な症状が現れたりします。
 また、自分がうつ病になって会社に行けないのは“上司が悪いからだ”“仕事が合っていないからだ”というように、自分ではなく、他人や周囲の環境の責任にして非難する傾向があります。
 中高年の典型的なうつ病では、症状が現れてもうつ病だとは認めたがらず、“自分の頑張りが足りないからだ”と考えがちです。ところが若者のうつでは、みずから“うつ病である”と考えたがることが多いのが特徴です。治療中も、うつの症状が残っていることにこだわったりします。

【診断】

 うつ病の症状が、ほぼ毎日、一日中現れていて、それが2週間以上続く場合には、うつ病だと考える必要があります。
 若者のうつは、うつ病と同じような症状が現れる「双極性障害」や初期の「統合失調症」と見分けにくく、また、「パーソナリティー障害」、「発達障害」などが原因でうつ状態になっていることもあります。うつが疑われる症状が見られたら、きちんと精神科を受診し、早い段階から適切な対策を講じていくことが大切です。

【若者のうつの治療 抗うつ薬が効きにくい傾向があり、環境の改善が特に重要】

 うつ病の治療は通常、「休養」、抗うつ薬などによる「薬物療法」、考え方を変える認知療法などを含む「精神療法」が3本の柱となります。中高年の典型的なうつ病の場合、これらの治療によって、多くは3ヶ月~半年ほどでよくなっていきます。
 ところが、若者のうつでは、この3本柱の治療だけでは解決しないことが多いのが実情です。症状が重いときには3本柱の一般的な治療を行いますが、簡単に効果が現れないこともあります。
 特に薬物療法で使う抗うつ薬は、中高年のうつ病にはよく効きますが、若者のうつには効きにくく、症状が慢性化しがちです。さらに、若い人が抗うつ薬を服用した場合、服用開始から約2週間の間に、「気持ちが高ぶる、イライラする、死にたい気持ちが強まる」といった副作用が現れることがあるので注意が必要です。
 特に24歳以下の人では、抗うつ薬の服用初期に自殺したいという願望が強まる危険性が若干ながらあるため、使用については十分に検討される必要があります。薬物療法は、プラス面とマイナス面を考慮し、慎重に行われなければなりません。
 症状が軽くなってきたら、医師と一緒に、“どんな環境に置かれていて、どんなストレスがあるか”など、うつのきっかけとなっているストレスの原因を整理します。そのうえで、環境を変えたり、足りない能力を習得する手助けをしたりして、患者さんが環境に適応していくのを支援することが、若者のうつの重要な治療となります。

【周りの人の対応 典型的なうつ病と異なることを理解し、環境を整える努力が必要】

 若い人のうつは中高年に多い典型的なうつ病と異なるため、周りの人は特に次の点に注意します。
 若い人のうつは“怠けている”と誤解されがちですが、本人は非常に苦しんでいます。周りの人はその苦しさを理解し、休養と服薬を勧めるようにします。
 典型的なうつ病は、抗うつ薬を服用して休養していればよくなることが多いのですが、若者のうつでは薬が効きにくく、治療に長い時間がかかることも少なくないことを理解してください。
 周りの人は、医師との連携を深めて社会復帰のためのリハビリテーションを支え、さらには勤務先や学校とも協力しながら、患者さんの環境を整えることを考えるのも非常に大切です。
 また、本人を責めないようにします。患者さんを追い詰めて逃げ道を塞いでしまうような対応をすると、自傷行為に走ったりすることもあるため、避けなければなりません。なるべく本人のよいところをほめるように心がけ、前向きに社会復帰しようという気持ちをもたせることが大切です。

【私の意見】Up63

 日本の若者は世界でもとびぬけて危害を加えないやさしい“生きもの”です。私は時々若者の街と言われる渋谷を訪れることがあります。たくさんの若者がいますが、恐いと思わせるようなニイちゃんもネエちゃんもいません。みんな他人のことに無関心です。昔は“眼をつけた”と言ってすごむ若者が時々いましたし、若者同士の喧嘩も時々ありました。渋谷はほんとうに安全なまちです。もともと日本人は殺人の発生率は米国、英国、フランス、ドイツの5分の1ないし3分の1です。若者の殺人や強盗の発生率は他の世代よりも多いのが各国共通です。日本も昭和20年代はそうでしたが今では若者は大人世代と変わりがありません。それだけ日本の今の若者はとびぬけて安全です。
 私たちは青年期によくキレました。キレて友人やまわりの大人と口論になり時にはとっくみあいの喧嘩となりました。でも今の若者は職場で傷つくようなことがあるとキレる前に自分の中にとじこもる傾向があるように思います。
 働くうつの人のための弁護団に休職中の若い人の復職相談が時々あります。ご本人からの相談と両親を通じての相談があります。弁護団から勤務先に働きかけると、多くの場合勤務先は一定の職場環境の改善の努力を示しますが、根本的な解決でないため休職期間が満了により退職したというケースも少なくありません。
 相談を受けながらやさしい“彼にとって”“彼女にとって”魅力のある生き方は何だろうと思いをめぐらしますが、いい処方箋がなかなか見つからないのが私の悩みです。

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2008年4月 1日 (火)

AERA 派遣うつをうつの弁護団が支援

  AERAの4月7日号(3月31日発売)に「『派遣うつ』原因は正社員」という記事が掲載されています。その中で「働くうつの人のための弁護団」の立場から私がコメントした記事が掲載されていますのでご紹介させていただきます。

-以下AERA記事(文・編集部浜田奈美)より-

【「派遣うつ」原因は正社員】

<今や非正規雇用者は1730万人以上。数では正社員の半数に及ぶが、職場での立場は弱く、うつになる人も多い。「心の安全網」も不十分だ。>

 「大変ですねえ。思い切って社員さんに、一度キレてみたらいいじゃないですか」
 自分より2歳年上の派遣元の担当者の言葉に、派遣社員のタカコさん(仮名、28)は耳を疑った。派遣先での仕事量の多さや正社員との人間関係の難しさに、精神的に不安定になり、相談を持ちかけた矢先のことだ。タカコさんはそれ以上相談する気になれず、やりきれない思いで帰途についた。
 「キレて解決できるものなら、とっくにそうしてますよ。それができないのが派遣のつらさなのに。何もわかってないんだと知って、ショックでした」

【オレ忙しいから頼むよ】

 タカコさんが、いま勤務する都内の広告会社に「事務補助」として派遣されたのは2年前だった。営業系の超多忙な職場で、タカコさんは、忙しい正社員たちに代わって電話応対や資料整理、経費書類の作成などを任されている。多忙な部署だけに殺気立つ瞬間も多いのだが、そんな時はタカコさんにも緊張が走る。正社員にかかってきた電話を本人に転送しようと試みて、正社員がいらだち紛れに、「何よ、今すごく忙しいのよ」と、電話口でタカコさんにいわれのない不満をぶちまけることが多々あるからだ。
 「オレ忙しいから頼むよ」と、本来なら自分でやるべき雑用を言いつけにくる社員も、タカコさんが職場に慣れるにつれ増えた。景気づけに職場で宴会がある時は、生ゴミやお酒の片づけを当然のように、「タカちゃん、よろしくね」と任せて二次会に消える社員をよそに、生ゴミと格闘して残業するパターンも度々あった。
 週5日、残業を含めて月収20万円弱。正社員たちはそのダブル、いやトリプルスコアの給料を手にしていると思うと、「いったい、どこまでが自分の給料分の仕事なんだろう」などと考えてしまう自分自身に、さらに落ち込む。
 1年半がすぎた頃、職場で突然、脈絡もなく泣き出してしまった。心療内科を訪ねてみようかと迷ったけれど、職を失いたくない一心でギリギリまで踏ん張ろうと、まずは派遣元の担当者に相談したのだった。
 タカコさんは半ばあきらめたようにこう語る。「『実はうつです』なんて派遣社員が言ったら、『元気なやつよこせ』って言われてクビですよ。だからせめて部署替えを相談できたらと思ったんですが」

【人脈なく相談できず】

 職場のうつの深刻化が指摘されて久しい。最近の調査では、厚生労働省の労働安全衛生基本調査(2006年9月発表)で、従業員10人以上の約8500民間事業所のうちメンタルヘルスを理由に休業した従業員がいる事業所は3.3%。従業員1000人以上の事業所に限れば、8割以上に至った。仕事上のストレスによる精神障害で労災認定を受けた人も、06年度は前年度の1.6倍、過去最多の205人だった。

 人材マネジメント会社「アトラクス ヒューマネージ」では昨年、全国の企業約100社の従業員1400人を対象に独自のストレス検査を実施した。その結果、「正社員」と「非正社員」とでは「非正社員」の方がストレスの対処がうまくいっておらず、身体の不調や憂鬱感をより強く感じていることがわかったという。
 同社の斉藤亮三代表取締役社長はこう分析する。「非正社員は正社員に比べて人的サポート、特に上司からのサポートが得られていない、と数値に表れています。人的サポートの代表的手段が『相談』。相談によってストレス軽減が期待されますが、一般的に非正社員は正社員ほど社内の人脈が豊富ではなく、相談しづらい立場なことが、ストレス状態を悪くしていると考えられます」

【過労で嗅覚まひの後・・・】

 しかし、不幸にして何一つ“心のセーフティーネット”にアクセスできず、最悪の結末を迎えたケースもやはりある。上段勇士さんが23歳で自らの命を絶ったのは1999年3月のことだった。

 98年の年末、上段さんは家族と過ごすため東京の実家に帰宅。やつれ、憔悴した上段さんを自宅に残して母親ののり子さんが外出し、戻ると、家は「カビキラー」の刺激臭が充満し、上段さんはその中で風呂掃除をしていた。嗅覚が鈍っていたのだ。
 目隠しをして様々な調味料の味見をさせても識別できない。ほぼ完全に嗅覚も味覚もまひした、深刻なうつ状態。その3ヵ月後、上段さんは遺書らしき文言を部屋に残して命を絶った。

 のり子さんはこう振り返る。「よく『つらければ言えばよかったのに』と言われますが、非正社員はそうできないことを前提に雇用されています。『いつでも解雇するぞ』という姿勢を感じて生活するから、必死に働きます。それなのに、勇士が過労ラインを超えていることを把握できる上司が、職場に一人もいなかった。正社員である上司が、派遣や請負社員たちの仕事内容をよく知らないのです。正社員が命令だけを下し、非正社員が手足となって働く。そんな理不尽な現場に、何も知らずに社会人の第一歩を踏み出した勇士が不憫でなりません」

【法的手段も活用を】

 もしも自殺に至らなかったとしても、「治療」だけでは決してすまされないケースである。こういう場合、法的アプローチで安易な首切りを阻止したり、労災申請で「実例」を重ねたりすることが大切だ。
 05年、「働くうつの人のための弁護団」を結成した清水建夫弁護士は、非正規雇用者がうつなどを発症した場合でも、労働時間の超過や複雑な人間関係などの「業務起因性」を立証することで、地位保全や解雇権乱用阻止も十分可能と強調する。「派遣先がよく変わる派遣社員でも、派遣元に対して安全配慮義務責任を問うことができますし、日雇い派遣でも、現場に行ったら仕事がなかったという繰り返しでうつになった人などは、裁判で勝てる可能性がある。非正規の人も『うつは自分の責任』と泣き寝入りするのではなく、我々のような窓口を活用する勇気を持ってください」

【私の意見】Up63_2

 正社員も非正規社員も同じ人間。年齢も仕事の内容もほとんど変わりません。それなのに企業が労働条件を差別し、同じ人間同士が足のひっぱりあいをし一方が他方を見下す構造となっています。この記事をみてこのような構造をつくった政治家、財界人、えせ「学者」たちにあらためて言いようのない憤りを感じました。足のひっぱりあいをしなくとも私たちは全員豊かに楽しく生きていける環境にあります。働くうつの人のための弁護団に非正規雇用の方からも時折メールで相談がありますが、職場内での身分がもともと安定していないため“弁護士さんのところまで行ってもどうせクビを切られる”とあきらめる方が多いことは確かです。でもこの歪んだ構造をつき崩すためには最も痛めつけられている人から声を挙げていく必要があります。弁護団は精一杯応援しますので、あきらめずに声を挙げてほしいと思います。

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2007年8月23日 (木)

公務員に増えるうつ病 欠ける助け合い

【「心の病」自治体でも増加 
           仕事量増えた/職場の助け合い減った】

                      (8月23日 朝日新聞 より)

 自治体の半数近くで、過去3年間にうつ病や神経症などの「心の病」になる職員が増えていることが、社会経済生産性本部メンタル・ヘルス研究所のアンケートでわかった。企業と同様、自治体でも1人あたりの仕事量が増えて職員同士の助け合いが減り、職場のストレスを高めているようだ。
 社会経済生産性本部が今年4月、全国の都道府県や市区町村など1874自治体にアンケートを郵送、727自治体から回答を得た(回答率39%)。同研究所は、これまで企業などを対象にメンタルヘルスに関する調査を実施してきたが、自治体は初めて。
 過去3年間の心の病の増減傾向を尋ねたところ、48%の自治体が「増加傾向」と答えた。36%が「横ばい」で、「減少傾向」は4%しかなかった。特に規模の大きい自治体では、その傾向が強く、職員数3千人以上の自治体では79%が増加傾向にあった。同研究所が06年に行った企業アンケートでは、3千人以上の66%が「増加傾向」と答えており、自治体の方が13ポイント高い。
 また、回答したうち98%の自治体が「住民の行政を見る目が厳しくなっている」と感じていた。95%が「1人あたりの仕事量が増えた」、49%が「職場での助け合いが減った」と感じていた。
 「職場での助け合いが減少した」という自治体では、心の病が増加した割合が56%。「減少していない」自治体では40%だった。
 同研究所は「仕事量の増加や職場での助け合いの減少が心の病につながる傾向は、自治体も企業も同じだ。自治体の場合は住民の目も厳しく、その大変さを職員がバラバラに受け止め孤立してしまうと、今後も心の病が増える可能性は高い」と分析している。

【進む職場の荒廃・腐敗した管理者の心】

 地方公務員だけでなく、国家公務員の間でもうつ病が増えています。公務員は身分が保障されており、よほどのことがない限り免職されたり降格されることはありません。お互いに身分を保障されているのだから助け合って生きていけばよいと思うのですが現実はそうではありません。働くうつの人の弁護団に相談があり、私が担当した2つの事件についてご紹介します。以下は私の論文の引用です。

1 国家公務員A君(男性、24歳)
  新人研修終了後、女性の多い職場に配属される。職場に馴染もうと努力するが、「男性のくせに 覇気がない」などのセクハラ発言を受け、ストレスがたまり、メンタルクリニックに通い薬を服用し始めた。職場で服用しているのを上司に見つかり、診療所に連れていかれた。診療所の医師は“少し様子をみましょう”という鷹揚な対応であったが、配属先は条件付採用期間である6ヵ月以内にA君を退職させることを決め、A君に上司数名(年齢はいずれも40歳以上)で依願退職を迫り、依願退職をしなければ分限免職をする旨おどした。
  弁護団に依頼があり、私たちが代理人として配属先を訪ね、退職強要をやめるよう求めた。しかしながら配属先は強硬に“依願退職しなければ分限免職をする。分限免職になれば本人に傷がつくので、退職するのが本人のため”というおどしに終始し、とりつく島がなかった。私たちは本庁に掛けあえば何とかなるだろうと思い、分限免職が認められる事案ではないので配属先を指導して欲しい旨要望したが、本庁の管理者は、本庁も同じ考えであるとの態度をとった。法的には分限免職が認められるとは到底思えなかったが、条件付き採用期間中の公務員が争うには訴訟しかなく、数年に及ぶ訴訟期間は裁判は勝ってもA君がボロボロになることを懸念した。A君は他の試験をめざすこととなり、結果としては依願退職をした。A君が私たちに対して自分を評価し、応援してくれる大人がいることを知って、元気が出てきたと言ってくれたのがせめてもの救いであった。

2 地方公務員B氏(男。37歳)
  3年前にうつ病になり7ヵ月間病気休暇ののち、3ヵ月間職場復帰訓練を受けて復職した。その後1年余り支障なく普通に勤務していたが、労働組合の支部長に立候補し当選したのを捉え、所属長が抗うつ薬を飲んでいるから病気が治癒していないとして内科の産業医に強引に面接させた。産業医による保健指導という名目のもとに翌日より出勤停止措置をとった。精神科医の主治医は就業可能との診断をしており、弁護団に依頼。出勤停止措置は地方公務員法上根拠がなく、明白な違法措置である。直ちに撤回を求めるとともに、産業医との面接を希望したが実現せず、逆にB氏に無断で産業医と所属長が主治医に会い、診断の変更を求めるという患者の人権侵害行為を行った。さらにB氏に対し、詫び状を出させるなど管理者としての支配的立場を利用して事態をごまかそうとした。最終的には所属長もあきらめ、7ヵ月後に復職させた。その直後B氏は夜間勤務を命ぜられ、仕返しとしか思われない処遇により、うつが一層重くなり、今なお苦しんでいる。

 日本の企業や官庁は十数年にわたりストライキも団交もなく、すべてが整然と組織的かつ効率的に動いているようにみえる。しかし、うつの労働者をサポートして驚いたことはすさまじく進行する職場の荒廃である。
 A君の上司であった40歳以上の国家公務員の男女数名は、集団的官僚主義の中で粛々と働き、異端と思えるものは目をつりあげて排除に走った。B氏を排除するため違法行為を重ねた所属長と産業医は、不承不承復職を認めたのち、うつ病に悪い職場へのリベンジ配転を強行した。後でこれを聞いた私の心は凍りそうであった。

【日本人の心の質】

 以下も私の論文の引用です。

 小泉構造改革は政府と経済界が一体となって人をコストとみなし、平然とリストラを行い、職場では成果主義を強調し、人と人を競争させた。その結果、職場がギスギスとしたものになり、過労死やうつ病やうつ病による自殺を生んだ。政府・経済界と「学者」の責任は大きいが、それに乗って足の引っ張り合いを演じた日本人の心の質も問い直してみる必要がある。
 日本の労働者は組織の中で、組織を優先することしか学んでおらず、すぐそばの隣人を思いやることに欠落している。集団主義の中で戦後62年間に多くの国民の心の中に形成された他者に冷淡な人間性を改善することは容易ではない。
 人は社会的動物であり、他者に役立っていると思えるときに本当の喜びを感じる。かなりの日本人は真の喜びを見失っているように思えてならない。職場で傷ついている同僚・部下を一人ひとりが大切にし、上司の過ちを正し、経営者に対し、歪んだ職場環境の是正を求める以外に閉塞感に満ちた職場環境を改善する道はない。

【私の意見】Up63

 ① 政治家は3~4流でも公務員は1流
 私の意見はほぼ論文で述べました。別の視点から少し付け加えますと朝日新聞の記事にもありますように、公務員を見る住民の目や国民の目が厳しくなったことも事実です。しかし最近の社会保険庁の解体劇にしても、政府は自らの失政を生身の人間(公務員)をスケープゴート(生けにえ)にして責任を転嫁し、問題の本質を隠蔽することが少なくありません。それに乗っかって“そうだそうだ、あいつらはたいして働いていないのにいい給料をもらっている”とはやしたてる日本国民の心の質も大きな問題です。私は戦後62年間日本の公務員は世界的レベルでも総体的には一流の仕事をしてくれたと思います。そうでなければ、3流、4流の政治家が日本経済にしろ医療を含む公衆衛生にしろ世界一級に仕上げることなどできる筈がありません。
 自らの無能を棚にあげて“諸悪の根源は官僚にある!”“日本の民主主義のために官僚支配を打破する!”と政治家があおると賢いわが日本国民はこれに同調してやんやの喝采を送るのがいつもの風景で、私はもう見あきました。
 
 ② 日本国民の民主主義力が問われる
 とはいえ私も日本の官僚制度に改善すべき本質的問題があることを否定するものではありません。私が言いたいのは制度としての問題点と生身の人間の問題をごちゃまぜにせずに、冷静に判断しなければいけないということです。これは日本国民の民主主義力の問題です。

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2007年3月15日 (木)

朗報!うつ病の労働者の職場復帰増加

【新聞を読むひまがない】

 3月はとても忙しく、新聞を見出しをななめ読みすることしかできていません。これまで新聞記事を中心にブログを構成していましたので、更新しないままに日にちが経ってしまいました。時折私のブログをのぞいて下さる方々の期待を裏切ってすみません。
私の近況をお伝えします。

【労働事件がふえている】

 3月はヘビー級の訴訟事件の証人尋問が2件あり、その準備に時間をとられています。いずれも労働事件(解雇事件)です。私の事務所はさまざまな事件を幅広く受けていて、性格的には市民法律事務所と思っていますが、最近は労働事件がかなりの割合を占めるようになっています。東京地方裁判所だけでなく、名古屋地方裁判所や仙台地方裁判所に係属している事件もあります。それほど働く人の現状が厳しいことを反映しているのだと思います。

【うつ病の労働者の職場復帰の成功例がふえている】

 明るい話題は、働くうつの人の職場復帰が改善してきたということです。企業がうつ病で休職した労働者をやめさせようとする傾向は変わりません。ただ、弁護士がサポートすることにより、企業が方向転換し、復職を受け入れるケースが少しずつでてきました。昨年11月30日NHKがクローズアップ現代で“急増する働き盛りのうつ病”を特集でとりあげたことがよい方向に作用したように感じました。

【でも企業の本音は職場から排除】

 そうかと思うと、別件で大手生命保険会社が中途で視力障害者となった労働者を解雇しようとしていたのには驚きました。本社に行って直談判しましたが頭のかたさに驚きました。“今どき、えっ!”と思いましたが、うつ病であれ障害であれ、排除したいというのが企業側の本音であることをあらためて感じさせられました。解雇や退職扱いになる前に、弁護士が関与してサポートすることが必要であり、重要であると思います。退職扱いになったあとに撤回させるのは大変な労力と時間がかかります。

【楽しく働く】

 このところうつ病や障害者の労働者の代理人として、日本を代表する企業や学校法人の人事部に直談判することが少なくありません。その時いつも私が感じることは、企業側の立場に立って排除の正当性を述べる人事部の担当者の表情も決して楽しそうではないということです。排除の論理を優先させるかぎり、そこで働く人たちは排除される側のみならず排除する側にとっても楽しい筈がありえないということです。
私たち日本人は楽しく生きるということに最も適応性のない民族になってしまいました。このあたりで私たちも楽しく陽気に生きる民族に変身しましょう。
そのためにはどのようにすればよいか、何が欠けているのかをみんなで考えていきましょう。しかめっつらをして考えるのではなく、ワインでものみながらにぎやかに・・・
     Wine

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2006年12月10日 (日)

【激増するうつの真犯人はだれっ?】

私の発表論文より ~

“多様な働き方”というまやかしの言葉を多用し政府が推し進
めたもの


(1) 政府・経済界は総合規制改革会議あるいは経済財政諮問会議を利用し、「多様な働き方」「雇用・労働の規制改革」の名のもとに企業が契約関係を打ち切りやすい労働法制を次々とつくり、拡大した。 a.労働者派遣制度の拡大、b.有期労働契約の拡大、c.雇用と実質的に変わりのない請負契約の容認、d.裁量労働制の拡大等。

(2) 労働契約形態について多様なメニューが用意されれば企業がコストが少なく、契約関係を打ち切り易い契約形態を選ぶのは自然の理である。現実に正規社員が大幅に減少し、パート、有期契約、嘱 託、派遣、請負の非正規雇用形態が著しく増加している。企業の8割は非正規雇用選択の理由を「労働コスト削減のため」と明言している(2006年労働経済白書)。

(3) 非正規雇用では賃金の上昇がほとんどない上に、労働者にとりキャリア形成ができず、技術や経験の蓄積ができない。同白書によれば20歳代の20%以上の者の年間収入が150万円未満であり、200万円未満をとれば3分の1に達している。低収入の若者は現在のところ親と同居していることが多いが、将来自立しなければならない事態を迎えた時に大きな社会問題となることが予測される。

(4) 一方、正規労働者は正規労働者の人数が減る中で負担が増加し、かつ成果主義の厳しい現実のもとに不安が増加し、「心の病」が増加している。「多様な働き方」というのは、労働者が望んで、進んで選べる環境があってこそ意味あるものになる。雇い主側のみ選択権のある現実のもとでは労働者にとってただ悲惨な結果しか残らない。「多様な働き方」という甘い無責任な響きの言葉を多用し、企業のリストラを推進してきた政府・経済界・学者の責任はきわめて重い。

~ 神野直彦東京大学経済学部・大学院経済学研究科教授
             
著 「『希望の島』への改革」より ~


神野直彦教授は、5年前に著書「『希望の島』への改革」(NHKブッ
クス)の中で次のように指摘しています。

(1) 「日本は今、この『歴史の峠』を、『競争社会』への道を目指して超えようとしている。『競争社会』を目指して邁進しさえすれば、『活力ある社会』という『希望の明日』が待っていると吹聴されているからである。」「『競争社会』では、人間は目的達成のための手段として位置づけられ、コストを高める妨害物と見なされてしまう。『競争社会で』称賛される有能な経営者とは、自分が経営する企業から、コストのかかる妨害物である人間を、いかに多く排除したかによって評価される。」「こうして、企業も政府もリストラによって、人間が共同生活をする『場』である社会から人間を排除しようとする。」(9~12頁)

(2) 「社会とは、他者との協力なしには生存ができない人間が、共同生活を営む『場』である。いやしくも人間が共同生活を営む社会というからには、『他者の成功に貢献すれば、自己も成功する』という『協力原理』が埋め込まれていなければならない。」「いま日本は、血眼になって社会から人間を排除することに全力を挙げている。何のために社会から人間を追い出すのかを、立ち止まって再考しなければならない。人間の幸福のために企業があり、政府があるはずである。人間を忘れた日本は、明らかにハンドルを切り間違えたのである。ハンドルを切り間違えたのであれば、アクセルを吹かせても、地獄に向かって突き進むだけである。早くハンドルを正しい方向へ切り替えなければならない。人間は、人間にとって最高の存在である。経済のために人間があるのではなく、人間のために経済はある。ところが『競争社会』では、人間は経済の『手段』にしかすぎない。人間はコストを高める妨害物と見なされ、人間が共同生活を営む『場』である社会から人間を追放してしまう。しかし人間中心の『協力社会』では、人間の能力を相互に高め合い、生産性を向上させることによって、経済成長を目指すことになるのである。今からでも遅くはない。生まれ出ずる痛みに耐え、人間を中心とする社会を目指して『歴史の峠』を超えていこうではないか。つまり、日本を『希望の島』に再生するため、『競争社会』に別れを告げ、『協力社会』への道を着実に歩み始めようではないか。」(10頁、19~20頁)

私の発表の場では、会場から事例報告について質問や意見が活発に交わされました。

論文の6項、7項をお読みください。

私の論文や、神野直彦教授の指摘についてご意見があればお聞かせください。

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2006年12月 1日 (金)

クローズアップ現代の放送

11月30日放送,NHKのクローズアップ現代「急増する働き盛りの“うつ病”」
は,うつ病で苦しんでいる働き盛りの人たちに希望を与える番組としては,とてもよかったと思います。 
後半に登場した企業は企業のあるべき姿としてこの番組のビデオを有効に使えると思いました。
 
働くうつの人のための弁護団も5分間位紹介されました。
番組の後半に登場したうつ病の予防やうつ病の労働者の職場復帰に積極的に取り組む企業はまだ少数です。うつ病を発症した労働者の個人責任として職場から排除しようとする企業が今なお後をたちません。
働くうつの人のための弁護団は,そのような企業に対して仁王さまのようにがんと立って労働者を守っていきたいと思います。

ちょっと残念なのは,番組全体の流れの中では,弁護団の取り組みがむかしむかし話のように異質にうつる感がありました。弁護団に寄せられる相談は,今現在進行中のホットなものばかりだということをご理解ください。

この番組をこまめに足をはこびつくりあげ,弁護団を紹介してくれたNHKの若き女性ディレクターに感謝します。

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