2007年3月28日 (水)

こわ~い法律 「労働契約法」案

【社会権(勤労の権利・労働基本権)の全面否定】

 政府は3月13日労働契約法案を今通常国会に提出し、成立させようとしています。

 規制改革・民間開放推進会議が2006年12月25日に発表した「規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申の概要」に基づくもので、概要は、労働契約法制の整備として「労働条件の最低基準を定めた労働基準法以外に労働契約に関する公正・透明な、民事上のルールの明確化を図る視点から、労働契約法制を整備[時期通常国会に法案提出等の措置]」としています。
 次いで2006年12月27日労働政策審議会(会長菅野和夫)は厚生労働大臣に答申を提出し、労働契約法制の必要性について「労働契約の内容が労使の合意に基づいて自主的に決定され、労働契約が円滑に継続するための基本的な考え方として、次のとおりルールを明確化することが必要である」とし、労働契約の原則について、「労働契約は、労働者及び使用者の対等の立場における合意に基づいて締結され、又は変更されるべきものとすること」としています。
しかし、現実の労使間の力に隔絶した差があり、だからこそ憲法は勤労の権利と労働基本権を保障しました。規制改革・民間開放推進会議と労働政策審議会の答申は社会権としてのこれら権利を全面的に否定し、労働法で保護すべき労働者の権利を対等な市民間の契約である民事法の世界に移して、労働者を無保護状態にしようとするものです(私の1月4日ブログ記事「労働のビッグバン」)。私たちは、政府・経済界がホワイトカラー・エグゼンプションの法案提出を断念したことで胸をなでおろしているととんでもないことになります。この労働契約法案にはホワイトカラー・エグゼンプション以上に恐ろしい毒薬が盛られています。加えて政府や経済界はホワイトカラー・エグゼンプションにしても参議院選が終われば提出してくるのは目に見えています。

【労働基準法の骨抜き】

 労働契約法を成立させることによって政府・経済界が企図しているのは労働基準法の骨抜です。労働契約の基本部分の多くが労働基準法から労働契約法に移されています。しかし条文の文言が同じでも労働基準法に規定されているか、労働契約法に規定されているかによって法規としての本質に大きな違いがあります。その違いはそれぞれの第1条を比較するだけで明らかです。労働基準法第1条は

(労働条件の原則) 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
2  この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」

と規定しています。一方労働契約法案第1条は

「(目的)この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則及び労働契約と就業規則との関係等を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。」

と規定しています。労働基準法憲法25条・27条を根本規範としていますが、労働契約法案は「労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則」としているとおり契約当事者間の合意を基本とした、まさに市民法の世界です。使用者と労働者に隔絶した力の差があって労働者が不利な契約を余儀なくされても合意の原則によりこれを容認し助長するというのが労働契約法の考え方です。労働基準法は賃金不払いにしろ、男女の労働条件の差別にしろこれに違反したときは刑事罰を科すことを基本としています。労働基準法が守られているか否かについては労働基準監督署が監視をしており、労働者の訴えで労働基準監督署が動くことも少なくありません。ですから、経営者にとり労働基準法はこわい法律であり労働基準監督署もこわい役所です。ところが労働契約法になるとこれに違反しても罰則もなければ、違反しているか否かを監視する機関もありません。経営者は強い立場をカサにきてやりたい放題ができることになります。

【経営者による労働条件の不利益変更の容認・助長】

 のみならず、労働契約法案は経営者にとって大変便利な装置を準備しました。その装置というのは、就業規則を改正することにより労働条件を一方的に切り下げることができる規定です。就業規則は使用者が作成するものであり、使用者と労働者の合意により定めるものではありません。労働契約法は表面上は「合意の原則」を強調しておきながら、その実は合意の原則を使用者に有利にホゴにするものです。したがって市民法のルールさえ守っていないのです。
労働契約法案10条は労働条件変更の要件について

「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」

と規定しています。しかし何が合理的であるかはこれだけでは抽象的すぎてわかりません。抽象的であっても「合理的である」ことについて使用者の方で裁判所の判断を求めて労働条件の変更(切り下げ)を認められた場合にはじめて変更ができるというのであれば、使用者の暴走をとめることができます。しかし現実は逆です。使用者は自分で定めた就業規則は合理的であると言い張り、切り下げた労働条件で労働者を退職させたり賃金や退職金をカットします。これが不当だとして裁判所への訴えを余儀なくされるのは労働者の側です。労働者にとり裁判というものが精神的にも経済的にもいかに負担が大きいかを思えば、労働契約法案第10条の規定は使用者のやりたい放題を認容し助長する規定と言えます。労働契約法が第1条のとおり本当に合意の原則を基本とするのであれば、一度合意した契約条件を切り下げるのには使用者と労働者の合意が必要です。労働者側の合意(同意)もなしに労働条件の切り下げを認める労働契約法案は表向きで言っていることとその実が異なっており、この法案も欺瞞にみちみちた法律案だと言えます。

【放っておいてはいけない】

使用者の一方的な切り下げを認めていると労働者の権利がとめどもなく切り下げられていきます。ホワイトカラー・エグゼンプションほど労働契約法案の違法性・不当性について多くの国民は気づいていませんが以上のとおりとんでもない法案であり断固成立を阻止しなければいけないと思います。

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■ 労働契約法制

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2007年3月 2日 (金)

ノキ弁 (軒先弁護士) どう?

(2月27日 朝日新聞 夕刊より)

【日弁連就職促進へ推奨】

 新米弁護士が独立するまでの間、先輩の法律事務所に「居候」して給料をもらう「イソ弁」に変わり、固定給なしで事務所の机(軒先)だけを借りる独立採算型の「ノキ弁」が注目されている。司法制度改革に伴い、年内に司法修習を終えるのは昨年より千人多い約2500人。うち数百人が就職できないとも予測される状況に、日本弁護士連合会が、「ノキ弁」の推奨を始めた。だが、「いきなりの歩合給は厳しい」との声も上がっている。

【事務所の机拝借 固定給なし】

 札幌市中央区の大通公園近くのビルに、「ノキ弁」を提案した高橋剛弁護士(55)の誠信法律事務所がある。10年前、就職先が決まらず困っていた修習生と雑談して思いついた。机の幅に間仕切りされた空間に、3人の「ノキ弁」が席を置く。
 電話、パソコンなどは自由に使えるが、固定給はない。高橋弁護士が受けた依頼を共同受任し、ノウハウを教えてもらいながら報酬の一定割合をもらう。独力で引き受けた依頼は、報酬の全額が自分のものになる。
 沖田良明弁護士(31)は昨年10月に修習を終え、机を借りた。債務整理など、すでに十数件を独力で受任。利息計算などの細かい仕事も自分でこなすので、帰宅は深夜だ。入所時に高橋弁護士が無利子で貸してくれた生活費100万円を取り崩しながら、専業主婦の妻と2人で暮らしている。
 高橋弁護士は、これまで計6人の「ノキ弁」を受け入れた。いずれも平均的な「イソ弁」の年収(約600万円)かそれ以上の収入を上げているという。「事務所外の弁護士と組むことも自由で、様々な事件にかかわれるので勉強にもなる。『イソ弁』より教育効果は高い」と話す。

【今年400~500人就職できない恐れ】

 旧司法試験合格者は、1年4ヶ月の修習が必要で、例年、秋ごろに終了する。今年は旧司法試験の合格者に加え、法科大学院(ロースクール)の修了者が受験した新司法試験の合格者も12月ごろ修習を終えるため、計約2500人がほぼ同時に就職期を迎える。うち約9割が弁護士を目指すとみられ、東京や大阪などの大都市は過密状態に。日弁連はこのままだと400~500人が就職できない恐れがあると試算する。
 就職難対策として、日弁連の弁護士業務総合推進センターは昨年12月、高橋弁護士の事務所をモデルに「事務所内独立採算弁護士(ノキ弁)」について説明した冊子を作成し、全国での普及活動を始めた。「イソ弁」への固定給支払いが事務所側に負担となり、採用の障害になっているからだ。ただ、会員からは「『母屋に入れてもらえない』ともとられ、イメージが暗い」など、異論も出ている。

【私の意見】Up63_12

① ノキ弁はむしろ理想型

 私はノキ弁は弁護士大量時代に対応する上で望ましい制度だと思います。イメージが暗いとは全く思いません。先輩のもとで先輩のアドバイスを受けながら、しかもほとんどが自立というのは、若い弁護士が早くから個性を発揮する上で理想型と言ってもよいかもしれません。

② 弁護士の世界にヒエラルキーはない

 問題はむしろノキ弁に机を貸してくれる先輩がどの程度居るかということです。弁護士の世界にヒエラルキーはありません。特殊な事件を除けば、ある事件に最もすぐれた弁護士というのは、その事件に最も熱心に時間をかけ、現場に足を運び、文献や判例を調べる弁護士です。ですから、大法律事務所のベテランのボス弁とかけ出しの若い弁護士が争った場合でも、その事件については若い弁護士がすぐれた弁護士であり若い弁護士が勝つことは少なくありません。ベテランと若手の間に大きな差がないということは、逆に見ればノキ弁に机を貸せるゆとりのあるベテラン弁護士を確保することは簡単ではないということです。

③ 弁護士に対する信頼感を確立するために

 弁護士をうさんくさい人種だと思う人もいるでしょう。ですが、弁護士を多少の信頼感をもって見てくださる方も少なくありません。弁護士大量時代になると不祥事を起こす弁護士の数も増えることは不可避です。その中で弁護士に対する信頼を確立するためには国民から大多数の弁護士は真剣に仕事に取り組み、他の専門職とは違った視点から高い水準の成果を生み出していると思われるようにならなければなりません。
 弁護士はヒエラルキーがないとはいいましたが、ベテラン弁護士の長年の経験にもとづく仕事感、人生観にはかけ出しの弁護士にはない味があることも事実です。弁護士大量時代の到来はベテラン弁護士、若手弁護士が一体となって弁護士の将来を真剣に考えなければいけない瀬戸際に立たされたことを意味しているのではないでしょうか。

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2007年2月26日 (月)

弁護士大量失業時代? 進まぬ採用

【弁護士倍増】             (2月25日朝日新聞より)

弁護士は約2万3千人だが,18年までに倍増する見通し。数を増やし,高すぎるとされる弁護士報酬の水準を下げようとするのが経済界の狙いだ。弁護士会内部で強まる懸念に対し,改革推進派が「社会が『法化』され,組織内弁護士の需要増が見込める」と説得した経緯がある。

【日弁連調査 9割超の企業「弁護士採用しない」】
                  (2月22日 日本経済新聞より)

企業や官公庁の中で働く「組織内弁護士」について,9割以上の企業が採用する考えのないことが21日,日本弁護士連合会の調査でわかった。

 回答した企業のうち,企業内弁護士が勤務しているのは約4%にあたる57社。半数近くが資本金500億円以上の大企業で,所属部署は多くが法務部門だった。
 採用計画を尋ねると「募集中」と「募集していないが採用予定はある」は計3%「採用予定はないが検討中」(4%),「関心はあるが検討していない」(44%),「採用は消極的」(49%)と具体的な予定がない会社は9割を超えた。

【7割 「顧問で十分」】

採用しない理由(複数回答)は7割が「顧問弁護士で十分」と答え,ほかに「報酬(給与)の問題」(12%),「法務部・知的財産部など既存のセクションで不自由しない」(同)だった。

【私の意見】Up63_10

私も今後企業や官公庁が組織内弁護士を増やしていくという点については悲観的です。日本企業にしろ官公庁にしろ組織的に課題に取り組む点においてはきわめて高い水準にあります。その組織の中でリーダーシップを発揮するのは弁護士資格をもっているか否かとはあまり関係がないと思います。
企業が弁護士に価値を見出すのは内部の一員としての意見ではなく,自社以外のさまざまな事件を取り扱っている弁護士による判断だろうと思います。
組織内弁護士が進まないとすると弁護士大量時代は弁護士大量失業時代ということになりかねません。若い弁護士の方にとり切実な問題です。私は若い弁護士の方に,どんな時代も正確・迅速・誠意ある日常の弁護士業務の積み重ねが基本だと言っていますが,それだけで大量時代の大波を乗り切れるか?というのが若い人たちの本音のようです。

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