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2011年7月13日 (水)

社内格差が大きい企業ほど健康状態は悪い

【人口減時代の人材力強化】
【ポイント】

        (2011年4月21日 日本経済新聞 経済教室 より)

・体調不良による労働生産性の低下が問題に
・社内格差が大きい企業ほど健康状態は悪い
・企業は意思決定で従業員の健康に配慮必要

[河野敏鑑 富士通総研経済研究所上級研究委員 こうの・としあき 78年生まれ。東大博士(経済学)。専門は社会保障、公共経済学。]
[齊藤有希子 富士通総研経済研究所上級研究委員 さいとう・ゆきこ 74年生まれ。東大博士(理学)。専門は産業組織、計量経済学。]

【私の意見】Up63

 この論文は企業単位で構成されているすべての健康保険組合に着目し、その組合別月次データを情報公開請求を用いて入手し、企業内格差、企業内年齢格差と企業の従業員の健康状態の関係について分析を試みています。そして「企業内格差、企業内の年齢内格差が大きい企業の方が健康状態が悪いことが明らかになった」としています。私は不公正な人事がまかり通っている企業、若者を粗末にしている企業に精神疾患で苦しむ従業員が多いことを日頃感じていました。この研究はそのことを客観的なデータをもとに実証した貴重な研究だと思います。企業経営者や管理職の方は是非目を通していただきたいと思います。論文が長いので私の方で小見出しを<>でつけました。

【格差拡大 企業に損失 法律超えた対応が必要に】

<高齢者も働ける社会、若年者がより意欲的に働ける社会を構築しなければならない>

 日本は2005年から人口が減少する社会に突入した。有史以来、日本で人口が減少する局面は何度かあったという。しかし、今回の人口減少は過去のものとは大きく異なる。それは医療水準の向上によって死亡率がここ60年ほどで劇的に下がったため、高齢者が増加するなかで人口が減少するという事態である。約20年後の30年には、日本は人口の3人に1人が65歳以上の高齢者になると予測されている。

 こうした超高齢社会においても日本が経済的に持続可能であるためには、人的資本の維持・強化が重要である。高齢者も働ける社会、若年者がより意欲的に働ける社会を構築しなければならない。金融立国を目指すにせよ観光立国を目指すにせよ、どのような成長戦略や社会の幸福度の向上を掲げるにしても、まずもって人的資本の維持・強化がなければ、絵に描いた餅に終わるだろう。

<特に職場においては精神疾患に伴う休業や退職が大きな問題になっている

 人的資本の強化といえば、教育を想像する人も多いだろうが、教育と並んで人的資本の重要な部分を占めるのが健康である。まずもって健康でなければ、働くことも消費することも大きく制限される。
 特に最近、健康について話題となるのは精神疾患である。特に職場においては精神疾患に伴う休業や退職が大きな問題となっている。文部科学省によると公立学校教育職員のうち病気休職者は約1%、そのうち約3分の2が精神疾患によるものであるという。こうした教育職員に支給されている給与は年間で少なくとも総額数十億円に上るものと思われ、少なくともこの分だけ公立学校の生産性は低下している。
 しかし、健康状態が生産性に与える影響は、欠勤・休業に伴うものだけではない。休業せずに出勤したとしても、体調が悪ければ集中力が落ちるなど、仕事の効率が悪くなることが予想される。欠勤・休業に伴う生産性の低下を「absenteeism」と呼ぶのに対し、体調不良で職務を行うことによる生産性の低下を「presenteeism」と呼んでいる。ハーバード・ビジネス・レビューにおいてポール・ヘンプ氏は、米国において「presenteeism」による損失は「absenteeism」や医療費の会社負担などによる損失の合計の2倍以上に上ると推計している。
 また、日本においても厚生労働省は昨年9月に自殺・うつによる社会的損失の試算を公表し、09年における社会的損失の合計額が、自殺・休業による所得の低下、うつ病による社会保護支給費・医療費の増加などで約2.7兆円に上ることを明らかにした。

<企業内部での給与格差が企業内部の信頼感や統合、さらには健康状態とも関連しているのではないかと仮説を立てた>

 さて、日本において、職場環境は従業員の健康にどのような影響を与えているのであろうか。先に述べた公立学校のようなケースは例外的で、企業・職域ごとの健康に関する指標はよくわからないものと考えられてきた。しかし我々は、企業単位で構成されている健康保険組合に着目し、その組合別月次データを情報公開請求を用いて入手することで、企業の従業員の健康状態について分析を試みた。分析の対象は03年度から07年度にかけて5年度にわたって存在したすべての健康保険組合(1496組合)である。
 特に我々の研究で着目したのは、職場における給与格差と健康の関係である。地域における所得格差は、その地域の信頼感や社会的統合と関係し、さらには死亡率や健康状態にも影響するといわれている。一方で日本においては企業が共同体としての役割を果たしてきたことから、企業内部での給与格差が企業内部の信頼感や統合、さらには健康状態とも関連しているのではないかと仮説を立てた。

<企業内格差、企業内の年齢格差の大きい企業の方が健康状態が悪い>

 入手した月次データには、標準報酬月額(税引き前月給)給等級別の被保険者(本人)の人数が男女別に記載されており、企業別に給与格差(ジニ係数、平均対数偏差)を測定することが可能である。リーマン・ショックに至るまでの数年間、景気は回復したが格差が拡大したのではないかと指摘されてきた。我々の研究により、5年度の間に給与格差は拡大していたが、企業間では給与格差は大きく変化しておらず、企業内部での給与格差拡大が健康保険組合の被保険者全体の給与格差拡大に大きく寄与していたことが明らかになった。
 また、ここで観測される企業内格差を介護保険のデータとあわせて40歳以上と40歳未満に分け、年齢内格差と年齢間格差に分解することも可能である。観測期間において、企業内格差が拡大した企業が7割程度、年齢内格差が拡大した企業が8割弱存在することがわかっている。
 さらに、疾患に伴う長期休業で給与が支払われない従業員に支給される傷病手当金の件数や死亡した被保険者に支払われる埋葬料の件数を用いて、長期休業率や死亡率などを推測できる。そこで長期休業率や死亡率を健康状態の代理変数ととらえ、平均給与や、平均年齢、女性割合、給与格差などとの関係を分析した。その結果、平均給与が高い、平均年齢が低い、女性割合が高い組合の方がそれぞれ健康状態が良いことが確認された。さらにはこれらの変数の影響を調整しても、企業内格差、企業内の年齢格差が大きい企業の方が、健康状態が悪いことが明らかになった。
 長期休業を疾患別に区分した統計は全国的には集計されていないようだが、産業医や企業の人事担当者などにヒアリングしたところ、精神疾患がかなりの割合を占めているとのことである。厚労省の患者調査によると男性より女性の方が気分障害(うつ病・そううつ病など)の患者数が多いが、この研究では女性割合が高い方が長期休業率が低くなっている。一見、既存の統計と矛盾する研究結果に見えるが、これは女性が働きやすい職場環境の方がそうでない職場より健康状態が良いことを示唆しているのではなかろうか。

<一見、生産性を高めるように見える企業の意思決定が従業員の健康状態を悪化させて、かえって企業の生産性を損ねる可能性も否定できない>

 所得格差と健康の関係について、日本でも地域(都道府県・市町村)単位での研究が行われてきた。我々はこの研究で、職域単位(企業単位)においても所得格差が健康に影響を与えることを示した。確かに高齢者や子供にとっては生活の大部分を過ごす地域こそ健康状態に大きく影響を与える要素であろう。しかしながら、働いている現役世代にとっては、地域以上に職域が生活環境として大きな影響を与えていると思われる。本稿はこうした推察が正しいことを示唆していよう。
 既存研究において、企業内所得格差を包括的に測定した分析は少なくとも日本においては皆無と思われる。したがって、給与格差を含めた職場環境が従業員の健康状態、ひいては労働生産性に影響を与えるという分析結果だけでも学問的に大きな貢献があると思われるが、ここではさらに公共政策・企業経営に与える意味合いを考えてみたい。
 医療・健康産業は成長戦略の観点から注目されているが、その背後には高齢化に伴ってこうした産業への需要が増大するという需要面からの視点がある。しかし、人々が健康になることを通じて労働生産性が向上するという経路にも目を向けることが必要である。人的資本の維持・増進として健康をとらえ、そのなかで医療・健康産業の成長戦略を語るという供給面からの視点も必要であろう。
 またこれまで、経営者はここで示した健康と生産性との関係を考慮に入れたうえで、企業経営を行ってきたのであろうか。多くの企業では従業員の健康は法律で強制されてやるもの、あるいは、福利厚生の一環として行われるのもにすぎなかったというのが現実で、企業経営そのものが従業員の健康に与える影響など意思決定に際して考慮の対象外であっただろう。
 成果主義による賃金の決定や組織の意思決定の改革は、従業員のインセンティブを引き出すなどの点から必ずしも否定されるべきものではなかろう。しかしながら意思決定のプロセスや手続き、部下に対する接し方が不公平であると受け止められると、従業員の健康状態に影響を与えることが、近年指摘されている。一見、生産性を高めるように見える企業の意思決定が従業員の健康状態を悪化させて、かえって企業の生産性を損ねる可能性も否定できない。
 今後は、法律で定められた最低限の基準をクリアするという後ろ向きの視点ではなく、労働生産性の向上といった前向きな視点を交えて、職場環境の改善や従業員の健康に関する取り組みが積極的に進められるべきであろう。

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