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2009年9月27日 (日)

障害者労働雇用在り方研中間整理の問題点

【障害者権利条約と日本の国内法は法思想が異質】

 2006年12月3日国連総会で採択された障害者権利条約と日本の国内法(障害者基本法、障害者の雇用の促進等に関する法律など)は根本的な法思想が異なることを2009年3月23日ブログで述べました。障害者雇用については厚生労働省をはじめとする行政機関が事業主に甘い運用を一貫して行ってきたことについても指摘しました。

【労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会が中間整理を発表】

 厚生労働省は厚生労働大臣の諮問機関として2008年4月2日「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」を立ち上げ、同研究会は2009年7月8日中間整理を発表しました(厚生労働省ホームページ)。この中間整理は労働政策審議会障害者雇用分科会に引き継がれました。しかし、この中間整理は障害者権利条約を実質上骨抜きにするもので、到底賛同できません。
 以下に中間整理とこれについての私の意見を述べます。

【中間整理と私の意見】

(1) 合理的配慮の内容についての基本的な考え方

 <中間整理>

 「合理的配慮については、条約の規定上はそれを欠くことは障害を理由とする差別に当たることとされている(差別禁止の構成要件としての位置付け)が、これを実際に確保していくためには、関係者がコンセンサスを得ながら障害者の社会参加を促すことができるようにするために必要な配慮(社会参加を促進するための方法・アプローチとしての位置付け)として捉える必要があるとの意見が大勢であった。」
「『合理的配慮』は、個別の労働者の障害や職場の状況に応じて、使用者側と障害者側の話し合いにより適切な対応が図られるものであるので、本来的には、企業の十分な理解の上で自発的に解決されるべきものであるとの意見が大勢であった。」

 <中間整理に対する私の意見>

 中間整理は障害者権利条約が合理的配慮の否定は差別に該当するとした意味を全く理解していません。法による強制力をもってこそ実効性がありますが、コンセンサス、話し合いを前提とすることは強制力の放棄であり、合理的配慮を基本から否定するものです。中間整理は現状を肯定し差別を容認するに等しいと言えます。

(2) 権利保護(紛争解決手続)の在り方

 <中間整理>

  ① 企業内においける紛争解決手段
 「企業の提供する合理的配慮について障害者が不十分と考える場合に、それを直ちに外部の紛争解決に委ねるのではなく、企業内で、当事者による問題解決を促進する枠組みが必要との意見が大勢であった。」
  ② 外部機関等による紛争解決手続
 「障害者に対する差別や合理的配慮の否定があり、企業内で解決されない場合には、外部機関による紛争解決が必要となるが、訴訟によらなければ解決しないような仕組みは適切ではなく、簡易迅速に救済や是正が図られる仕組みが必要との意見が大勢であった。」
 「紛争解決手続としては、差別があったか否か、合理的配慮が適切に提供されたか否かを、いわゆる準司法的手続(例えば行政委員会による命令)のような形で判定的に行うというよりはむしろ、どのような配慮がなされることが適当か、何らかの差別が生じていた場合にはどのような措置を講ずることが適当か等について、第3者が間に入って、あっせんや調停など、調整的に解決を図ることが適当ではないか、との意見が大勢であった。」

 <中間整理に対する私の意見>

 合理的配慮の内容を定めるにあたって、話し合いを優先しているのと同様に、紛争解決手続についても話し合い優先を強調しています。しかし、わが国の企業環境の下で使用者と労働者が対等な立場で話し合える余地は皆無に等しい状況です。ましてや障害をもって働く労働者は職場で肩身の狭い思いで働いているのが現実であり、当事者による問題解決を重視する中間整理は障害者権利条約を否定するに等しく、無責任であるとの批判を免れられません。これは言わば実効性がある法整備の不実行宣言です。

(3)  障害者雇用率制度の位置付け

 <中間整理> 

 「差別禁止の枠組みと、現行の障害者雇用率制度との関係については、実際問題として雇用率制度は障害者の雇用の促進に有効であり、差別禁止の枠組みと矛盾しない、積極的差別是正措置(ポジティブアクション)に当たるとの意見が大勢であった。」

 <中間整理に対する私の意見>

 障害者雇用促進法は、実雇用率の算定の基本となる労働者を「常時雇用する労働者」に限定しています。「常時雇用する労働者」を法の文言どおり素直に解釈すれば正規雇用であり、それ以外はありえません。厚生労働省は労働省時代から法文に反してまでも非正規雇用も実雇用率にカウントする方針をとってきました。その結果、障害をもつ労働者のほとんどは不安定な非正規雇用労働者の地位におかれています。これは国による違法な差別であり、この運用を継続するかぎり評価に値するポジティブアクションとは到底いえません。中間整理はわが国の割当雇用制度の欠陥に踏み込むことなく、通り一遍にポジティブアクションと位置付けており、この点においても無責任と言えます。

【障害者自立支援法の廃止と立ち遅れた法制度の再構築】

(1)  2005年10月に成立した障害者自立支援法は、法律の名称とは逆に、障害者の自立を阻害する法律であり、障害者への給付を削減する一方、応益負担の原則のもとに障害者の自己負担を求めるものでした。同法成立以前から世界の潮流より大きく遅れていたわが国の障害者施策は、障害者自立支援法の成立によってさらに数十年逆戻りして、大きく立ち遅れました。2009年9月自民党政権が崩壊し、民主党、社民党、国民新党は3党連立政権合意文書を交わし、合意文書上に「障害者自立支援法は廃止し、『制度の谷間』がなく、利用者の応能負担を基本とする総合的な制度をつくる」と明記しています。また、9月19日長妻厚生労働大臣は障害者自立支援法の廃止を明言しました。

(2) この数年間、この悪法が障害者や家族を痛め続けた現実を思うと直ちに廃止するべきです。わが国の障害者が自立支援法で苦しまされている間に、世界における障害者法制度は大きく前進しました。一人わが国のみが世界の潮流から大きく立ち遅れる結果となりました。障害者自立支援法の廃止だけで満足しているわけにはいきません。この遅れを如何に取り戻すかが焦眉の課題であり、そのためには障害者権利条約を一言一言忠実に国内法に反映させていかなければいけません。

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