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2009年6月21日 (日)

拙著「裁判に見る日本の障害者雇用の現状」

【労働法律旬報「特集・障害者の権利条約と障害者雇用」】

 「労働法律旬報」は労働関係の出版物を多く出版している「旬報社」が毎月2回発行している雑誌です。その1696号(5月下旬号)で「障害者の権利条約と障害者雇用」という特集が組まれました。各論文と執筆者は次のとおりです。私の論文は出版社の了解のもとに添付しました。

*障害者権利条約とわが国の障害者の一般雇用施策関係法の問題点と課題[山田耕一(京都女子大学教授)]
*ドイツの障害者雇用の現状と検討課題-日本法への示唆[小西啓文(明治大学准教授)]
*アメリカの障害者雇用[永野秀雄(法政大学教授)]
*EU均等法と障害のある人・家族・支援者の雇用-英国コールマン事件を契機とする均等待遇保障の新展開[引馬知子(田園調布大学准教授)]
*裁判に見る日本の障害者雇用の現状[清水建夫(銀座通り法律事務所)]

           

■論文:「裁判に見る日本の障害者雇用の現状」
                         清水 建夫

【私の論文「裁判に見る日本の障害者雇用の現状」の紹介】

1 福祉奴隷工場(障害者虐待)と経営者・県・国の責任

 補助金目当てに多数の知的障害者を雇用した経営者が県やハローワーク等からは「福祉の神サマ」としてチヤホヤされながら、他方では障害者を寄宿舎に住まさせて暴行の限りを尽くし、女性労働者には次々と強姦を行っていました。このようなとんでもない経営者が滋賀と水戸で明らかになりました。親の訴えによりこの事実が少しずつ表に出はじめても警察・検察庁・県・ハローワーク・労働基準監督署の動きはにぶく、知的障害者や親の訴えを本気で聞こうとしませんでした。検察庁は虐待行為のほとんどを不起訴とし、横領や助成金詐欺のみを起訴し、裁判所も被告人である経営者は「障害者雇用に貢献した」として見当違いの情状をもとに執行猶予の判決を言い渡しました。被害者側から不公平だと非難される始末です。このような中で大津地裁は2003年3月24日民事裁判の判決で経営者だけでなく県や国に対し、国家賠償法にもとづく責任を認め、損害賠償を命じる画期的な判決を下しました。その時の裁判長が私が司法修習生時代に親しかった神吉正則(かんきまさのり)君であったことをこの論文を書くにあたってはじめて知りました。彼の地道でコツコツと努力する人柄を思い起こし胸が熱くなりました。

2 「職場環境の改造」を求める障害者権利条約と「障害者の改造」を求める国内法

 障害者が社会に参加する上での障壁は障害者その人に原因があるのではなく、障害と社会の間の環境に原因があります。この環境を変えて障害者と社会参加(雇用)の障壁をとり除こうとするのが世界の流れであり障害者権利条約の基本思想です。日本の法律は障害者を負の存在と位置づけ、障害者を可能なかぎり健常者に近づけるべく障害者を改造することによって、障害者の社会参加(雇用)を認めようとするものです。このように障害者権利条約と日本の国内法(障害者基本法、障害者の雇用の促進等に関する法律)とは法思想が全く異なっています。日本政府は障害者基本法の表現上の手直しで障害者権利条約と国内法との整合性を図ろうとしています。しかし法思想の異なる国内法を抜本改正しないかぎり、権利条約にそった法律とはなり得ず、ただお茶をにごしてごまかすだけの国内法改正に終わってしまいます。

3 厚生労働省の事業主に甘い運用が障害者の労働環境を一層悪化させた

 厚生労働省、各都道府県労働局、ハローワーク、地方自治体の障害者雇用の担当者の多くに「障害者は働かせてもらえるだけまし」という考えが今なお根強く残っているように思います。そのため事業主に対して腰がひけ、事業主に甘い運用に傾いています。日本の国内法が事業主主体・障害者客体の障害者雇用立法であることに加え、これら行政が事業主に甘い運用をおこなってきたため、障害者が労働者としての尊厳を保つことが大変困難な実情です。

4 障害者の労働に関する裁判事例

 これまで障害者の労働に関する裁判事例を整理した文献が見当たらなかったので「旬報社」」から与えられた今回のチャンスを利用し、裁判事例(和解で終了したものを含めて)を私なりに整理してみました。頁数の関係で裁判一つ一つの紹介は詳しくできませんでしたが、詳しくは引用した判例そのものをあたっていただきたいと思います。

5 裁判から見えるもの

 小泉内閣時代に成立した障害者自立支援法により日本の障害者福祉と雇用は一挙に30年以上冬の時代に逆もどりさせられました。この悪法は日々障害者を苦しめています。世界同時不況を理由に多くの障害者が解雇されましたが、多くの障害者が非正規雇用のため、裁判で闘う障害者はあらわれません。一面で日本政府は外圧に弱いところがあります。障害者権利条約を武器にして後退しきっている日本の障害者福祉と雇用を世界の水準までもどすチャンスと言えます。放っておくと日本政府は障害者基本法の微修正だけでお茶をにごして終わらせる可能性が多分にあります。 「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会なのである」(国連総会で1980年1月30日採択された「国際障害者年行動計画」より)。私たちは弱くもろいこの社会を根本から変えるために障害者権利条約を忠実に実行する国内法の制定を粘り強く求めていく必要があります。そのことが障害のある人だけでなく障害のない人にも住みやすい社会につながると思います。

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コメント

国(厚生労働省職業安定局)が、「障害者雇用ガイドブック」において、障害者の雇用の促進等に関する法律(雇用促進法)43条に係る「常用労働者」の意義に関して正規労働者に限定しない解釈をとっていることについて国家賠償法1条に基づく国家賠償請求をすることができるか。

雇用促進法の具体的な中身(特に雇用促進のためにとっている施策・措置の具体性)をさらに検討してみる必要がありますが、ざっと以下のように考えることはできると思います。

国賠法の「違法」とは、判例上、当該国民に対する関係での公務員の職務上の注意義務違反と解されています。

雇用促進法は、「身体障害者又は知的障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置その他障害者がその能力に適合する職業に就くこと等を通じてその職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もつて障害者の職業の安定を図ることを目的とする」(1条)ものですから、障害者の雇用を確保することによって障害者の人権を保障しようとするものと解されます。

雇用促進法43条1項は「事業主(常時雇用する労働者(一週間の所定労働時間が、当該事業主の事業所に雇用する通常の労働者の一週間の所定労働時間に比し短く、かつ、厚生労働大臣の定める時間数未満である常時雇用する労働者(以下「短時間労働者」という。)を除く。以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する身体障害者又は知的障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に一人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第四十六条第一項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。 」と定め、事業主に障害者の雇用義務を定めることによって障害者の雇用を確保しようとしています。

そして、「国及び地方公共団体は、障害者の雇用について事業主その他国民一般の理解を高めるとともに、事業主、障害者その他の関係者に対する援助の措置及び障害者の特性に配慮した職業リハビリテーションの措置を講ずる等障害者の雇用の促進及びその職業の安定を図るために必要な施策を、障害者の福祉に関する施策との有機的な連携を図りつつ総合的かつ効果的に推進するように努めなければならない」(6条)ものとされていますから、国はまさに法43条1項の適切な解釈運用を通して障害者の雇用促進を図るべき義務があります。

ところが、せっかく法が事業主の障害者の雇用義務を定めて障害者の雇用を確保しようとしているのに、法の所管省である厚生労働省(前厚生省)がその解釈を事業主に甘く、障害者に不利に行い(ところで、このように言えるためには、厚生労働省の解釈が明らかに誤りであるか、明らかに立法者意思に反しているか、それとも別の解釈が十分に成り立つにもかかわらず、合理的な理由もなくその解釈をとらなかった場合であることが必要であると思われます。ここは私は労働法や障害者法の専門家ではありませんので分かりません。)、そのような法解釈を障害者雇用ガイドブックに記載して事業主に広く頒布することは、雇用差別される障害者との関係で雇用促進法に基づく国の義務に反するものであって、国賠法1条の違法な行為と評されるものです。
そして、かかる国の違法な解釈運用により特定の障害者が特定の事業主の下で非正規雇用を余儀なくされてきたと評されるものであるとき(国の政策によって個別障害者の雇用差別がなされたと言えるか、因果関係が認められるかは難しいところがあるかもしれませんが、少なくとも事業主の雇用差別を助長しているものであることは明らかでしょう。)は、損害賠償が認められるべきであると考えます。少なくとも問題提起訴訟・政策形成訴訟としては十分に成り立ち得るもので、提起することに価値あるものと考えます。

投稿: 湯川二朗 | 2009年7月11日 (土) 23時28分

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