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2009年2月

2009年2月22日 (日)

障害者にも解雇の嵐 実習訓練さえ中止

         (2月15日 朝日新聞大阪本社版「時時刻刻」 より)

【私の意見】Up63

<私も取材を受けました>

 朝日新聞の2月15日の大阪本社版の時時刻刻の欄に「障害者にも解雇の嵐」という見出しで、かなりの紙面を割いた記事が掲載されました。私も取材を受け、私のコメントが紹介されています。

<常用労働者で有期契約>

 日本では民間企業が障害者を雇用しなければならない割合(法定雇用率)を1.8%と定めています。法律はこの法定雇用率にカウントできる障害をもった労働者は「常用労働者」でなければならないとしています。「常用労働者」を素直に解釈すれば法律は正規労働者としての雇用を求めていることが明らかですが、厚生労働省は一般労働市場で非正規労働がほとんどない時代から、障害者雇用は日々の契約(1日契約)でも1か月契約でもよい、とにかく1年以上雇用することを前提としてさえいればすべて「常用労働者」にカウントするという、企業にきわめてゆるい、やさしい指針を出しました。ですから障害をもって働く人の多くは早くから非正規雇用(有期雇用)です。

<万国の女性労働者立ち上がれ!>

 政府は昨年12月法律を改正し障害者をパート(短時間労働)で雇用した場合は0.5人分の雇用として法定雇用率にカウントするとしました。パートはこれまで主として女性が主婦としての生活との両立のなかで選択した雇用形態でした。これ自体とても低賃金で日本の経済界は女性労働者を搾取し続けていると私は思っています。いつか女性労働者がゼネストをしてくれれば、日本の労使関係はずいぶん変わるのになと時々思います。万国の女性労働者立ち上がれ!そこまで発展しないのは男子(夫)の労働の補完として巧妙に位置づけられているからだろうと思います。

<障害をもって働けるだけマシ>

 さて障害者雇用に話をもどしますが、障害をもった労働者のパート労働は配偶者の労働補完ではありません。国は障害のある労働者が自らの稼ぎで食べていける制度を確立するべきです。ところが今日本政府の進めようとする障害者施策は障害をもった労働者を低収入に固定化するものです。“福祉から労働へ”という考え方に異論はありませんが、これを推進する政府や地方自治体の側に“障害をもって働けるだけマシ”という障害のある人の尊厳を否定する考え方が基底にあるように思えてなりません。

 朝日の記事は一寸長いですが全文紹介します。

【実習訓練さえ中止】

 障害者の雇用が世界的な不況に揺らいでいる。国の調査では昨年末から解雇者が倍増しているが、数字に表れない非正規雇用の「雇い止め」などを含めると、実態ははるかに深刻、との指摘もある。賃金カットや実習受け入れ中止も相次ぐ現場で、社会的自立は担保されるのか。なりふり構わぬ障害者リストラの拡大に、明日への不安が募る。(高島靖賢、山内深沙子、滝川卓史)

 「もう仕事がない。申し訳ないが、今月で辞めて欲しい」。岡山県内の電子部品工場。1月下旬、ここで働いていた知的障害者の男性(38)が事務所に呼ばれ、解雇を言い渡された。
 社員20人ほどの小さな工場で組み立て作業を担当していた。状況が一変したのは昨年11月だ。受注激減で勤務時間が半分になり、月10万円あった手取り収入は半分以下に落ち込んだ。12月には1日3時間勤務に。年明けから仕事は工場の掃除だけになった。
 会社には10年以上勤めた。職場の上下関係がすぐのみ込めないなどコミュニケーションに課題はあったが、覚えた仕事をコツコツとこなしてきた。同僚も障害を理解して優しく接してくれた。月給と障害基礎年金をあわせ、アパートで1人暮らしもできた。
 以前働いていた会社でも解雇された経験がある。失業が1年以上続き、福祉施設の職員がつてを頼りにやっと見つけてくれたのが、この工場だった。
 人生2度目のリストラ。「時間があるから」と本人が申し出て、近所にある就労支援のための作業所で、割りばしの袋詰めなどの軽作業を無償で手伝い始めた。貯金は残り約70万円。当面は年金と失業給付でやりくりするが、給付が切れるまでに職が見つかる保証はない。「家族には頼りたくない。また働ける日は来るのかな」。つい不安を口にした。
 全国206か所にある「障害者就業・生活支援センター」には、解雇や賃金カット、出勤日の激減など苦境に立たされた障害者からの相談が絶えない。
 「1月から時給を748円から600円に下げると言われた」。昨年末、大阪府内のセンターに知的障害のある20代男性から、こんな相談が寄せられた。約2年前からリサイクル工場で働いていた。
 男性の時給額は府の最低賃金。会社側は経営悪化を受け、障害者の最低賃金を減額する特例許可を労基署に申請していた。センターから事情を聴かれると、「彼を雇い続けるための苦渋の決断。給料を下げるしか方法がなかった」と説明したという。
 和歌山県内のセンターには昨年末、就労支援団体から「実習生の受け入れを断られた」との相談があった。障害者とジョブコーチが企業で実習する障害者自立支援法の制度を活用し、メーカーの下請け工場で数人の障害者が実習訓練を受けていた。受け入れ中止の理由は、受注の落ち込み。センターの担当者は「就労への大切なステップなのに・・・」と肩を落とす。
 滋賀県のある養護学校は昨年10月以降、就職活動での体験自習を受け入れていた複数のメーカーから、相次いで受け入れを断られた。今春の就職希望者のうち半数は、まだ就職先が決まっていない。

【氷山の一角にすぎない】

 「働く障害者の弁護団」代表の清水建夫弁護士の話  統計に表れる障害者の解雇数は「氷山の一角にすぎない」。障害者の場合、パートや契約社員など非正規雇用で働く人が圧倒的に多く、契約期間満了による「雇い止め」や、強引に自己都合退職に追い込まれた事例を含めると、状況はより深刻だ。不況が続けば、人件費が高い中高年の障害者をリストラの標的にする恐れが強まるだろう。

【弱い歯止め 届かぬ理念 就業規則 リストラに利用】

 従業員数56人以上の企業は、1.8%(法定雇用率)以上の障害者を雇うことが義務付けられている。だが、08年の障害者雇用率は1.59%。過去最高を更新したとはいえ、達成企業の割合は44.9%と半数以下にとどまる。
 法定雇用率を達成できない企業には、1人につき月5万円の納付が課されるが、低額すぎて解雇や退職勧奨の歯止めにならない、との批判もある。さらに、現時点で納付義務があるのは従業員数301人以上の企業だけで、相当数の中小企業は対象から外れる。
 もう一つ、社会的弱者の解雇のハードルを低くしてしまう課題として挙げられるのが、企業の就業規則だ。
 今なお、多くの会社には「精神または身体の障害により業務に耐えられないと認められたとき」は社員を解雇できる、とする就業規則が残る。
 障害者の人権問題に取り組む弁護士有志でつくる「はたらく障害者の弁護団」によると、業績が悪化するとこの規定を持ち出し、露骨な解雇をしようとする企業があるという。
 本来は解雇を決める前に、障害者が働き続けられるように職場環境を整える「合理的配慮」が企業側に欠かせない。視覚障害者のために音声変換ソフトのパソコンを導入するのは、その一例だ。ただ、こうした理念が十分浸透しているとは言い難い。

【昨年11、12月 急に悪化】

 厚生労働省によると、障害者の雇用状況は急速に悪化している。全国のハローワークに届け出があった昨年10月の障害者の解雇者数は125人で、07年度の月平均(126.9人)と同水準だったが、11月には234人に急増。12月も265人に上った。
 資料が残る00年度以降の解雇者数を見ると、01年度の4017人から減少傾向が続き、07年度は1523人だった。だが、08年度は4月から12月までの合計がすでに1411人に達し、前年度を大きく上回るペースだ。
 障害者を解雇した企業はハローワークに届け出る義務がある。ただ、制度を知らずに無届けで解雇する企業も相当数に上るとみられる。
 同省は「障害者は一度離職すると再就職が非常に困難であり、解雇者の増加は深刻な問題」(障害者雇用対策課)として10日、日本経団連に障害者雇用の確保などを要請した。ハローワークの障害者専門支援員を全国で70人増員したほか、障害者を雇いいれた中小企業への助成金を昨年12月から段階的に拡充するなどの対策を講じているが、効果は不透明だ。
 企業からの下請け作業が運営の柱だった障害者施設を取り巻く状況も厳しい。
 全国社会就労センター協議会は1月から2月にかけて、加盟1543の施設を対象に、景気後退による受注減少などの影響を緊急調査。その結果、回答があった632施設のうち416施設が「目立った影響があった」と答えた。
 職業別では、自動車関連が144で最多。次いでリサイクル関連51、段ボール関連20、印刷関連19の順だった。同協議会は今後、国や地方自治体に障害者の積極採用を含む雇用対策を求めていく方針だ。

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2009年2月10日 (火)

社会参加型のユニオンを作ろう!

【ユニオンが人気】

 最近あちこちでユニオンができています。私もいくつかのユニオンに構成員というより弁護士として参加しています。
 ユニオンは労働組合を横文字(カタカナ)にしたもので中味は同じという見方があります。労働組合というと赤い鉢巻をして“闘争!”というイメージがあり、今の若い人には敬遠されがちです。ユニオンの方がやわらかくてカッコいい。だから労働組合という言葉をやめてユニオンがはやっているというわけです。

【ユニオンは労働組合より広い?】

 辞書でunionを繰ってみました。①結合、連合、併合、合同、団結 ②連合国家、連邦 ③同盟、組合、協会、連合 ④和合 ⑤結婚 ⑥=trade(or labor)union(労働組合) となっていました。なるほどユニオンは労働組合より幅のある広い言葉だと言えます。

【労働組合法上の労働組合】

 名前は○○ユニオンでも○○労働組合でもいいんですが、労働組合法上の労働組合の資格があるかないかは重要です。労働組合法上の労働組合であれば使用者(雇主)と組合として団体交渉ができます。使用者が団交に応じなければ都道府県の労働委員会に団交に応じるように命令してほしいと申立てることができます。労働組合法上の労働組合をつくるのは大変なことではありません。労働組合は1人ではつくれませんが、労働者が2人以上いればつくれます。

【同じ会社の労働者でなくともよい】

 日本の労働組合の主流は企業別組合と言って、同じ企業の労働者だけでつくる組合です。日本の企業別組合は労使協調型で経営者の考えに従うのがほとんどで、そのような組合は1人の労働者が解雇されたり不当な配置転換を受けても組合として本気で取り組んでくれません。
 そこで最近増えているのは、個人加盟の地域ユニオンです。組合員1人1人の勤めている会社は全くバラバラですが、それでも労働組合法上の労働組合です。地域ユニオンがある1人の労働者の勤務条件について団体交渉を求めた場合にその労働者を雇用する経営者は組合との団体交渉を拒否することができません。地域ユニオンはストライキという手段は効果的に使えませんが、団体交渉という点では、労働者が1人で会社とわたりあうよりも、仲間のいる労働組合の方が強力に交渉ができます。解雇や賃金カットや配置転換などが法的におかしいと思われるときは、労働仮処分、労働審判、訴訟などの法的手段を選択することができます。労働組合と弁護士のすみわけができて、最初から弁護士が直談判するよりも、私たち弁護士も大いに助かります。

【労働組合法上の労働者の資格は労働基準法上の労働者の資格よりゆるやか】

 労働基準法上の労働者とは、事業主(雇主)に使用されて賃金の支払を受ける者でなければなりません(同法9条)。ところが労働組合法上の労働者の資格はとてもゆるやかです。
 ・労働者はパート、アルバイト、契約社員、派遣社員でもよい。(これは労働基準法上も同じ)
 ・請負契約、委任契約によって労働に従事する者も、他人に労務を提供し、それに対し報酬を受けている場合はユニオンの構成員となれる。
  例えば、一人親方の大工・左官、水道メーターの委託検針員、放送局と出演契約をしている芸能員など。

【知的障害者ユニオンを作ってみたら?】

 1999年5月知的障害をもつ労働者の会「さくら会」の学習会に講演に呼ばれたとき、私はそのように言いました。さくら会のメンバーは“いいね”“面白そうだね”“やってみようか”とにぎやかにしゃべっていましたが、さくら会の中心メンバーの高坂茂さんが2000年3月勤め先のクリーニング工場の機械に巻き込まれ亡くなり、知的障害者ユニオンは日の目を見ずに今に至っています(2008年3月28日ブログ記事参照

【再び知的障害(者)ユニオンを作ってみたら?】

 私はこの2月11日午後1時から知的障害者の親の方々を前に「障害者権利条約(労働・雇用)にもとづき実効性のある国内法をつくるためには」という題で講演をすることになっています。そこで再び知的障害(者)ユニオンを作ってみたらと提案してみようかと思いました。もっとも当日参加される方々はどんな方かわからないので、ただ今のところ私が頭の中で一方的に考えているだけのことです。私が考えているのは次のようなことです。

 ・組合員は2人以上いればよい。
 ・労働基準法上の労働者でも、そうでなくてもよい。
 ・失業者でもよいし、請負人でも受託者でもよい。
 ・子供も親も広い意味の労働者であれば、親子とも組合員に
  なれる。
 ・親が主婦や自営業者であれば、親は準組合員になればよい。
 ・子供が福祉的就労のときは厳密にいえば労働者といえるか
  どうかという問題があるが、失業している潜在的労働者とみる
  こともできる。いずれにしろそんなことはたいした問題ではない。
 ・大切なのは親と子が一緒になってユニオン(労働組合)をつく
  り、ユニオンとして改善要求をすることである。
 ・改善要求の相手は、知的障害者の使用主のこともある。
  この場合は労働組合法にもとづく団体交渉になる。
 ・国や自治体と交渉し、要求することもできる。この場合は国や
  地方自治体に団交に応じる義務はないが、数が多くなれば応じ
  ないわけにはいかない。
 ・そのようにしてみんなでスクラムを組んで改善を求めていく。
 ・単なる親の会よりも、ユニオンとなればこちらとしても肩の力が
  入るし、先方も正面から受け止めざるを得ない。

・・・と思いをめぐらしていますが、今のところ私の一人芝居です。

【自分の利益を追求しながら社会参加型のユニオンをつくろう!】

 知的障害(者)ユニオンは一つの例ですが、私は自分にとって何が利益になるかとということを基本に据えたうえで、社会参加型のユニオンをつくり、社会の歪んだ部分を正していくのが、これからのあり方ではないかと思います。
 私は7年前にChange Japan!という団体をつくり日本の政治を変えるよう試みましたが、日本の政治の変革はそんなに生やさしいものではないということを悟りました。私はまた、いくつかの市民団体をつくったり参加したりしています。しかし、市民団体とユニオンの違いはユニオンは構成員の経済的利益その他の利益を追求するという具体的な目的をもって集まっています。一方市民団体は社会の全般的問題に目線が移り、個々の利益とのつながりが薄くなりがちです。そのため途中で息切れしてしまいます。
 理念とか理想とかだけではなく、集団の共通の利益は何かということをまず最初に明確にし、その共通の利益に向かってユニオンという旗のもとみんなの力を結集する。このように共通の利益を追求する過程で社会の歪みも是正されていくのではないでしょうか。私たち日本人は、自分の利害を捨てて社会を正すのを美徳と思いがちです。しかし、それは結局のところ長続きしないし社会を正す力ともならない。私は自分の反省をこめて最近このように感じるようになりました。サア!欲をムキ出しにして社会を変えよう!

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2009年2月 2日 (月)

民事再生実務「金融機関債権と労働債権」

【明治22年国産第1号の施錠を製造した老舗の工作機械メーカーの再生事件】

 私は、平成13年2月28日、会社創立者が明治22年に国産第1号の施盤を製造した老舗の工作機械メーカー(東証一部上場企業)である I 工作機械メーカーの監督委員に選任されました。この事件は、平成13年2月28日に東京地方裁判所に再生手続開始の申立、3月15日開始決定、10月3日債権者集会、同日再生計画認可決定、平成16年6月3日終結決定を経て裁判所の監督下から離れ、通常の会社に戻りました。

【全員解雇をしながら退職金29億円が不払】

 I 工作機械メーカーは保全命令により申立前の債務の棚上げを受けたにもかかわらず、月々の人件費すら支払えず、開始決定後早々に従業員493名全員を解雇し、新たに122名を契約社員として再雇用しました。しかし解雇により発生した退職金29億円(共益債権)を支払う原資は退職年金解約返戻金3.3億円しかありませんでした。申立後の資金収支もマイナスで、仮に本件が会社更生事件として係属していれば旧会社更生法の時代はそもそも更生手続が開始されなかったでしょうし、柔軟となった新法の下でも保全管理人が開始相当の意見を出すのは容易でない事案です。

【多数派と少数派の労働組合】

 会社には多数派(430名)と少数派(29名)の労働組合があり、多数派とは再生手続開始後まもなく、川崎・川口の2つのメイン工場の売却代金から原資を捻出し、あわせて50%以上退職金を支払う旨の協定書が交わされました。少数派は、以前から会社から冷遇されていて会社に対する不信感が強く、横浜地方裁判所に解雇予告効力停止仮処分申立と神奈川県労働委員会に不当労働行為救済申立をしていました。少数派組合の労働者は地域の労働組合の支援のもと、川崎本社・工場の建物の一部を占拠して泊まり込み、かつ不動産仮差押命令を得ていました。少数派労働組合との話し合いは継続されていましが、合意は未成立であり、2つのメイン工場の売却もこれからであり、売却代金の一部を退職金の支払にあてることについて担保をとっている金融機関の了解も得られていない状況の下で、再生計画案が提出されました。私は2つの労働組合や各金融機関と面談を重ねると共に、退職金債権者を含む219名に再生計画案に関して書面による照会を行いました。

【労働債権と金融機関の担保権付債権】

 私は私の調査をもとに再生計画案についての意見書を作成し東京地方裁判所に提出しました。労働債権と金融機関のもつ担保権付債権の関係について金融機関が競売のルールにしたがって全額回収するのは衡平・公正をかくものであるとして、次のように意見を述べました。なお、担保権のことは民事再生手続では別除権と言います。

 「本件の労働債権は共益債権であるが、別除権対象物件の競売手続においては別除権者が担保設定の順序で優先的に配当を受け、共益債権ならびに一般優先債権が別除権者に優先することはできない。これが競売ルールである。
 ところで、本件においては再生債務者が別除権対象物件の任意売却代金の一定
割合を退職金債権の弁済に充てることについて、別除権者である金融機関が協力することが衡平・公正の見地から相当と判断される。いいかえれば別除権者たる金融機関が任意売却代金について、金融機関のみ全額を回収することは、衡平・公正を欠くと思料する。その理由は次のとおりである。

① 従業員の退職金債権は退職後、とりわけ老後の生活資金として重要なものであり、これが支払われないときは老後の生活に深刻な影響を及ぼすことは必然である。現に本件において多額の未払い退職金を有する労働債権者は40年前後再生債務者一筋に働き、退職金を退職後(老後)における最大の貯えとして生活設計をたててきた。50歳をすぎて突然解雇され、再就職もままならない状況である。再生債務者の再雇用の対象からも外されている。解雇された以後に死亡したり、病に倒れた労働債権者もあり、家族は途方に暮れている。
② 企業経営に携わる者として、従業員の退職後(老後)の生活に重大な影響を及ぼす退職金債権については確実に弁済されるよう十分な保全策を準備しておくべきである。
③ ある金融機関から、昭和30年代より昭和59年6月まで、再生債務者に常務、専務、社長、会長として役員が派遣されている。多くの労働債権者は、これら役員の在任期間中にその指揮下で働いており、この時期に退職金債権の保全策が施されていれば、今日の事態は回避することが可能であった。また担保設定状況をみると、別の金融機関(複数)については、追加担保の設定が、既存債務の保全策のため設定されていると思われる側面があり、設定時期からみて債権者間の公平を害する可能性があって、否認を検討する必要がある。主たる金融機関にかぎらず、一般に金融機関は再生債務者の財務状況を把握できる立場にあって、適宜担保設定を行い、保全策を講じることができたが、労働債権者はみずからの退職金債権を保全するすべがまったくなかった。
④ 以上のとおり、本件において再生債務者の資産売却代金を、競売ルールに従って金融機関のみに配分するのは衡平・公正ではない。

 いくつかの金融機関に当職が労働債権確保のための協力の可能性を打診したところ、その可否についてすでに検討中であるとの金融機関もあり、協力が得られる可能性があると思われる。」

【金融機関が目の色を変えて自行の債権保全策を実行】

 長年役員を派遣していたメインのA銀行は、主要工場に上の順位で根抵当権を設定し、競売ルールによればフルカバーでした。準メインのB銀行はすでに資金繰りが苦しくなっていた平成12年12月末(申立より14か月前)に2.5億円の融資と引換えに主要工場に40億円の根抵当権を設定しました。主要工場に根抵当権設定を求めていたC銀行とD信託銀行はこれに立腹し、I工作機械メーカーに借入金の即時返済を迫りました。I工作機械メーカーは窮余の策としてC銀行に対して、子会社であるI機販が3.2億円の定期預金をし、それに質権を設定するとともに同社の不動産に根抵当権を設定しました。D信託銀行に対してはI機販の約3億円の有価証券を譲渡担保として引き渡しました。それまでI機販とC銀行及びD信託銀行とは取引が一切ありませんでした。I工作機械メーカーが弁済したり、I工作機械メーカーの資産に新たな担保設定をすると他の金融機関に判明するのでC銀行及びD信託銀行とI工作機械メーカーの財務担当役員とが相談の上、I機販を利用するという迂遠と思われる方法をとりました。

【否認権の行使】

 民事再生手続では再生手続開始申立前に債権者と会社が行った不公平な行為について、監督委員に否認する権利(否認権)が与えられています。否認権の行使が認められると不公平な行為は取り消され不公平な行為前の権利状態に戻ります。
 I機販もI工作機械メーカーと同時に民事再生の申立を行ったため、I機販の資産に対する担保設定はI機販からすれば明白な否認対象行為になります。申立代理人よりD信託銀行とは話し合いで決着しそうだが、C銀行との話し合いは目途が立たないとの連絡があり、東京地方裁判所と相談の上、平成13年12月、C銀行に対して否認請求の申立をしました。審理はスピーディーに進み、申立後3か月で請求がほとんど認められる形で和解が成立しました。B銀行のための40億円の根抵当権設定については申立代理人から、否認請求の要請はありませんでしたが、川崎・川口の両工場売却の際、売却代金の配分にあたり、否認の可能性を伝えながら譲歩を引き出したものと思われます。C銀行とD信託銀行が迂遠な方法をとらず、I工作機械メーカーより直接弁済を受けていれば、民事再生申立時には債権が減少しており、弁済は気づかれず問題にもならなかった可能性が高かったと思われます。I機販という別会社からの担保設定という形をとったためかえって目立ち、否認請求の対象とされました。ともあれ、このように会社が経営的に苦しくなった段階で、日本を代表する金融機関が自行の債権保全のため目の色を変えて保全策を競っていました。一方労働者は老後のために頼りとしている退職金債権が風前の灯火であることを露とも知らず、I工作機械メーカーの労働者としての誇りを胸に朝早くから夜遅くまで黙々と働いていました。

【私の意見書と国会における質疑】

 私は後日になって知りましたが、少数派組合が共産党の国会議員に相談し、2001年11月7日の衆議院厚生労働委員会で、私の意見書を引用して木島日出夫議員が金融庁に本件の処理について問い質し、善処を求めていました(衆議院会議録情報 第153回国会 厚生労働委員会第6号)。また、2002年3月20日の参議院法務委員会で井上哲士議員が新破産法の制定に関連づけて質問しています(参議院会議録情報 第154回国会 法務委員会第3号)。幸いにもその後二つの工場は高額で売却され、退職金債権は約80%が支払われ、別除権債権者である金融機関も一応満足したとのことです。民事再生法が施行された当初労働側は労働者切り捨ての悪法という見方をしていましたが、本件を機に、労働者に使える法律という見方を持つに至ったとのことです。かつて金融機関は、退職金を含む労働債権の支払いは会社整理の為の必要経費と位置づけ、融資をしてまで円滑な清算を進めていました。競売ルールが当然視される今の風潮にこそおおいに問題があり、時には修正が必要であることを実感した事案でした。

【切々とした訴えを思い出す】

 以上のことは、1月18日に引用した私の論文「民事再生事件における監督委員の職務」に記述しています。この論文全体を添付します。国会における質疑は、今回ブログを書くにあたって全文をはじめて読みました。正直な感想は「へーっ。監督委員の一意見書をこんなに意味あるものとして評価してくれているんだ」と思いびっくりしました。共産党の国会議員の熱のこもった質問を読みながら、解雇された後に亡くなった労働者の遺族や病に倒れた労働者の切々とした訴えを思い起こし、思わず涙がこぼれてきました。国会における質疑は次の機会にあらためてご紹介させていただきたいと思います。

           

論文:「民事再生事件における監督委員の職務」
                      弁護士 清水 建夫

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