民事再生事件における監督委員の役割
【アーバンコーポレーションの再生計画案についての意見書作成に追われて】
民事再生法にもとづく再生事件について、私は、これまでに東京地方裁判所より7回監督委員に選任されました。今は、昨年8月13日に再生手続の申立をした株式会社アーバンコーポレーションの再生計画案についての意見書作成に追われています。ブログを1月1日以降更新していませんが、主としてこれに追われているためです。時々ブログをのぞいて下さる方々のご期待にそむいて申し訳ありません。
この事件は、東京証券取引所第一部に上場する企業の負債総額2558億円にのぼる大型倒産事件であり、マスコミにもたびたびとりあげられています。ただ、現在進行中の具体的事件ですので、この事件についての言及は差し控えます。
今日は、そもそも民事再生事件とはどんな手続きか、監督委員とは何かをご紹介しながら、私が監督委員として心がけてきたことを述べさせていただきたいと思います。
【再生手続きの特色】
<民事再生法の制定>
法的倒産手続きには、財産を換価してこれを債権者に配当するという破産や特別清算などの清算型手続きと、経営危機に陥っている企業(以下、「申立企業」と略します)を再建してその収益等から債権者に対する弁済を図るという再建型手続とがあります。再建型手続としては会社更生法にもとづく更生手続(こうせいてつづき)と民事再生法にもとづく再生手続(さいせいてつづき)があります。会社更生手続は比較的大規模な株式会社を想定した手続です。民事再生法は平成11年12月14日に制定され、平成12年4月1日から施行されました。もうすぐ丸9年ということになります。再生手続は、立法当初は、中小企業の再生という限られた場面で、しかも、債権者数が比較的少ない事件で利用されると予想されていました。しかしながら、その後の再生手続の利用の実際をみると、民事再生法は再建型倒産手続の基本法として定着し、現在、東京地方裁判所破産再生部では、中小企業や個人事業者に限らず、大企業や債権者多数の大規模事件でも広く利用されています。
<再生手続の特色>
会社更生手続では開始決定とともに更生管財人が選任され、更生管財人が経営に当たります。ほとんどの場合に申立企業の経営者は、更生手続開始後、業務遂行権及び財産の管理処分権を失います。これに対し再生手続では開始決定後も原則として申立企業の経営者が自ら経営に当たります。これら経営者は原則として再生手続開始後も業務遂行権及び財産の管理処分権を失いません。
また、会社更生手続では、管財人が更生計画案を作成します。再生手続きでは、原則として、申立企業とその代理人弁護士が再生計画案を作成します。
【申立企業の公平・誠実義務と監督委員の役割】
<公平・誠実義務>
民事再生法は「再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う」と定めています(38条2項)。再生債務者の公平・誠実義務です。しかし、危機に直面した企業は、法律で定めても、このとおり再生手続を遂行するとは限りません。申立企業が公平・誠実義務から逸脱することへの歯止めの役割をはたすものとして民事再生法が定めた機関が監督委員です。監督委員という言葉から、何名かの監督委員による監督委員会が組織され委員長がいるように聞こえますが、裁判所は監督委員としては1人の弁護士を選任するのみです。株式会社アーバンコーポレーションのような大型の倒産事件でも監督委員は1人です。
<監督委員の職務>
監督委員の職務は多岐にわたっています。①再生手続開始の申立について、そもそも手続を開始して良いのかどうかについての意見を述べる、②開始後の申立企業の財産処分や業務遂行の監督、③業務状況及び財産状況の調査、④不公正な弁済や財産処分があった場合の否認権の行使、⑤申立企業が作成した再生計画案についての意見書の作成、⑥再生計画案が承認されたときに申立企業が計画通り履行しているかどうかの監督、などです。
<監督委員の限界>
会社更生手続の更生管財人と民事再生手続の監督委員との決定的違いは、更生管財人は自ら財産管理を行い、業務遂行を行います。ですから業務状況や財産状況の調査と把握を自ら企業の経営の中枢に座って行います。ところが、監督委員の調査・監督といっても申立企業や申立企業の代理人が作成したものをどちらかというと受け身的に監督するという立場であり、監督委員が経営の中枢に座って把握・監督をすることは越権的行為になります。監督委員のこのような立場から、民事再生法による調査・監督に一定の限界があります。このことが監督委員を経験してきて私が時々抱く悩みです。
【監督委員として私が心がけてきたこと】
私は、商事法務2005年5月出版の「企業再建の真髄」という本の中で「民事再生事件における監督委員の職務」という論文を発表し、その中で監督委員として私が心がけてきたことを著していますので、以下に引用します。
1.公正・公平を判断・行動の中心軸とする(法38条2項)。企業再建事案すべてに共通する大原則であるが、特に監督委員は裁判所に代わって監督するという立場にあり、この軸からずれないことを最優先している。会社再建にプラスになるという理由で軸からずれることができる裁量の幅は小さいと思われる。
2.フットワークを軽くし、本社・工場・店舗・倉庫に就任後早い時期に足を運ぶ。百聞は一見にしかずである。
3.フットワークが軽く、再建事案に精通した公認会計士に補助を委嘱する。過去の業績の検討、資産・負債の洗い直し、今後の事業計画の検討の上で会計的視点は重要である。その上、財産評定、評価損益の計上の可否、免除益の発生について会社側が無知なことも少なくなく、これらに精通した公認会計士に会社を指導してもらう必要がある。精通した公認会計士は積極的に調査した上、独立した立場からの有益な情報を豊富に提供してくれ、監督委員の負担を軽減してくれる。
4.会社主催の債権者説明会には積極的に出席する。債権者と個別に会うのは限界があるので、文書による照会、電話による聞き取りを活用する。
5.反対債権者、中小口債権者、従業員の声に耳を傾ける。申立代理人、役員、金融機関、大口債権者からは伝わらなかった情報が伝わり、客観的にものを見る上で有益なことが多い。前者と会社側の間に深刻な対立関係が生じたときに調整弁の役割を果たすことができる。耳を傾けたにもかかわらず、監督委員の意見がこれらの者と逆の意見となったとしても「仕方がないか」と受け止めてくれる。
6.意見は一般の人にわかりやすい明確なものとする。「債権者の一般の利益に合致しないとは言えない」「あえて違法とまでは言えない」等の否定の否定式の意見がよく見受けられるが、可能なかぎり「一般の利益に合致する」「適法であり、適正である」とはっきり言う。
7.申立代理人であれ、債権者代理人であれ、同業者である弁護士に気をつかわない。会社再建事案に登場する弁護士は総じてエネルギッシュであり、ハードネゴシエーターである。顔見知りも多い。裁判官になったつもりで相手が誰であろうが、法と正義(!)にもとづき、淡々と職務を遂行することが互いの身の為である。ただし、どの弁護士ともフランクな関係を築いた方が情報を共有でき、正しい判断につながる。会社役員や従業員との面談、工場・店舗の視察、資料請求は申立代理人を通さず、直接進めた方が情報が正しく得られる面がある。相手方に代理人が就いた場合に本人と直接交渉してはならない旨の弁護士倫理規定は、監督委員には適用されない。申立代理人は監督委員が直接情報収集することに協力するべきである。
【大型倒産事件と監督委員】
08年は東京証券取引所第一部上場企業が次々と民事再生手続の申立をしました。会社更生手続の申立を選択した企業はごく少数です。破綻した企業経営者が自己の身を守るという面では再生手続はきわめて便利であり、破綻企業経営者にやさしい法的手続きです。私は先の論文を締めくくるにあたり次のように述べました。
今の時代は経営危機に陥った企業にとり裁判所は最後の駆け込み寺である。裁判所の門をたたいた企業ぐらいはできるだけ救済の手をさしのべるべきであり、それが多くの関係者の利益でもあり、社会全体にとっても利益であるというのが私の考えの基本である。公平・公正の中心軸からぶれないということは勿論大前提である。
私はこの締めくくりは、主として中小企業を意識して書きました。大型企業の場合、経営危機に直面しているとは言え、中小企業と比べものにならない規模でお金も人材も豊富にあります。民事再生手続の申立てをすると、それまでの債務の支払いは棚上げになりますので、一転して手元資金が潤沢になることが少なくありません。
再生手続の申立をして債権者に支払うべきものも支払わないで、自己の身の安全を守ろうとする経営者もいます。このような経営者には救済の手をさしのべるどころか公平・公正の視点から厳しく責任を追及していかなければなりません。再生手続の中で、どのようにしてこれを実現できるかは、民事再生法が施行されて以降同法に内在し続けてきた大きな課題です。私の悩みもこの点にあります。
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