品川正治氏談 人間見ようとしない経営
【人間見ようとしない経営 品川正治さん(経済同友会終身幹事)】
(12月28日 朝日新聞 より)
品川 正治(しながわ・まさじ) 24年生まれ。旧年日本火災海上社長を経て93~97年経済同友会専務理事。現在は国際開発センター会長。
職を失う非正規労働者が今年10月から来年3月までに8万5千人に達すると厚生労働省が発表した。来春採用の内定を取り消された大学生や高校生も800人近くいるという。異常な数字である。
米国発の金融危機が欧州や新興国を巻き込み、実体経済に波及した。それが日本では雇用という経済社会の基本を揺るがす問題として浮かび上がっている。「構造改革なくして成長なし」という成長至上主義の呪縛にとらわれた米国型改革で派遣労働が緩和された結果、労働者が最大の犠牲を強いられている。
これまで日本の資本主義には、果実は国民が分けるという実質があった。それが修正主義と批判され、果実は株主や資本家のものという考えが幅を利かせた。いったんは回復した景気の実感さえ得られないまま、リストラという名目で労働者への分配は減らされ、浮いた利益を配当に回すことで経営者の報酬を増す。そういう米国型の経営手法が当然とされてきた。
非正規労働者を調整のための「物」とみなす風潮の横行に今年、労働者の危機感は高まった。小林多喜二の小説「蟹工船」が若い人たちの間で話題となり、「搾取」という古い言葉が議論に欠かせなくなった。労働者の危機感は現実となり、いまや「路頭に迷わせるな」というこれまた古い言葉が、切実さをもって復活している。
話が飛ぶようだが、私は憲法9条を行動の指針としている。復員の船の中で初めて読んだ条文の根底に、国家ではなく、人間の目で戦争をとらえる確かな視線を感じたからだ。経済も人間の目でとらえることができるか。経営者として私は自ら問うてきた。
現状はどうか。人間の目どころか国家の目でもとらえられないものに、経済は変質した。国際金融資本や多国籍企業の視線に、国家も国民も振り回されている。痛みは大きいが、米国型金融資本主義が崩壊したことに安心さえ覚える。あと5年も米国化が進行していたら、経済の変容は行き着くとことまで行き、労働者も今以上に商品化されていたことだろう。
米国では80年代から進んだグローバル化も、日本で本格的に進んだのは00年以降のことた。日本企業はまだ米国型に100%染まってはいない。役員会で労働者を切って配当を確保しようとする財務担当者に対して、雇用を守ろうと必死に主張する人事担当者がいると信じたい。
雇用の確保が成長を遅らせるという反論に対する答えはノーだ。家も借りられず結婚もできない若い労働者は、内需のマーケットから完全に除外されている。彼らの生活の再生産と将来設計を可能にする雇用の保障は、長い目でみて外需頼みから内需への転換を促す要素になるはずだ。
経営者は本来、資本家のためだけではなく、従業員や代理店などすべての利害関係者のために仕事をするものだ。いま、職と家を失った非正規労働者の受け皿を、他の企業や自治体が用意する動きが急速に広がっている。彼らは人間の目で、人間を見ている。あなたには見えますかと、経営者に聞くとよい。 (聞き手・今田幸伸)
【私の意見】
12月28日の朝日新聞「耕論 雇用危機の姿」という欄に、品川正治さん(経済同友会終身幹事)、鴨桃代さん(全国ユニオン会長)、生田武志さん(野宿者ネットワーク代表)の談話が掲載されていました。そのうち品川さんのお話を紹介しました。
品川さんは「日本企業はまだ米国型に100%染まってはいない。役員会で労働者を切って配当を確保しようとする財務担当者に対して、雇用を守ろうと必死に主張する人事担当者がいると信じたい」と言っています。しかし、今の日本の会社の取締役会は社長(会長)のツルの一声ですべてが決まっていきます。財務担当者がAを主張し、人事担当者がBを主張し、民主的議論の結果Bに落ちつくというシナリオはほとんどないのではないでしょうか。当の社長の多くが自分が在任中の目先の業績しか考えておらず、その結果売上げが減少すればためらうことなく人減らしという選択肢をとります。
12月に発表された日本経団連の来春闘方針は「雇用の安定が最優先」とした当初案から「安定に努力する」に後退しました。
品川さんの講演を伺ったことがあります。経営者の進むべき王道を力説されているのに感銘しました。しかし今の日本の経済界では一人の昔気質の老御意見番という程度の位置づけで、残念なことに品川さんの意見を真摯に受け入れようとする現職の経営者は数少ないのが現実です。
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