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2008年10月27日 (月)

橋下徹 弁護士・知事としての資質を問う

【タレント弁護士】

 私は、普段はテレビについては衛星第一放送(BS1)をはじめとしてNHK(総合テレビ)、民放のニュースを中心に見ている。テレビ番組「行列のできる法律相談所」も橋下氏が刑事弁護人の懲戒請求を扇動した「たかじんのそこまで言って委員会」も見たことがない。参議院議員となった丸山和也氏も橋下氏も弁護士としては勿論、タレントとしても全く知らなかった。ただ橋下氏の懲戒請求扇動発言については直感的に「えっ?こんなこと扇動して橋下という弁護士が逆に懲戒を受けることにならないか?」という懸念をいだいた。広島地裁が10月2日橋下氏に対し刑事弁護人をつとめた4人の弁護士に1人あたり200万円計800万円の損害賠償を命じる判決を言い渡したことがきっかけで、橋下氏の当時の発言とその後の発言がクローズアップされ、私も多少関心をもつに至った。

Wikipediaより

 てっとり早く橋下氏の人物像を知るためウィキペディアで橋下徹を検索した。弁護士としての生き方においても思想・信条においても私とは全く相いれないことがわかりがっかりした。ブログにとりあげる意味を感じられず意欲が一気にしぼんだ。しかし、広島地裁が刑事弁護人の使命・職責について述べる点は重要な視点であり、とりあげることにした。

【広島地裁判決】

 広島地裁判決は次のように判示し、刑事弁護人の使命・職責を歪曲して無責任な発言をした橋下徹弁護士の責任を厳しい姿勢で明確にした。

<橋下氏の懲戒請求発言の内容>

 広島地裁判決は橋下氏の発言を次のように判示している(広島地裁判決全文 光市事件懲戒請求扇動問題弁護団ホームページより)。

 被告は大阪弁護士会に所属する弁護士であり、いわゆるテレビタレントをも業とする者であるところ、平成19年5月27日讀賣テレビ放送株式会社制作の「たかじんのそこまで言って委員会」と題する番組(以下「本件番組」という)に出演し、共演者らが本件弁護団の活動を批判する中で次のとおり発言した(以下順次「本件発言ア」ないし「本件発言オ」といい、併せて「本件各発言」という)(甲1の①及び②、弁論の全趣旨)。
  ア 「死体をよみがえらすためにその姦淫したとかね、それから赤ちゃん、子どもに対しては、あやすために首にちょうちよ結びをやったということを、堂々と21人のその資格を持った大人が主張すること、これはねぇ、弁護士として許していいのか」(本件刑事事件において本件弁護団がしたという主張の内容を摘示するもの)
  イ 「明らかに今回は、あの21人というか、あの安田っていう弁護士が中心になって、そういう主張を組み立てたとしか考えられない」(上記主張を本件弁護団が創作したという事実を摘示するもの)
  ウ 「ぜひね、全国の人ね、あの弁護団に対してもし許せないって思うんだったら、一斉に弁護士会に対して懲戒請求かけてもらいたいんですよ」
  エ 「懲戒請求ってのは誰でも彼でも簡単に弁護士会に行って懲戒請求を立てれますんで、何万何十万っていう形であの21人の弁護士の懲戒請求を立ててもらいたいんですよ」
  オ 「懲戒請求を1万2万とか10万人とか、この番組見てる人が、一斉に弁護士会に行って懲戒請求かけてくださったらですね、弁護士会のほうとしても処分出さないわけにはいかないですよ」
  本件番組は、讀賣テレビのほか全国18の地方テレビ局により放送された。

<当裁判所の判断1「橋下発言は刑事弁護人の名誉を棄損する」>

(1)本件発言イについて
  ア 名誉毀損に該当するかどうかについて
    
 原告らを含む本件弁護団が本件被告人の弁解として虚偽の事実を創作して主張したという事実は、原告らがその人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであると判断される。
  イ 違法性阻却事由について
    本件全証拠を検討しても、原告らが本件刑事事件において本件被告人の主張として上記①及び②の主張を創作したことを認めるに足りない。
    
刑事事件において被告人が主張を変更することはしばしばみかけられることであるし、本件でも原告らが選任される前の従前の弁護人の方針により上記主張をしなかったことも十分に考えられるから、原告らが創作したものであるかどうかについては弁護士であれば少なくとも速断を避けるべきことである。
   
  以上によれば、本件発言イは原告らの名誉を毀損し、不法行為に当たるというべきである。
 (2)本件発言ウないしオについて
  
  本件発言ウないしオは原告らを含む本件弁護団に属する弁護士について懲戒請求をすべきことを呼ぴかけるものであり、原告らが懲戒に相当する弁護活動を行っていることをその前提とするものである。
  懲戒に相当する弁護活動を行っていることは原告らが弁護士として社会から受ける客観的評価を低下させるものであることはいうまでもない。
  
  原告らの弁護活動が懲戒に相当するものでなく、摘示された事実の重要部分について真実であることの証明があったとはいえないし、被告においてそのように信じたことについて相当な理由があることを認めることができない。

<当裁判所の判断2「少数派の人権を保護すべき弁護士の使命」「被告の主張は弁護士の使命・職責を正解しない失当なもの」>

弁護士法1条1項に、弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とすると規定されていることから明らかなように、弁護士は議会制民主主義の下において、そこに反映されない少数派の基本的人権を保護すべき使命をも有しているのであって、そのような職責を全うすべき弁護士の活動が多数派に属する民衆の意向に沿わない場合がありうる。多数の者が懲戒請求をしたことをもって懲戒相当性を認めるということは、弁護士が上記のような使命・職責を果たすべきこととは相容れない。また、本件が本件刑事事件における原告らの弁護活動に対する批判をめぐる事件であることに鑑み、これを刑事手続における弁護人の役割についてみても、憲法及び刑事訴訟法等の諸規定に照らせば、被告人は有罪判決が確定するまでは無罪の推定を受け、弁護人はそのような被告人の保護者としてその基本的人権の擁護に努めなけれぱならないのであっで、その活動が違法なものではない限り、多数の者から批判されたことのみをもって当該刑事事件における弁護人の活動が制限されたり、あるいは弁護人が懲戒されることなどあってはならないことであるし、ありえないことである。
  したがって、弁護士に対する懲戒事由の存否について多数決で決することは本来許されるぺきことでなく、懲戒請求の多寡が弁護士に対する懲戒の可否を判断するに当たり影響することはない。被告の主張は上記のような弁護士の使命・職責を正解しない失当なものである。

<当裁判所の判断3「被告の損害賠償義務」>

上記のとおり、本件番組は、全国19のテレビ局において放送され、本件放送後平成20年1月21日ころまでに申し立てられた懲戒請求の件数は、原告足立に関するもの639件、原告井上に関するもの615件、原告今枝に関するもの632件、原告新川に関するもの615件であったことがそれぞれ認められる。

いずれも弁護士として相応の知識・経験を有すべき被告の行為によってもたらされたものであることにも照らすと、これらの原告らの精神的ないし経済的損害を慰藉するには被告から原告ら各自に対し200万円の支払をもってするのが相当である。
  被告はほかにもるる主張するが、いずれも全く失当であり理由がない。

【橋下知事「間違っていた」と謝罪 控訴理由、詳しく説明せず】
                  (10月2日 日本経済新聞 より)

 大阪府の橋下徹知事は2日、庁内で取材に応じ「自分の判断が間違っていた」と繰り返し頭を下げた。「何よりご遺族に迷惑かけました」と述べ、終始硬い表情だった。
 控訴する理由について「判決が不当だというわけではないが、ちょっと高裁の意見をうかがいたい」と詳しい説明を避ける一方、高裁で逆転勝訴した場合でも「僕が一線を越えていたのは間違いない」と強調した。

【橋下TV発言 弁護士資格を返上しては】
                     (10月3日 朝日新聞 社説より)

 歯切れのよさで人気のある橋下徹・大阪府知事のタレント弁護士時代の発言に、「弁護士失格」といわんばかりの厳しい判決が言い渡された。
 
 その発言をきっかけに大量の懲戒請求を受けた弁護団が損害賠償を求めた裁判で、広島地裁は橋下氏に総額800万円の支払いを命じた。判決で「少数派の基本的人権を保護する弁護士の使命や職責を正しく理解していない」とまで言われたのだから、橋下氏は深く恥じなければならない。
 
 そもそも橋下氏は、みずから携わってきた弁護士の責任をわかっていないのではないか。弁護士は被告の利益や権利を守るのが仕事である。弁護団の方針が世間の常識にそぐわず、気に入らないからといって、懲戒請求をしようとあおるのは、弁護士のやることではない。

 偏った番組作りをした放送局が許されないのは当然だが、法律の専門家として出演した橋下氏の責任はさらに重い。問題の発言をきっかけに、ネット上で弁護団への懲戒請求の動きが広がり、懲戒請求は全国で計8千件を超える異常な事態になった。
 橋下氏は判決後、弁護団に謝罪する一方で、控訴する意向を示した。判決を真剣に受け止めるならば、控訴をしないだけでなく、弁護士の資格を返上してはどうか。謝罪が形ばかりのものとみられれば、知事としての資質にも疑問が投げかけられるだろう。

【「朝日なくなれば世のためになる」橋下知事が批判】
                 (10月21日 日本経済新聞 より)

 大阪府の橋下知事は20日、山口県光市の母子殺害事件の弁護団への懲戒請求を呼び掛けたことを巡り訴訟で敗訴した際、朝日新聞が社説で弁護士資格の返上を求めたことに対し「朝日新聞は事実誤認があったら廃業するのか。(同新聞が)なくなったほうが世の中のためになる」などと批判した。東京で開いた機関投資家向けの府債の説明会後に記者団に述べた。
 橋下知事は社説について「からかい半分で本気ではないと思う」とした上で、「全く愚かな言論機関。すぐさま廃業した方がいい。権力の悪口を言っていればいいと思っているのではないか」などとまくし立てた。
 知事は19日に兵庫県伊丹市で行われた陸上自衛隊中部方面隊の記念式典の祝辞でも「人の悪口ばかり言う朝日新聞のような大人が増えれば、日本はだめになる」などと発言していた。

【376人の弁護士、市民が橋下徹弁護士を懲戒請求 元“親弁”の樺島弁護士が呼びかけ】

 橋下氏自身に対する懲戒請求が現実に呼びかけられていることをインターネットで知った(浅野健一 ゼミへようこそ)。
 橋下氏の懲戒請求を呼び掛けた橋下氏の親弁樺島正法弁護士は私と同期であり、許せないと思ったら後に引かない弁護士である。

【私の意見】Up63

 朝日新聞の社説は判決にそったごく自然な意見である。タレント弁護士としてマス・メディアを利用して発言した立場として、また大阪府知事という公職にある立場として、このような批判を謙虚にうけとめるべきである。ましてや、「(朝日新聞が)無くなったほうが世のためになる」というのは言論の自由、報道の自由を否定するものであり、恐怖政治につながる。単に弁護士としてだけでなく、政治家としての発言としても看過できない発言である。
 判決後表面的には謝罪しながら控訴を表明するというのも朝日新聞でなくともこの謝罪は何なのだろうかと思わざるを得ない。語れば語るほど後味の悪さしか残らず、やるせない気分に陥る。

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コメント

私も橋下氏の発言内容は不適切だと思います。ですが朝日新聞が「控訴するな」といったのはいただけません。橋下氏が批判されるのは、「どれほどの重罪人であっても弁護をうける権利をもつ」という原則を理解していないとみられるからですが、それとまったく同様に、「いかなる被告であれ控訴する権利をもつ」という原則もなりたつはずであり、その原則が橋下氏にだけ適用されない理由はないはずです。道徳的に反省しているか、という問題とは別に考えるべきだと思うのですが、いかがでしょうか。(なおこの意見は朝日新聞社にも当然に、直接につたえたものであって、決して意味のない「いいがかり」をつけているつもりはありません。同社から返事はいただいていませんが。)

投稿: 杉野実 | 2008年11月18日 (火) 10時53分

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