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2008年5月12日 (月)

日経「改革停滞を憂える」と朝日「北欧に学ぶ」

 同じ5月5日に日経新聞と朝日新聞に対照的な記事が載っていましたのでご紹介します。一緒に考えて下さい。

【社説 改革停滞を憂える】
                   (5月5日 日本経済新聞 より)

<長期拡大でも地位低下>

 日本経済は2002年から上向いて戦後最長の拡大を記録し、いま踊り場にある。だが回復力は弱く、02年から昨年までの実質成長率は平均1.8%と、ともに2.65%の米英を下回る。一人当たり国内総生産は06年に経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国の18位(1993年は3位)に落ち込んだ。
 また世界経済フォーラムの調べによると、国別の競争力は昨年、世界8位(93年は1位)、情報技術分野の競争力では今年、19位(昨年は14位)と、多くの指標が日本経済の地位低下を示す。

<グローバル競争に耐える制度を早く>

 その背景にあるのは、日本がぐずぐずしている間に、米国、英国、北欧諸国など多くの国が経済のグローバル化に対応して市場重視の改革を進めてきた事実である。
 ところが日本では「小泉内閣以来の改革の行きすぎが地方経済の疲弊や所得格差を生んだ」などの声がある。その大半は的はずれに思える。例えば公共事業削減で地方経済が悪化したとしても、地方分権や農業改革、官業の民間移管などの改革を進めていれば悪化の度合いは緩やかだったはず。改革の行きすぎではなく不徹底な改革こそが問題だ。
 いま日本経済は米サブプライム問題に端を発した景気減速と、石油・食料を中心とした物価高の二重苦に入りつつある。そこでは財政・金融政策による需要管理は無力だ。需要を喚起すればインフレを加速させ、需要を抑えれば景気をさらに悪化させるからだ。需要管理ではなく供給面を改革し、世界で16位の労働生産性を高めるしかない。
 福田康夫首相は、「骨太の方針」に向けて成長戦略の策定を指示するなど表向きは改革に取り組んでいる。だが首相の関心は、中身があいまいな「消費者庁」の創設など国民受けを狙ったものに偏りがちだ。
 いま本当に必要なのは経済の開放と競争を通じて成長を持続させるための改革だろう。

 例えば関税の相互撤廃を軸とする経済連携協定(EPA)は、企業の国際展開に必須だ。現実には、東南アジア諸国と結んだ協定は日本が農産物などの市場開放を渋ったため、相手国の工業品関税引き下げも限定的で双方にメリットが少ない。日本への不信感から協定を守らない国も現れ、タイの鉄鋼関税などに日本の業界は不満を募らせる。今後、オーストラリアや欧州連合(EU)と実効ある協定を結ぶには本格的な市場開放を避けられない。
 そのためにも農業改革は大切だが歩みは遅い。一例だが、株式会社が土地を借りて大規模な農業を営む場合、市町村が仲介する。大抵は工作放棄地など条件の悪い土地があてがわれる。企業に対する役所の懸念もあるようだが、これでは農業の生産性向上は遠い。世界的な食糧不足は対岸の火事でなく、自給率向上の面からも競争力強化は急務だ。

 企業の税負担軽減も考えるときである。法人課税の実効税率は40.7%(東京都)と、ドイツ(29.8%)や英国(28%)を上回る。社会保険料や租税特別措置も勘案すると欧米より低い業種もあるが、法人税負担の著しく低いアジア諸国との競争も考えれば軽減は当然だ。
 グローバル化の時代には企業が各国と同じ土俵で競えなければ不利になる。その事実を与野党の政治家は厳粛に受け止めるべきである。

【特集 北欧に学ぶ】
                       (5月5日 朝日新聞 より)

<出生率も就労率も高く>

 一人の女性が一生に産む子どもの数である合計特殊出生率。フィンランドは1.84%(06年)で、日本の1.32%を大きく上回る。60年代以降、女性の社会進出とともに出生率は下がったが、87年を底に1.7~1.8台に回復、安定した。女性就労率は高く、多くが正規雇用だ。
 NGO「フィンランド家族連合」のアナ・ロトキルシュ上級研究員によると、教育レベルが高いほど女性の産む子どもの数は減る、という国際的な傾向はフィンランドには見られないという。

 共働きを支えるのは公立保育所と育児手当だ。産後10ヶ月間、収入の3分の2が出る育児休業が与えられる。この育休明けが、子どもを保育所に預けて職場復帰する最初の節目となる。保育所費は収入に応じて払う。低所得者は無料で、最高で月200ユーロ(約3万3千円)。3歳までは自宅で育てれば、育児手当が少なくとも月300ユーロ(約5万円)支給される。

 手厚い施策は国民の高い税負担が支える。所得が多い者ほど重税感が増す。ある政府関係者は「税負担は他のEUの他国と比べても、確かに重い。しかし、社会をよくするために使われていると納得できれば受け入れる、という感覚はみなにある」と話した。ロトキルシュさんは「税金はサービスで取り戻せる、という意識が強い」と言う。
(井田香奈子)

<数字でも豊かさキラリ>

 北欧諸国は、さまざまな指標で世界の上位に位置している。
 「世界競争力ランキング」(07年)では、デンマークが米国、スイスに次ぐ3位。世界の政財界リーダーが集まるダボス会議の主催者、世界経済フォーラムが各国のインフラ整備状況やマクロ経済の安定度、教育制度などの要素を指数化し、世界の経営者らへのアンケート回答と組み合わせて算出したものだ。
 教育面ではフィンランドが特に光る。経済協力開発機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA)では、科学的リテラシー(応用力)で03年、06年と連続して1位。「学力世界一」として、日本でも注目を集めた。
 女性の社会進出も進んでいる。国連開発計画(UNDP)が、国会議員や、管理職、専門職などに占める女性の割合などから算出するジェンダー・エンパワーメント指数(07年)では、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークの順で1位~4位を独占。日本は54位だ。男女差に限らず、所得格差の度合いを示すジニ係数でわかるように貧富の格差も比較的小さい。
 財団法人・社会経済生産性本部が、健康や環境、労働経済など56の指標を使った「国民の豊かさ」総合指標(07年)でも、2位ノルウェー、3位スウェーデン、5位フィンランド、8位デンマークと上位を占める。総合的な「人間の豊かさ」を示すUNDPの人間開発指数(07年)でもノルウェーが2位など、北欧諸国が上位に並ぶ指標は枚挙にいとまがない。
(松井健、吉田美智子)

<尊厳をもてる社会を 東大教授 神野直彦氏>

 じんの・なおひこ 46年生まれ。専門は財政学。著書「人間回復の経済学」「『希望の島』への改革」などで、スウェーデンの経験を紹介し、福祉・教育・医療の充実や新産業育成の必要性を主張する。北ヨーロッパ学会理事。

 日本人は北欧について「高負担の国々が、どうやって経済成長できるのが」という点に関心を抱くが、彼らは経済成長よりも、尊厳をもって生きられる社会をどうやって築くかを重く考えている。
 スウェーデンでは、社会サービスを「オムソーリー」と呼ぶ。「悲しみを分かち合う」という意味。他者に優しくし、必要とされる存在になることが生きることだと考える。その概念によって社会が支えられている。
 高い税金に不満が少ないのも、分かち合いの発想からきている。いつかは自分も子供を持ち、高齢者、あるいは失業者になる。充実した介護や育児サービス、教育や職業訓練があれば、安心できる。
 企業活動や社会貢献もそうだ。会社では、個人が競い合うというより、家族や地域社会のようにみんなで知恵を出し合う。女性の知恵も生かす。こうすれば多くのアイデアが生まれ、需要に対応しやすい。信頼して分かち合う社会が、知識集約産業に適していたということだ。
 日本では、税や社会保険料を「負担」と考える。高負担だと海外投資が呼び込めないと思い込み、規制をなくして「小さい政府」を目指す。財政負担が重いという理由で後期高齢者医療制度をつくる。
 大学生への調査で「この社会は、気をつけていないと誰かに利用されてしまうか」という問いに、日本は8割が「そう思う」と答えた。フィンランドは25%だった。北欧の成功を部分的につまみ食いしようとしても、うまくいかない。まずは互いを信頼し合える社会、政治が必要だ。
(聞き手・山口智久)

【私の意見】Up63

 日経新聞がどうしてこんなにも小泉改革に入れ込むのか、私には今なお理解不能です。「いま本当に必要なのは経済の開放と競争を通じて成長を持続させるための改革だろう」と言われても、小泉改革で人々が少しも幸せになれず、この社会が尊厳をもって生きられる社会とは程遠いのに、この社説にとても賛同することはできません。株式会社に上質な土地を与えて農業生産をあげさせ、法人税を下げて企業の純利益を増やしても、そのことが人間としての国民ひとり一人の充実した人生に結びつかなければむしろ有害です。小泉・竹中「改革」の致命的な欠陥は生身の人間のことを考えていないことに尽きます。
 うつ病や過労死があとを絶たないのに日経社説が「労働生産性を高めるしかない」と言いきる偏向性は日本最大の経済紙だけにとても心配です。

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コメント

朝日の偏向のほうこそ気になりますが。小泉改革で経済が活性化して失業率が下がりました。税も低いので、高齢化にもかかわらず消費は落ちていません。国民の幸福は明らかに増していますよ。

過労死はむしろ支えあいという集団重視の考えが生んでいます。アメリカのように個人主義にすれば解決することです。

投稿: TY | 2008年8月 8日 (金) 17時15分

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