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2008年3月 2日 (日)

自閉症児 校内転落事故、5月29日判決へ

【両親司法判断を求めて】

 2004年11月26日に発生した自閉症児校内転落事故について、自閉症児(A君)と両親(B氏・C氏)が原告となり、小金井市、担任教師(D氏)及び校長(E氏)を被告として、東京地方裁判所八王子支部に2006年11月1日に提訴しました。これは民事事件(損害賠償等請求事件)ですが、その審理が去る2008年2月28日結審され、5月29日午後1時15分に判決が言渡されます。
 私はこの事件に原告代理人として他の5名の弁護士とともに深くかかわってきました。この事件では単に事故発生というだけでなく、真実そのものが教師らによって歪められ事実と異なる説明がされていることを私たちは訴えています。A君の両親はA君が在籍していましたし、学校側を相手に法的手続をとることなど思ってもいませんでしたが、すべてをA君の責任にし、事故の発生の事実関係をもごまかそうとした対応にやむをえず法的手続きをとりました。A君が将来事故の後遺症で苦しむこともあり得ます。両親は真実は何かを司法によって判断してもらうことがA君に対する親の義務と思うようになりました。
 私は私のまわりにも教師の方がたくさんいて、“今の先生は気の毒だな”と思うことが少なくありません。教育委員会、校長、PTA、保護者、生徒の板ばさみで、うつ病を発症する教師も少なくありません。“うつ病教師のための弁護団”を特別につくろうかと思うぐらいです。しかし本件をみると学校関係者の障害児に対する理解度や障害児と向きあう姿勢に多いに問題があることを実感しました。許せないと思われる点も多々あります。

【自閉症児に対する威かく教育の過ち】

<D教師は十分な担任歴があった>
 担任Dは新任の時からこの小学校の心身障害児学級の担任を5年間続けていました。A君についても入学以来3年間担任を続けていました。担任といっても受けもつ生徒の数は少なく、事故の起きた2004年度はA君を含めて3名を担任しているだけですので本来A君の障害特性が十分理解できている筈です。したがってA君の障害特性にあわせた教育ができる筈です。

<自閉症の「3つの障害特性」>
 自閉症は、脳の障害によるもので、乳幼児期の早い時期に症状が明らかになる発達障害の一つです。自閉症の児童・生徒には、さまざまな障害特性がありますが、共通するものとして、①社会性・対人関係の障害「対人関係がうまくもてない」、②コミュニケーションの障害「コミュニケーションがうまくとれない」、③強いこだわりや固執的な行動「独特の行動パターンをもつ」などとされています。

<A君について>
 A君はとてもかわいらしく活発な小学生です。いろんなことに興味をもって学校でも職員室や他の教室をのぞくことが時々あります。A君は自分で自分の気持ちや考えを言葉で表現することが十分にはできません。

<事故発生の経過>
 ① この事故が起きたのは、2階の体育館で体育の授業が始まる前のときです。体育館には4つの倉庫がありました。倉庫1はバレーボールなどが入っていて生徒は自由に出入りできました。窓にも生徒の転落防止のためのフェンスがつけてありました。倉庫2~4はいろんな道具が置かれていて普段は生徒が出入りすることは余りなく、転落防止のフェンスもありませんでした。A君は倉庫1に入ったあと、倉庫2に入りました。

 ② A君が倉庫2から出てきたとき、D教師はA君に「倉庫に入ってはいけません」と注意しました。ところがA君は次に倉庫3に入りました。倉庫の扉は自動的に閉まるようになっていました。D教師は扉を開け「倉庫に入ってはいけないと言ったでしょう。そんなに入っていたければ入っていなさい。」と言って強く怒った態度で扉を閉めました。A君は悲しそうな顔をしてアーアーと言って手を前にさしだす仕草をしましたがこれを無視しD教師は怒っているという態度を示すことを意図して扉を閉めました。

 ③ D教師は扉の前に立っていたとのことですが、扉を閉めて20~30秒たってもA君は出てこず、反応がありませんでした。D教師が扉を開けたところA君の姿が見えず、窓が開いていました。D教師はあわてて窓の下を見ると生徒の上履きが片方落ちており、A君らしい泣き声が遠くで聞こえました。D教師は1階におりてその上履きを拾ったところA君の名前が書いてありました。D教師が再び体育館にもどったところA君が保健室にいるという連絡がありました。A君はあごを強打し歯を6本折って体育着の前は血だらけで泣いていました。D教師が抱っこするとA君は片方上履きをはいていませんでした。A君が体育館下を泣きながら血に染まった体育着で走っているのを給食調理員の女性や用務主事の男性が目撃していました。
 
 ④ A君はD教師により倉庫内にとじこめられ、混乱状態となって窓から脱出しようとして大きなケガをしたことは明らかです。東京都教育委員会発行の「自閉症児の障害特性に応じた指導の考察」という教師向けのパンフレットに「くどくどした叱責や、感情的な叱責は児童・生徒にとって混乱のもとになり、子どもへの適切な指導とは言えません」と記述されています。D教師は感情的な叱責をした上、A君を倉庫に閉じ込めたのですからA君が混乱するのは当然です。

 ⑤ その上、倉庫2からA君が出てきたときのD教師の「倉庫に入ってはいけません」の注意はA君には何のことかわからず、「注意」になっていません。A君は倉庫という抽象的な言葉が理解できません。倉庫1は入ってよいのに抽象的に「倉庫に入ってはいけません」と言われても何のことがわかりません。教師としては指や腕などを使って×印をつくるなどして「この倉庫はダメ」ということを具体的に指導しなければA君には伝わらないのです。ですから、倉庫3に入ってもA君はD教師に逆らったという意識はありません。それなのにD教師が怒って扉を閉めればA君が混乱を起こすことは当然です。転落防止のフェンスのない倉庫に数十秒も閉じ込めておくことが危険であることは教師として当然認識している筈です。D教師としてはA君を安全・確実に倉庫の外に出すことをまず第一に考えなければなりません。扉を開けたまま“A君、さあ出てきて体操をしましょう”と声かけをするべきだったのです。D教師の対応は自閉症児に対する「注意」でも「指導」でもなく、教師が自ら危険な状況を作り出したもので、自閉症児教育についてまちがいにまちがいを重ねたと言えます。

【教師が事実と異なる説明をする等学校側の態度が悪い特殊な事件】

<教師対自閉症児>
 判例法上、学校事故について、学校側の責任が認められた事例はたくさんあります。それらは教師対生徒が対峙するというよりも、児童・生徒間同士の悪ふざけやけんかで児童・生徒の片方が怪我したような事例で、教師の不作為を不注意があったとして学校側の責任を認めています。最近では最高裁が雷に生徒がうたれて死亡した事故で教師の責任を認めています。判例は教師、校長に「生徒・児童の身体の安全について万全を期すべき高度の義務」があるとしています。これら他の事案と比べると本件は教師と小学校3年生の自閉症児が直接対峙して教師自身が発生させた事故です。教師・学校側に弁解の余地はないと思います。

<教師による事実と異なった事故説明>
 ところが本件について更に容認できないのは、教師が事故発生状況について事実と異なった説明をしたということです。D教師は「扉を閉めてドアの外に立っているとガシャンと音がした。A君が扉から外に出て行った。倉庫3内では一輪車のスタンドが倒れ一輪車が散らばっていた。A君は一輪車からとびおりるときにけがをした」という事実と明らかに異なる説明を校長・副校長・A君の保護者らに説明し、保護者会でも平然と事実と異なる説明をしています。D教師はA君が事故状況を自分で話せないことを知っていますから、平気で事実と異なる説明を多くの人の前で行ったと思わざるを得ません。 

<警察の捜査>
 たまりかねてA君の両親が事実を調べてもらうため、警察に被害届けを出しました。警察が実況見分をした結果、D教師の述べることは事実を異なることが明らかになりました。D教師は警察の実況見分に立ち会ったのち、これまでの説明を一度訂正しました。しかし、刑事事件としては起訴までは至らなかった以降、再び倉庫内の転倒を言い出し、裁判ではA君が自分の自由意思で行動し、ケガをしたのだから因果関係がないとまで主張しています。

【学校に根強い障害児に対する差別意識】

 E校長は倉庫2、倉庫3における「D教師の注意・指導は正しかった」「D教師はまじめで、やさしい将来ある青年である」として絶賛しています。E校長は事故の発生場所や発生原因は特定できない旨の報告書を小金井市教育委員会に提出していますが、その第1の理由はA君が事故状況を話せないことにあるとしています。A君が話せないことをいいことにD教師は事実と異なる事故発生状況を平然と多数の前で説明しました。A君が多少でも話せればこんなことはできなかったと思います。A君には何の非もないのに、教師の「注意・指導に従わない聞きわけのない生徒」というシナリオが学校側でつくりあげられた事件であることを私たちは裁判所に訴えています。障害児の両親が学校側を相手に訴訟を提起することは子どもを人質にとられているような状況の下ですから決してできることではありません。多くの親は泣き寝入りしています。この事件の判決が障害児や障害児の親たちに勇気を与え、学校関係者に猛省を促すような判決であってくれるよう祈ってやみません。
 

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