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2008年1月28日 (月)

日経偏りすぎ? 成長・改革・内向き志向

            ― 1月27日・28日 日本経済新聞 より ―

【迷走ニッポン 今すべきこと】

 米国の住宅バブル崩壊で世界経済が変調を来すなか、日本は塹壕(ざんごう)にこもるような内向き志向を強めている。改革後退はグローバルにみた魅力の低下に拍車をかけている。逆境を乗り切り、成長する国をつくれるかの底力が試される。

 日本経済新聞の滝田洋一編集委員の名で出された1月27日の記事は私には疑問点が少なくありません。
 米国の住宅バブル(サブプライム)問題は竹中平蔵氏をはじめ日本の市場経済主義者たちがほめたたえていた米国経済の実体なるものがいかに虚構にみちたものであるかを白日のもとにさらしました。市場経済主義者たちが同様にほめたたえていた米、欧の金融機関も日本の金融機関と何ら変わらずいい加減なものであることも白日のもとになりました。日本の金融機関は米、欧の金融機関よりも先に金融危機を経験したために今回はサブプライム問題による痛手は 米、欧の金融機関よりも少なくてすみました。記事は「塹壕にこもるような内向き志向を強めている」とか「改革後退はグローバルでみた魅力の低下に拍車をかけている」とかの文学的、心情的言葉で表現していますが具体的に何をしろというのでしょうか。痛んだメリルリンチなど米、欧の金融機関の増資を引き受けろというのでしょうか。

【内向き脱却で悪循環断て】

 福田康夫首相は26日サブプライムローン問題への迅速な対応を訴えたが、中曽根氏が「米国発株安の歯止め役」を自任した20年前と違い、今の日本は最も大きく振り回されている。自民党が参院選で惨敗した昨年7月以来、外国人投資家の日本株売越額は3兆円を超す。日本は変わると期待していた外国勢が逃げ出したのだ。
 米欧と違いサブプライムの損失が少ないはずの日本の株式が売られるのはなぜか。日本の株式は外国勢の買いに頼っている。経済そのものも外需頼み。こんな「2つの外頼み」が背景にある。

 外国人投資家が日本株を売って日本の会社の株価が下がったからと言って、国民の生活にどんな影響があるのでしょうか。日本の企業が株式市場や債券市場から資金を調達するうえでは影響があるでしょうが、今日本の上場企業の多くは流動資産が豊富で証券市場から是が非でも資金を集めなければならない状況ではありません。
 1月28日の「迷走ニッポン 今すべきこと・中」で同じ日経の西條都夫編集委員は次のように述べ企業に資金が豊富にあることを認めています。

 幸いバブル崩壊後の「失われた15年」に日本企業はリストラを進め、財務基盤は健全化した。上場企業の営業キャッシュフロー(現金収支)は日本の国内総生産の1割弱に当たる40兆円に達している。

【国民1人当り名目GDPが世界18位】

 93年には経済協力開発機構(OECD)諸国中のドルベースで第2位だった一人当たり名目GDPは、06年には18位に低下した。金額でみても3万5000ドル強から3万4000ドル強へと減少している。円安で輸出を押し上げても、経済全体が上げ潮に乗っていない。
 所得の低い国は、高い国より速く成長するので、経済格差は縮まる。「経済学には収斂(しゅうれん)の理論があるのに、今の日米間にはそれが当てはまらず格差が開くばかり」。竹中平蔵慶大教授は日本の停滞に警鐘を鳴らす。

 日本工作機械工業会の1月22日の発表によると2007年工作機械受注は前年比10.6%増の1兆5899億円となり2年連続で過去最高を更新しています。円安の恩恵もあって日本の貿易収支も順調です。円安の恩恵を受けながら、その円安のもとでドル換算ベースで一人当たり名目GDPをはじき出せば下がるのは当たり前です。たとえ国民1人当り名目GDPが下がったとしても、日本の大企業には何の影響もなく、着実に財務体質を強化しています。日本の貿易黒字も着実に積みあがっています。竹中平蔵氏は「日米間の格差が開くばかり」と言っていますが、世界経済が変調をきたした震源地が米国であるのに、何をもって格差が開くばかりと言っているのでしょうか。理解に苦しみます。

【成長戦略こそ】

 バブル崩壊後の危機から脱すると、国民や政策当局者は慢心に陥りがち。新ビジネスの余地をつくる規制緩和のピッチは落ちている。対日投資に対し企業防衛を優先する空気が経営者にも広がりつつある。参院選後に一段と強まった内向き志向が、投資マネーの日本離れを加速している。
 日本は取り巻く外部環境が悪化するなかで、今こそグローバル化に対応した「経済開国」を急ぐときである。

 企業の新規参入などで農業の生産性を高め、市場開放を進めながら「攻めの農業」に転じる農業改革。外国の多様な人材を活用できるようにする労働市場改革。長い間、なかなか前に進まなかった改革は待ったなしだ。

 「経済開国」「攻めの農業」「外国の多様な人材を活用できるようにする労働市場改革」と魅惑的な言葉は並んでいますが、農家など国民一人一人の生活の安定にどのように寄与するのでしょうか。「改革!」と叫べばみんな黙ってしまった小泉・竹中「改革」は国民一人一人にどんな夢を運んでくれたのでしょうか。

【真の改革と成長の路線】

 企業にたまった潤沢なキャッシュ(手元現金)や家計の1500兆円の金融資産を生かし、海外からの投資資金を引き込む。そのためには金融業と金融市場の活性化が早急に必要だ。政策当局に求められるのは、真の改革と成長の路線である。

 「企業にたまった潤沢なキャッシュ(手元現金)や家計の1500兆円の金融資産を生かし、海外からの投資資金を引き込む」というのは理解不能です。企業にも家計にも資金が豊富であれば海外から投資資金を引き込むのではなく、むしろ海外に投資することを推奨することにならないでしょうか。「そのためには金融業と金融市場の活性化が早急に必要だ」と言うのはサブプライム問題で多額の損失を出した米、欧の金融機関や金融市場を見習えと言うのでしょうか。「政策当局に求められるのは、真の改革と成長の路線である」と言っても何が「真の」改革かが今問われているのです。かつて野党が「真の」民主主義とか「真の」革新とか言ってやゆされていましたが、総じて主張に裏付けがないときに「真の」という形容詞を使う傾向があります。

【変われない国に見切りをつける】

 西條編集委員は次のように述べています。

 日本郵船の宮原耕治社長は部下の報告にショックを受けた。年明けに投資家向け広報で担当常務を北米に派遣したが、機関投資家から「日本の企業に興味はない」といわれ、面会の約束さえ満足に入らなかったのだ。
 同社は中国の製鉄会社と長期契約を結ぶなど顧客基盤のグローバル化を進めてきた。だが日本に本社を置くという一点で、そっぽを向かれる。「日本の存在感がここまで低下したとは」。宮原社長の危機感は募る。
 米国に端を発した世界経済の変調。日本の信用システムが受けた傷は米欧に比べはるかに軽いはずだが、日本株の下げはきつい。政治における改革路線の後退などに外国人投資家が失望し、「変われない国」に見切りをつける構図である。

 西條委員は「政治における改革路線の後退などに外国人投資家が失望し」たと言っていますが、ほんとうにそうなのでしょうか。そのことがきちんと検証されたのでしょうか。私には客観的裏付けにもとづいた記事とは思えません。

【企業防衛】

 私はむしろ滝田編集委員の指摘する

「対日投資に対し企業防衛を優先する空気が経営者にも広がりつつある」

とか、西條編集委員の指摘する

「日経平均株価の昨年来高値は、東京高裁がブルドッグソースの買収防衛策を支持した昨年7月9日で、それ以降相場は下げに転じた。企業が内向きの姿勢を強めれば、投資マネーの日本離れは加速する」

という事実こそが投資マネーの日本離れに影響していると思います。
 しかし、そもそも企業は株式を公開するか否かの自由をもっています。企業家は大量の資金を集めたいために株式を公開しますが、自社独特のモノづくりに専念したり、他よりすぐれたサービスを提供し、折角企業評価が高まっても敵対的買収を受けると安心してモノづくりに打ちこめません。経営者が企業防衛に走りがちなのは当たり前のことです。これを経営者の自己保身と決めつけることはできないと思います。それに企業防衛を非難するのであれば、株のもちあいなどを進める企業群であって「政治における改革路線の後退などに外国人投資家が失望した」というのは論理が飛躍しています。

【社説・論説になると数値的卓越性がガクンと落ちる】

 何度も言いますが、私は日本経済新聞にすぐれた記者をたくさん知っています。たとえば障害者の労働問題の取材を受けた場合にも、一般紙の記者は弱者救済という安易な表現に走りがちですが、日経の記者は障害者の自立のために何が必要か、そのために企業のコストはどうかという視点から数値的、冷静に分析しながら、結論としては前向きな記事を書いてくれさすがと思うことがたびたびでした。ところがひとたび「成長」「改革」に関することになると日本経済新聞は「成長」「改革」路線を強調し、強調すぎのあまり日経新聞の強みである論理性、数値性、客観性、冷静性を欠く記事が少なくありません。第一線の記者の方々からは日経新聞の数値に裏付けられた卓越性を感じるのに社説とか論説になるとその卓越性がガクンと落ちてガッカリすることが少なくありません。時の経済界首脳の考えを反映しなければならない宿命でもあるのかな???
 それに株に投資することなど思いもよらない地方の農家の方や日々残業に追われている労働者にとって投資・投機大国になることがどんな意味があるのか、日本を代表する経済紙として広い視点から冷静かつ客観的に考察していただきたいと思います。労働者や農業従事者の収入が増えないかぎり、内需が高まらず外資だけでなく、日本の企業さえも活路を日本市場ではなく、アジア新興市場に求めているのが現実ではないでしょうか。

 

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