NOVA 社長解任と会社更生の申立
(10月27日 日本経済新聞 より)
【NOVA破綻 迷走の4ヵ月 3取締役が幕引き】
派手な宣伝戦略で知られた英会話学校最大手、NOVAの取締役らが社長を解任して会社更生法の適用申請に踏み切った。30万人の受講者や4千900人の講師・スタッフを巻き込んでの経営破綻。6月の経済産業省の行政処分から4ヶ月の迷走を追った。
25日午後10時30分ごろ。東京新宿の新宿NSビル23階のNOVA東京本部で臨時取締役会が始まった。4人の取締役のうち参加したのは吉里仁見、アンダース・ルンドクヴィスト、渡辺勝一の3人。代表権を持つ猿橋望はそこにはいない。議題は「猿橋代表の解任決議」。発行済み株式数の72%(2007年3月時点)を実質的に所有していたワンマン経営者がその地位から滑り落ちる瞬間だった。
猿橋本人はその30分ほど前、同じ東京本部のオフィスに入った。しかし、猿橋は携帯電話を片手にオフィスを歩き回り、3人の取締役が集まる別室に入ることはなかった。
猿橋抜きで社長解任を決め、そろって代表取締役に就任した吉里ら3人は即座に会社更生法の適用申請を決議。申請書は日の出を待たず午前5時ごろに大阪地裁の窓口に届けられた。
<迫る「教室崩壊」背中押す>
“準備”はその数日前から始まっていた。「スポンサー探しやつなぎ融資でご協力をお願いしたい」。NOVAの役員ら数人が極秘に取引銀行を回り頭を下げたという。
「財務内容も分からないのに追加融資には応じられませんよ」。金融機関の多くは慎重な姿勢を崩さなかった。それでもNOVA取締役らは行動を起こさないわけにはいかなかった。
21日の夜7時。東京・港のJR新橋駅近くにある全国一般労働組合東京南部の事務所にNOVAで働く約20人の外国人講師らが集まった。
「これでは家賃が払えない」「雇用保険はもらえるのか」 -。参加者らは口々に窮状を訴えた。15日に振り込まれるはずの給与は支払われないまま。集会のまとめ役で、NOVA講師のロバート・テンシーも「先月結婚したばかりなのに」と浮かぬ表情を見せた。結局、この日は16日に続く2度目の組合員全員によるストを翌日に実施することを決めて散会した。
「スト」はこれだけにとどまらない。「きょうは講師がいないので休みです」。給料がもらえないならと自主的に“休業”する講師が増え、予約受付で受講者がこんな応対を受ける例も目立っていた。
家賃滞納が続き、閉鎖を余儀なくされる教室も続出。26日午後、記者会見した保全管理人によると、現時点でレッスン提供が可能な教室数は今年3月末から3割弱減少し670程度になっているもようという。
「更生法申請はぎりぎり、土壇場のタイミング」(保全管理人の高橋典明)。ひたひたと迫る“教室崩壊”が3人の取締役の背中を押す形となった。その賭けが事業継続という「実」を結ぶかどうかは今後、支援先企業がみつかるかどうかにかかっている。
【ワンマン経営 空回り 提携立ち消え 人心は離反】
(10月28日 日本経済新聞 より)
細かな営業方針にも指示を出し、社員に自らを「本部長」と呼ばせていたワンマン経営者の猿橋。海外留学から帰国後、1981年に創業した英会話事業を業界トップに育てた成功体験にこだわる猿橋が他社との提携で接点を見いだすのは難しく、その後も候補が浮かんでは消えていった。
加速する顧客離れに歯止めをかけ、資金的な後ろ盾を得るための提携策がいっこうに実現しないまま、7月下旬からは日本人社員への給与の遅配や教室家賃の支払い滞納などが表面化する。
それでも「絶対ポジティブ」という社是を地でいくように猿橋は強気の姿勢を崩さない。「秋の上昇波動に乗るまでキャッシュアウト(現金の支出)はできる限り絞り込んでいます。社員と生徒を守るために全力を尽くしています」。7月に続き、8月も給与の遅配に陥った際には記者の質問にこう答えていた。
だが社内の人心は離反。エリアマネージャーなど幹部級の社員が給与支払いと社長退陣を求める嘆願書をとりまとめるなどの動きも出始めた。経産省の処分後に発足した経営改革委員会のメンバーである弁護士の佐藤明夫も9月4日、猿橋以外の3人の取締役に「すぐにでも社長を解任すべきだ」と進言した。
資金繰りに追われる当の猿橋は社外の人間と行動をともにするようになり、幹部社員も携帯やメールでしか連絡がとれないような状況になる。
「もはや企業の体をなしていない」と非常勤監査役の戸島利夫は10月初旬、辞表を提出。ほかの2人の監査役もほぼ同時期に足並みをそろえた。経理や総務など管理業務を担当する社員が櫛(くし)の歯が欠けるように職場を去り、資金の流れをつかむことさえできない状態になっていた。
10月13日。経産省の担当課長と会い、経営の行方を聞かれた猿はそんな状況の中でも「引き続き頑張ります」と答えるだけだったという。
「(更生法申請が)もっと早ければより有利な形でのスポンサー選定と事業譲渡ができたはず」。猿橋を解任したNOVAの取締役らが会社更生法の適用を申請した26日。記者会見で同社の手元資金が尽きたことを明らかにした保全管理人の高橋典明と東畠敏明は、いたずらに再建への時間が浪費されたことを悔やんだ。
【私の意見】
1、 英会話学校のほとんどはNOVAのように株式会社が経営しています。多くの英会話学校の経営基盤はぜい弱で、受講生が唯一の資産という経営を余儀なくされているところが少なくありません。NOVAは駅前留学とか充実した外国人講師陣をうたい文句に大々的に広告宣伝を行ってきましたが、NOVAと外国人講師とのトラブルが絶えませんでした。
2、 NOVAの会社更生手続開始申立事件で、私は会社更生法手続きの申立代理人や更生管財人を経験した立場から注目する点があります。それは会社更生法の活用という角度からです。会社の再建に利用される法的手続きとしては、民事再生法にもとづく再生手続開始申立事件と会社更生法にもとづく会社更生手続開始申立事件の2つがあります。再生手続はもともと中小企業の再建手続として考えられていましたが、この手続のもとではそれまでの経営者が引き続き経営に携わることができます。一方会社更生手続の場合には経営陣の総入れ替えが原則でした。そのため中小企業に限らず大企業でも会社更生手続ではなく再生手続を選択することが少なくありません。NOVAも猿橋社長が申立てをしていればおそらく民事再生手続の方を選んだでしょう。たまたま今回は取締役が3対1で猿橋社長を解任しましたが、発行済み株式の72%を実質所有している猿橋社長は臨時株式総会を開いて逆に3人を解任することができた筈です。ところが臨時株主総会を開くためには2週間以上の日数が必要でその隙間をぬって今回の社長解任劇が成立しました。
3、 会社更生手続開始申立事件は東京地裁でも大阪地裁でも減っています。会社更生事件はかつては日本中を驚かすビッグな事件が中心でしたが、昨今は小さなゴルフ場の会社更生申立なども受理する傾向にあります。NOVAの事例を教訓に少数株主・少数取締役・一般債権者・労働債権者という弱い立場の者にも利用しやすいよう法制度を整備し、公正・衡平な再建手続の一層の充実を図る必要があると思いました。
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