« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »

2007年5月31日 (木)

憲法解釈見直しは首相の専権か?

【社説 集団的自衛権の解釈見直しを是とする】
                 (5月19日 日本経済新聞社説全文)

 集団的自衛権の行使をめぐる憲法解釈の是非を検討する「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長、柳井俊二前駐米大使)の議論が始まった。
 安倍晋三首相は、集団的自衛権の行使を憲法9条違反だとする従来の政府見解に疑問を述べており、懇談会は明快な説明ができる形で解釈を変更する論理を考える。私たちは日本と世界をとりまく安全保障環境を考え、解釈変更を是としてきた。本格的議論の始まりを歓迎する。
 集団的自衛権は「自国と密接な関係をもつ他国に対して第三国が武力攻撃をした場合、自国が直接攻撃されていなくても自国への攻撃とみなして実力で阻止する権利」である。歴代政府は、憲法解釈上、日本は集団的自衛権は保持しているものの、権利を行使することはできない、との立場をとってきた。
 安倍首相は①公海上で米軍艦船が攻撃された場合、近くの自衛隊艦船が援護する ②米国に向かう弾道ミサイルを日本はミサイル防衛システムで迎撃する ③他国の国連平和維持活動(PKO)部隊などが攻撃された場合に自衛隊が駆けつけて救援する ④PKOの補給、輸送や医療など後方支援のあり方 の4類型を示し、検討を求めた。
 現行解釈でこれらを考えると、日米同盟の信頼関係や自衛隊の国際協力活動の支障になりかねないとの判断なのだろう。憲法解釈権は最終的には最高裁判所にあるが、政府見解の責任者は内閣法制局長官ではなく首相である。集団的自衛権を行使できる範囲は無制限ではないにせよ、首相見解は変えられる。が、それを定着させるには国民の同意が要る。新解釈に基づく法案をつくり国会で成立させるか、衆院選でそれを公約し、勝利する必要がある。
 懇談会の議論は、このための基礎資料となる。首相が懇談会の結論を踏まえて政府見解を変更すれば、憲法改正の焦点である9条の改定が実質的になされ、改憲への弾みを失うとの見方もあるが、国民投票法案が成立したとはいえ、投票ができるようになるのは3年後である。9条の解釈変更と将来の改憲との間に矛盾はない。一連の作業と呼べる。
 安全保障をめぐる議論は党派的になりやすいが、本来は幅広い国民的合意のもとに進む姿が望ましい。その点で懇談会が秋にまとめる報告書がどれだけ説得力を持つ内容になるかは、それ以降の作業にとって重要である。だが、それは参考意見に過ぎない。解釈変更が首相の判断でなされるべきなのは自明である。

【私の意見】Up63_28

 この社説には私は賛同できません。

1、最高裁判所は抽象的憲法解釈を行う場ではありません
 裁判所による違憲審査制には大別して ①特別に設けられた憲法裁判所が、具体的な争訟と関係なく、抽象的に違憲審査を行う方式(抽象的違憲審査制)と、②通常の裁判所が具体的な訴訟事件を裁判する際に、その前提として事件の解決に必要な限度で適用法条の違憲審査を行う方式(付随的違憲審査制)があります。日本国憲法が最高裁判所に与えた違憲審査権は後者です。それに日本の最高裁判所は「高度に政治的である」として自ら判断することから常に逃げています。

2、憲法解釈を時の首相が変えることができるという見解は立憲制度の否定です。
 近代立憲主義は、個人の権利、自由を確保するために国家権力を制限するものです。かつては国家権力の頂点は国王でしたが今は大統領や首相です。その首相が憲法解釈を自由に変更できるとすれば憲法秩序は破綻します。国会の発議も国民投票も必要ありません。社説の「国民投票法案が成立したとはいえ、投票ができるのは3年後である。9条の解釈変更と将来の改憲との間に矛盾はない。一連の作業と呼べる」の記述は国民投票を行っていては3年後になるから今解釈変更で実現すればよいと言っていることになります。つきつめれば、憲法の定めた改憲手続は不要ということになります。

3、誤った機関説
 歴代の内閣が内閣法制局の見解を尊重してきたのは、内閣法制局長官が内閣総理大臣の上位にあるからということからではもちろんありません。少なくとも内閣法制局長官の見解を踏み超えることは慎もうという態度が歴代の首相にはありました。それは憲法をいくら時の内閣の考えに近いものに解釈しようとしても憲法規範が超えることを許さない限界を画しているからです。社説は内閣総理大臣は内閣法制局長官より上位にあるという機関論で、首相の憲法解釈変更権を認めようとしていますが、これは「法の支配」を否定することにつながります。

4、フランス人権宣言「憲法をもつものではない」に該当
 フランス人権宣言(1789年)16条は「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていないすべての社会は、憲法をもたない」と宣言しています。時の内閣総理大臣が憲法解釈を自分の考えにそって変更できるとすれば立法権、司法権の侵害にとどまらず憲法そのものの否定で、わが国は「憲法をもたない国」に変質することを意味します。

5、国民の生命、健康が危険にされされます
 合憲解釈をしないと「日米同盟の信頼関係や自衛隊の国際協力活動の支障になりかねない」との立場から首相を支持していますが、当の米国ですらイラク派兵は誤りであったという世論が多数派になりつつあります。その上、米国のことよりも何よりも集団的自衛権に関するこの議論は日本が戦場になることを当然の前提で展開されています。まちがいなく日本国民の多数の血が流れるでしょう。「日米同盟」や「国際協力」のようなきれいごとのために国民が支払う代償はあまりにも大きくとりかえすことができないものばかりです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年5月24日 (木)

平岩元経団連会長死去 経済超えた見識

                        (5月23日 朝日新聞より)

【平岩外四氏死去】

 経団連(現日本経団連)会長や東京電力社長、会長を務めた平岩外四(ひらいわ・がいし)さんが22日午前10時56分、心不全のため東京都内の病院で死去した。92歳だった。

【政治献金のあっせんを廃止】

 経済同友会代表幹事を務めた木川田氏の影響もあって、早くから財界活動を始め、90年代に第7代の経団連会長に就き、94年5月まで3年半務めた。公益事業出身の会長は初めてだった。
 細川内閣当時の93年9月、正副会長会議で経団連が続けてきた政党への政治献金のあっせんを廃止することを決めた。非自民の細川連立政権が発足し、自民党の一党支配体制が崩れるなか、企業献金を批判する世論に配慮した。平岩氏自身は企業献金は廃止すべきだとの考えだったが、副会長には慎重論が強く、経団連のあっせんを廃止した上でうえで一定期間ののちに廃止を含めて見直しを求めていくことになった。

【地球環境憲章・企業行動憲章をつくる】

 91年に経団連の地球環境憲章を作成。証券・金融不祥事を受けて企業行動憲章もつくり、企業が守るべき指針を示した。米欧との経済摩擦を解消するための考え方として「共生」を前面に打ち出し、社会や環境にも広げようとした。また、副会長が重厚長大産業に偏していたのを改め、流通や食品など消費者に近い産業からも選んだ。

【政治献金の復活に疑問視】

 日本経団連は奥田碩会長になり、04年、政治献金を復活。ただ、経団連が政党の政策を評価して、各企業が献金する仕組みになり、平岩氏は「寄付に注文をつけるのか」と疑問視していた。

【靖国神社に参拝しない】

 平岩氏の原点は第2次世界大戦。東京帝大を卒業、東京電灯に入社したが、40年に出征。ニューギニア戦線の部隊117人のうち生還したのは7人。その中の1人だ。
 平岩氏は、靖国神社を参拝しない。「多くの若者の死は惨めなものだった。飢えたり、おぼれたり。靖国の玉砂利の上にいるとは思えない」

【経済に愛国心などの強権の論理は入っていない】

 小泉前首相の靖国参拝に批判的で「ナショナリズムの高まりには注意しないといけない。昭和初期の空気に似てきている」と語った。安倍首相が進める憲法や教育基本法の改正にも「どうするつもりなのか」と首をかしげ、同調する経団連にも「経済には愛国心など強権の論理は入っていない」と批判的だった。

【労働市場改革に批判的】

 献金見直しと並ぶ平岩氏の功績は、93年の「平岩リポート」だ。細川首相(当時)の私的諮問機関「経済改革研究会」の座長として3ヶ月余で経済改革の方向性をまとめあげた。だが、最近の労働市場改革には批判的だった。「労働の基本形に派遣や請負を位置づけるの良くない。雇用契約は正社員が基本だ。財界から、敗戦直後の労働運動の記憶が薄れつつある」
 労働争議が激しくなる中、東電の労務係長として労組幹部の説得に奔走した。今のままだと労働者の反発が強まるおそれがあると心配していた。

【私の意見】Up63_27

 朝日新聞は「企業倫理を的確に判断 巨星墜つ」との中見出しをつけていました。同感です。平岩氏は企業のあり方を広い視点から追求した人であり、現在だけではなく未来を見据えて提言し、実行した人だと思います。すぐれた人を亡くしてとても残念です。長い間ご苦労さまでした。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007年5月21日 (月)

国民の血が流れる首相の有識者懇談会

                        (5月19日 朝日新聞より)

【首相「悲願」へ一歩】

 安倍首相が指示した集団的自衛権の研究が18日、有識者懇談会で本格的に始まった。日本の安全保障の体系を抜本的に見直すことにつながる可能性があるだけに、議論の行方に内外の関心が集まる。安倍首相は憲法改正の手続を定める国民投票法を手にしたことに加え、安倍路線のもう一つの骨格を鮮明にしようとしている。

<首相発言要旨>

 北朝鮮の核開発や弾道ミサイル、国際テロ、地域紛争など我が国を取り巻く安全保障環境は格段に厳しさを増している。PKOなど国際的な平和活動に一層積極的に関与する必要がある。日米同盟がより効果的に機能することが重要で、強固な信頼関係なしに同盟関係は成り立たない。
 新たな安保政策には明確な歯止めが必要だ。これまでの政府の見解を念頭に置きつつ、国民を守るための最良の方向性について提言してほしい。

<首相が示した集団的自衛権、4類型イメージと論点、課題>

 ① 公海上で米軍艦船への攻撃に対して自衛隊が
   対処する。
 ② 米国に向けて発射された弾道ミサイルを自衛隊
   のMDシステムで迎撃する。
 ③ 多国籍軍による人道復興支援やPKOで共に行
   動する他国軍への攻撃に自衛隊が対処する。
 ④ 前線への武器輸送を認めるなど後方支援の範
   囲を広げる。

 懇談会設置をチャンスとみるメンバーも多い。
 この日、首相が示したのは4類型に過ぎないが、懇談会の雰囲気は、安全保障体系全体の見直しだ。柳井俊二座長は記者会見で「常識にかなった結論に到達したというのが、多くの委員の発言だ」と説明。集団的自衛権の行使容認が大勢を占めたことを明かした。

【懇談会の人選に偏り 解釈変更は改憲が筋
                   秋山・元内閣法制局長官】 

                    (5月18日 朝日新聞 論考より)

 -有識者懇談会の人選をどう思いますか。
 非常に偏っていると思う。従来の政府解釈に批判的な立場の人ばかり。安倍首相と異なる主張の人は見あたらない。
 -なぜ政府は集団的自衛権の行使を容認していないのですか。
 政府見解では日本が自衛権を行使するには三つの要件が必要だ。①わが国への急迫不正の侵害 ②他の適当な手段がない ③必要最小限度の実力行使にとどめる の3要件だ。特に「わが国への」という点が重要で、他国が攻撃されても自衛隊が応戦できるという解釈はできない。
 -かつて安倍首相の質問を受けていますね。
 首相が自民党幹事長だった04年1月の衆院予算委員会で、「集団的自衛権の行使はわが国を防衛するための必要最小限の範囲を超え、憲法上許されない」という81年の政府答弁書について「『必要最小限』というのは数量的な概念であり、行使を研究し得る可能性はあるのではないか」と聞かれた。
 内閣法制局長官だった私は誤解を解くいい機会と思った。答弁書は自衛権行使の3要件を満たすことを前提としており、それは数量的ではなく質的な概念だということを丁寧に説明した。だが、首相は当時の疑問が今も解けていないのだろう。
 -与党には内閣法制局の憲法解釈は硬直的だという批判もあります。
 政策論として集団的自衛権の行使を認めるべきだ、という主張は理解できる。だが、それは法律論ではない。憲法9条は、自衛隊の行動に国際法の基準以上の厳しい制約を課している。強引に解釈を広げれば、国際法と憲法の解釈が一致し、憲法の意味がなくなる。
 -政府解釈の変更はやはり無理だと。
 内閣法制局は憲法の規範的な意味を守ってきた。首相はそうした積み重ねを無視しないで欲しい。時の政府の判断で解釈を変更できるなら、公権力を縛る憲法の意味が失われてしまう。歴代首相が集団的自衛権の行使を「真っ黒」(違憲)と言ってるのを「真っ白」(合憲)にするのは至難の業だ。解釈変更をしたいのなら、憲法改正で正面から対応するのが筋だ。

【集団的自衛権研究 「日中関係に影響」山崎氏が首相批判】
                    
(5月18日 朝日新聞より)

 自民党の山崎拓・元幹事長は17日の自民党の集団的自衛権に関する特命委員会(中川昭一委員長)で、安倍首相が「集団的自衛権の研究」を掲げて安全保障上の制約見直しを進めていることについて、「参院選を控えた時期に、日中関係にも一石を投じるような議論をわざわざする必要があるのか」と批判した。
 山崎氏は4月末に訪中した際に中国共産党幹部が中国の軍備拡大の狙いについて「台湾開放への備え」と説明したことに触れ、「(中国は)靖国問題より台湾問題に敏感と知ったうえで議論を進める必要がある」と指摘。首相の私的諮問機関に関して「必ず台湾問題の議論が出る。自衛隊の活動を広げるための周辺事態法の改正となれば、日中関係に大きな影響を及ぼす」と懸念を示した。

【私の意見】Up63_26

 安倍首相が示した4類型は日本を米軍の後方支援どころか、日本を米軍の前線基地として米本土を守るための戦場と化そうとするものです。日本国憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と明記しています。有識者懇談会は安倍晋三が首相という立場にありながら偏った人たちを集めて議論をさせることそのものが憲法違反です。
 それにしても安倍首相は日本が前線基地となったときに多数の日本国民の血が流れるということについて思いが及ばないのではないのでしょうか。有識者懇談会を立ち上げるのならまずそのことから始めるべきでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007年5月15日 (火)

イラク参戦 ブレアと英国民が失ったもの

                    (5月11日 日本経済新聞より)

【ブレア首相 来月退陣】

 ブレア首相が10日、退陣を表明した。労働党政権にもかかわらず市場重視に基づくサッチャー改革を継承、15年にわたる経済成長を実現した。そのモデルは欧州だけでなく世界にも広がった。外交では米英関係をテコにした「米欧の懸け橋」を目指したが、イラク戦争で生じた亀裂を埋めきれなかった。43歳の若さで登場してから10年、ブレア首相は世界に大きな影響を与えて表舞台から姿を消す。

【英復活、市場重視で導く 福祉改革と両立「第三の道」】

 1997年の就任当時。英国民はサッチャー時代からの改革に疲れ、高インフレを招いた保守党政権からの転換を期待していた。しかし、ブレア首相は労働党でありながらサッチャー元首相がまいた改革の「種」を引き継ぎ、改革の基本路線は変えなかった。
 政権発足直後に中央銀行の行政からの独立を断行、市場改革の強い意志を内外に示した。労働党政権に懐疑的だった金融街シティーも「ニューレーバー(新しい労働党)」を信頼した。市場重視と福祉を両立する「第三の道」は、米国とも欧州大陸とも異なる経済戦略だった。
 通貨ユーロの導入も見送り独自の道を歩んだが、ロンドンにはカネもヒトも集まった。英経済は格差拡大というひずみを抱えつつも、ハイテクバブル崩壊を乗り越え、景気拡大を続けた。

【米追従外交 イラク戦争で暗転】

 「イラク戦争後、世界で活発になったテロによって、多くの人が高い代償を払っている」。戦後、英国のイーデン首相がスエズ動乱でつまづいたように、ブレア首相はイラク戦争で国民の支持を失った。
 「米国を動かさなければ世界は変わらない」。信念の政治家だったブレア首相はイラク戦争でブッシュ米大統領と行動をともにしたが、仏独と対立し、欧州内や米欧間の分裂に歯止めをかけられなかった。
 フセイン政権を倒し、イラクを民主化するという目的にぶれはなかったが、大量破壊兵器は見つからず、「ブッシュのプードル犬」とたたかれた。

【私の意見】Up63_25

<民族が共生していた25年前のロンドン>
 私は25年前に初めてヨーロッパを旅しました。最初に訪れたのがロンドンでした。ロンドン・ヒースロー空港に着いたときさまざまな民族の人々が乗り降りしているのを見てびっくりしました。当時羽田でも成田でも見るのがほとんどが日本人でしたが、ロンドンに降りただけで“あー、これが国際都市か”という思いを焼き付けられました。ロンドンの町に2日間滞在しましたが高級店やレストランでもアフリカ出身の人やインド出身の人が自信を持って働いていました。エリザベス女王を共通の元首とする英連邦の精神がこの都市にまちがいなく生きていると私の目には映りました。パリにも2日間滞在しましたが、当時のパリでは、アフリカ出身の人々がモンマルトルの広場などであちこち敷物をならべて指輪などの小物を売っていましたが、パリの警察官が来るとあわてて敷物をたたんで逃げるように去っていました。当時私は、ロンドンとパリではこんなにも違うんだという印象をもった記憶があります

<ブレア首相と日本の首相>
 トニー・ブレアは10年前43歳で颯爽と登場し、イギリス国民が選んだ若くて清新なリーダーは私にもまぶしくうつりました。この間日本の首相は小渕、森、小泉、安倍の4人です。小渕元首相は自ら世界の借金王を名乗っていましたが比較的穏やかな人で短期間のうちに病気で倒れ外交的にはほとんど記憶がありません。その後、神の国発言の森元首相、靖国神社参拝の小泉前首相、祖父岸信介元首相を神さまのように崇めて(祖父信仰)、憲法9条をしゃにむに改正しようとする安倍現首相と続きました。言葉だけは威勢がいいけれど頭が空っぽな日本の首相たちと賢いトニー・ブレアと見比べて、政治家としての格が違うという思いをもったのは私だけではないでしょう。

<ブレアの挫折>
 そのトニー・ブレアの人生最大の失敗はイラク参戦であったことは明らかです。ブレアは心の底では”もしも歴史の歯車を元に戻すことができれば~”と思っているように思います。イラク参戦後トニー・ブレアの清新な表情もうせてしまい、あっという間に険しい老いた顔に変わりました。圧倒的に国民に支持されていたのに国民の信頼も急速になくなってしまいました。

<イギリス社会が失ったもの>
 地下鉄テロ事件を起こしたのはイギリス社会で普通に生活していたパキスタン系イギリス人2世、ジャマイカ系イギリス人2世などでした。このことがイギリス人にとっては大変なショックでした。多民族が溶けあって共生社会を築く努力を重ねていたイギリスにおいて民族間の不信が生まれてきたことはイギリス社会にとり大きな痛手でした。多数のイギリスの若い兵士が尊い命をなくしたこととともに、民族間の信頼社会をめざしたイギリスが不信社会になったことの損失ははかりしれないものがあります。

<鎖国国家日本>
 マドリッドやロンドンのテロは日本人にとっては所詮他人事なのです。イラクに自衛隊を派遣したと言ってもイギリスやオランダの軍隊に守られて水道工事をしただけです。誰一人死んでいません。日本の入国管理局は世界一こわい役所です。イスラム系外国人が入国するなど至難の業です。人の出入という面では日本は世界一の鎖国国家です。日本国内でのテロが発生する確率は他の国と比べてきわめて低いでしょう。イギリスで起きたことは他人事であり、日本人は高見の見物をしているにすぎません。

<とんでもない未来が待っている>
 5月14日国民投票法がついに成立しました。憲法9条を改正するということは、日本が明日はイギリスと同様にアメリカの同盟国として若い兵士の血を賭けて参戦するということです。若い兵士が血を流すだけでなく一般市民もテロや爆撃で命を失うことにつながるのです。それがほんとうに国民に幸福をもたらすのかイギリスやスペインで起きたことを自国に置き換えて真剣に考えなければいけない状況に安倍首相は日本国民を追い込んできました。戦争の悲惨さを知らない愚かなリーダーの威勢のいい発言にのかっていると、とんでもない未来がまちかまえています。
 

| | コメント (0) | トラックバック (1)

2007年5月12日 (土)

癒着サルコジ氏と完全無欠の小泉前首相

                   (5月11日 朝日新聞 夕刊より)

【「癒着」サルコジ氏に批判の声】
【ヨット提供の実業家、公共事業受注】

 フランス大統領選で当選したとたん地中海へバカンスに出かけたサルコジ前内相に対してヨットを提供していた仏実業家が、仏政府から公共事業を受注していたことが10日明らかになった。癒着ではないかと批判の声が上がっている。
 仏メディアによると、この実業家はメディア関連企業などを手がけるバンサン・ボレロ氏(55)。マルタに来たサルコジ氏に3日間、超豪華ヨットを差し出した。サルコジ氏は「税金は使っていない」と弁明。ボレロ氏も「我がグループは仏国家との取引が一切ない」と明言していた。
 ところが、ボレロ氏のグループが昨年、サルコジ氏が内相当時の内務省から仏東部の警察施設の設置を34万ユーロ余り(5千万円以上)で請け負っていたことを、官報を調べたメディアが発見。05年に国防省から3600万ユーロの事業、06年に外務省から数百万ユーロの事業を受注したこともわかった。
 批判を受けたサルコジ氏は9日夜パリに戻り、真っ黒に日焼けした顔で10日の奴隷制度廃止記念式典に参列。しかし批判は収まらず、選挙で同氏を支持した哲学者アラン・フィンケルクロート氏は同日のルモンド紙への投稿で「共和国大統領に選ばれたばかりなのを忘れたのか。恥さらしだ」と怒りをぶちまけた。

【私の意見】Up63_24

 小泉前首相は贈答品をもらっても、同額のものを返すという記事を読んだことがあります。女性関係も離婚しましたが恋人がいるなどの浮いた報道に接したことはありませんので特別つきあっている女性もいないのではないでしょうか(これは推測です)。カネも女も小泉前首相は完全無欠の人ということになります。一方人望の高いフランス大統領であった故ミッテラン氏は奥さんとは別に愛人がいて、愛人との間に娘さんがいました。そのことを記者が質問すると故ミッテラン氏は「それがどうしたの?」と言い返したとのことです。大人の国フランスならではのことです。サルコジ氏の癒着は故ミッテラン氏とは異質であり、事実を曲げた説明で言い逃れを図ることなど国のリーダーとしては明らかに失格です。それに私の思いをつけ加えさせていただくと、私は完全無欠の小泉氏よりも、また不誠実なサルコジ氏よりも、故ミッテラン氏にはるかに人間としてのぬくもりを感じます。ただし、愛人との間に娘がいるからではありません。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007年5月11日 (金)

仏バスチーユ広場のデモと戦後レジーム

【サルコジ氏に反発 暴動やまず】
                       (5月9日 朝日新聞より)

 フランス大統領選で当選したサルコジ氏に反発する若者らの暴動は、開票日翌日の7日夜も収まる気配をみせなかった。パリではバスチーユ広場に結集したデモ隊が警官隊と衝突。商店が壊されるなどの被害が出た。
 サルコジ氏は移民や犯罪に厳しい態度で知られ、反発する左派系若者たちが6日夜、仏各地で騒ぎを起こした。治安当局によるとこの夜だけで730台の車が燃やされ、逮捕者592人。警察官78人がけがを負った。
 騒動は7日夜も続き、小規模なデモの群れがバスチーユ広場に集まって数百人に膨張。周囲の商店や看板を壊し、車両を焼いた。いったん解散したものの、深夜になって再び若者らが結集。警官隊とぶつかり、200人以上が一時拘束された。
 西部ナントでも数百人規模の反サルコジ・デモが暴動に発展。ショーウィンドーを壊すなどし、警官隊が介入した。リヨンやカーンといった主要都市でも数百人規模のデモがあった。
本人は保養地 家族とヨット
 当のサルコジ氏は休養宣言し、7日から行方をくらました。当初はコルシカ島に行ったとのうわさが流れ、仏メディアが一斉に島内を捜索する騒ぎに。実は地中海の島国マルタのヨットの上で家族と優雅に過ごしていることが同日夕わかった。

【サルコジ氏豪華休日に波紋】
【地中海でプール付きヨット・・・】

                    (5月10日 日本経済新聞より)

 フランス次期大統領ニコラ・サルコジ氏(52)が選挙の疲れを癒すためにとった「休暇」が豪華すぎると波紋を広げている。6日夜、パリのシャンゼリゼ通りに面した高級ホテルに宿泊。翌朝、地中海のマルタ島へプライベートジェット機で飛び、プール付き豪華ヨットで一晩を過ごした。
 プライベートジェット機はメディア関連企業を傘下に置く仏ボレロ社が所有。ヨットも同社のトップ、ヴァンサン・ボレロ氏から借りたという。仏紙パリジャンの試算では合計費用は最低でも20万ユーロ(約3200万円)。「派手すぎる」との批判が噴出した。
 ボレロ氏は仏紙ルモンドに対し「個人的に招待した」と表明。サルコジ氏はマルタ島で「何が問題なのかわからない。ボレロ社は政府の仕事を請け負ったこともない」と癒着の疑いを否定した。
 一方パリの一部大学では学生がサルコジ氏が掲げる大学改革に反対してキャンパス封鎖とストの実施を決めた。サルコジ氏の当選以来、車への放火などの騒ぎが相次いでいるが、同氏はこうした混乱についてはコメントしなかった。

【私の意見】Up63_23

 バスチーユ広場はフランス革命(1789年)の際民衆が最初に蜂起した場所です。フランス国民はアンシャン・レジーム(旧制度)をこわし自分たちの手で人間の自由、平等や人民主権の原則および私有財産権の不可侵を勝ちとりました。多くの日本人は小泉前首相が“改革!”“改革!“と叫ぶと簡単にそうだ改革は必要だと信じ、小泉前首相が“抵抗勢力!“というレッテルを貼れば簡単にそうだあいつらは悪い奴だと簡単に思いこむ傾向があります。安倍首相が戦後レジームを大胆に見直すと言えば中味を吟味することなく“いつまでもGHQの押付け憲法でしばられることはない“という議論に走る傾向があります。フランス人はサルコジ次期大統領が“改革!““改革!“と叫んでも改革の中味を自分たちの目と耳で吟味する慎重さがあります。ましてやサルコジ氏がアンシャン・レジーム後の新レジーム(新制度)の大胆な見直しなどを本気で言えば革命になるでしょう。フランス人は政治的・社会的成熟度において日本人よりはるかに高いものをもっていると思います。日本の戦前こそアンシャン・レジームなのに、安倍首相が戦後の民主制度を戦後レジームと呼ぶのはフランス語ならびに戦後制度を冒とくするものだと思います。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2007年5月 9日 (水)

市場競争原理とフランス大統領選

【仏大統領にサルコジ氏 右派勢力を結集】                  
                    (5月7日 朝日新聞 夕刊 より)

 フランス大統領は6日決選投票があり、即日開票の結果、民衆運動連合(UMP=右派)のニコラ・サルコジ前内相(52)が、初の女性大統領を目指した社会党のセゴレーヌ・ロワイヤル元環境相(53)を破って初当選を果たした。両候補とも、2期12年務めたシラク大統領(74)の時代からの脱却を前面に打ち出したが、決断力、実行力を強く印象づけたサルコジ氏に、仏国民は「変化」への期待を託した。

 サルコジ氏は、この5年間、内相や財務相など重要閣僚を歴任し、実績を重ねた。右派を結集した厚い組織力も背景に、今年1月以降、ほぼ一貫して支持率トップを維持。4月22日の第1回投票では31.18%を獲得し、ロワイヤル氏の25.87%に差をつけていた。
 経済政策では「もっと働き、もっと稼ごう」をスローガンに、「週35時間労働」の見直しや解雇条件の緩和など、雇用の流動化や企業の裁量を拡大する方針を表明。硬直した社会保障制度の改革も訴え、財界の支援を取り付けた。
 一方でサルコジ氏は移民への規制強化を繰り返し表明。内相として不法入国や犯罪に対する強硬姿勢を鮮明にし、移民排斥を掲げる右翼の支持層を取り込んだ。強圧的とも受け取れる態度に左派や人権団体は反発を強めたが、綿密なメディア戦略も展開、同氏の経験と手腕に対する期待は、懸念を上回った。

【仏、競争力強化に軸足 雇用・税制見直しへ】
                    (5月8日 日本経済新聞 より)

競争 「もっと働き、もっと稼ごう」
 フランスは雇用創出をめざして週35時間労働制を導入したが、年間労働時間が米国や他の欧州諸国を下回るという状況を招いた。失業率は中高年層で低下したが、なお8%台。若年層では20%を超える。サルコジ氏は35時間制が競争力強化の妨げになっているとみて、事実上の撤廃を掲げた。
 仏政府はこれまでも35時間制をはじめとする雇用契約に関する法制度の問題を指摘されながら、労組や世論の抵抗を受け思い切った見直しができなかった。このためサルコジ氏は9月にも政府主催で労組、企業経営者を交えた会議を開き、改革への道筋をつける考えだ。
 さらにサルコジ氏は法人税の引き下げも検討している。ほかの主要国企業との競争上の不利をなくすとともに、投資意欲を高めるのが狙いだ。同氏が推進する改革路線は福祉重視から、市場メカニズムに基づく米英流の競争政策に軸足を移したように映る。

【グローバル化が選択迫る】

 フランス国民がこれほど悩んだ大統領選はなかっただろう。市場競争と移民。グローバリゼーションを象徴する二つの難題に、どう対処すべきなのか。誰もが「正解」だと納得する指針を示せた候補者はいなかった。
 米英流の市場至上主義には生理的な拒否感情がある。移民の野放図な流入にも抵抗がある。だが硬直的な経済構造をこのまま放置すれば、祖国は世界の大国の座から引きずり下ろされてしまうかもしれない・・・。
 グローバル化の厳しさに目覚めた仏国民の焦りは記録的に高い投票率となって表れた。同時に、第一回投票の前日まで指示する相手を決められなかった有権者は全体の35%にも上る。社会制度について保守的な仏国民が迷いに迷った末に選んだ指導者が、競争重視のサルコジ氏である。

 今回の仏大統領選は、仏国内と欧州だけの政治イベントではない。世界各国が挑戦すべき共通の課題をあぶり出し、押し寄せるグローバル化の大波への対応を先進各国に厳しく問う選挙だった。
 欧州では、まず英国でサッチャー元首相が高福祉から市場主義に路線を切り替えた。ドイツでは2年前にメルケル政権が誕生し、力強く米英流の改革を推し進めている。そして今、フランスが続こうとしている。
 手厚い労働者保護と高度な福祉政策は、同国の誇りでもあった。その仏国民が競争重視、構造改革の道を選び取った。仏大統領選の結果の意味は日本にとっても重い。

【私の意見】Up63_22

 日本政府や経済界は仏大統領選挙の結果をもとに“競争重視・労働の規制改革・法人税の引き下げは世界の流れである”という大合唱を声高に言いはじめることでしょう。しかし、私は日本企業が日本の労働者をリストラしながら海外の一番賃金の安いところ(東ヨーロッパ・中国・インドなど)に工場を移し、相対的に低価格の製品をそこからヨーロッパ市場で売ったことがヨーロッパの企業を脅かしていると思います。日本企業の徹底したドライな合理性が、ヨーロッパの国民に負け組になるかもしれないという危機感・不安感をいだかせたと思います。仏大統領選の結果がこれからの日本に影響を与えるのではなく、これまでの日本の企業行動が仏大統領選に影響を与えたと私は思います。グローバリゼーションの時代に日本政府と日本の大手企業が一早く対応し、世界の勝ち組になりつつあるのが現在ではないかと思います。
 しかし、日本企業が世界の勝ち組になっても、世界の人々は少しも幸せにならず、世界の人々に生活の破壊をもたらしています。これまでフランスは先進国にもかかわらず出生率が高く子だくさんの国と言われました。昨年7月ころ衛星放送でフランス2(フランスの放送局)の映像を見ていると、一家6人のバカンス準備におわれている母親や子どもたちの映像が映り、親や子どももとても幸せそうでした。フランス国民どころか日本企業が勝ち組になっても日本国民も多くの人は不安定な生活に追い込まれています。このことは何度も言っていることですが働き盛りに激増するうつ病や自殺者の多さに如実にあらわれています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年5月 6日 (日)

日本の新戦略 地球貢献国家をめざそう

            (朝日新聞 2007年5月3日 社説21 提言より)

【提言 日本の新戦略 憲法60年】

 日本国憲法は今日、満60年を迎えた。この間、なにかと改憲論の試練にさらされてはきたが、この憲法が日本の民主主義や平和を支える基盤となってきたことは疑いの余地がない。
 憲法記念日は「言論の自由」の記念日でもある。新聞にはかつてその自由を奪われ、あるいは自ら自由を放棄した苦い過去がある。そして朝日新聞にとって今日は、記者が凶弾によって命を奪われて満20年という特別な日でもある。
 そんな日にあたり、私たちは「社説21提言・日本の新戦略」として、一挙に21本の社説を掲げた。昨年4月から展開してきたシリーズ「新戦略を求めて」の集大成だ。

 「地球貢献国家」をめざそう。
 これが「新戦略」のキーワードだ。
 地球温暖化や人口激増、グローバル化による弊害・・・・。さまざまに迫る地球上の困難に対し、省エネ、環境技術をはじめとする得意技で貢献する。さまざまな国際活動の世話役となって実りを生む。それが、日本の国益にも直結する。

【9条生かし、平和安保基本法を】

 「戦争放棄」の第9条を持つ日本の憲法は、そのための貴重な資産だ。だから変えない。これも私たちの結論だ。
 ただし、準憲法的な「平和安全保障基本法」を設けて自衛隊をきちんと位置づけ、「専守防衛」「非核」「文民統制」などの大原則を書き込んではどうか。憲法の条文から自衛隊が読み取れないという「溝」を埋めるための工夫である。
 国連主導の平和構築活動には、一般の軍隊とは異なる自衛隊の特性を守りながら、より積極的に加わっていくことも、基本法にうたうのがよい。内戦や飢餓などで破綻した国の存在は、テロや戦争だけでなく、麻薬や感染症などの恐怖を広げてしまう。その防止もまた「地球貢献」の重要な一環なのだ。
 以上が「社説21」の柱である。

 憲法と自衛隊や日米安保条約。私たちの先輩も戦後、この関係を真剣に考え、悩み続けてきた。最近では「戦後50年」にあたる95年に社説特集を組み、「非軍事こそ共生の道」と訴えた。そこでは「良心的兵役拒否国家」の考えをとり、自衛隊の役割はあくまでも国土防衛に限るとして、国連平和維持活動(PKO)には別組織の派遣を主張した。

 PKOについては、実績の積み重ねも踏まえて02年9月、これを自衛隊の役割にするよう社説で主張を変えた。国連の平和構築を重んじる今日の提言は、その延長上にある。
 だが、日本の特色は「非軍事」にこそあるという点は変わらない。むしろ、とかく軍事にとらわれがちな「国際貢献」の発想を「地球貢献」に広げ、日本の活路を多角的に考えた。社説を多彩に展開した意味はそこにある。

【私の意見】Up63_21

 “地球貢献国家をめざそう”という朝日新聞の提言は大賛成です。何よりもめざす方向がプラス志向であることがとてもよいと思います。そのプラス志向を実現する上で「『戦争放棄』の第9条を持つ日本の憲法は貴重な資産だ」と高く評価しています。安倍首相によれば、私たち憲法9条擁護派は「日本人であることを卑下する」国民であり、「日本の欠点を語ることに生きがいを求める」国民として蔑視しています(「美しい国へ」228頁)。また、御手洗経団連によれば私たちは「弊害重視派」ということになります(「希望の国日本ビジョン2007」1頁)。私たちと安倍首相、御手洗経団連とは誇りに思う中味が全く異なっているのです。自衛隊に関する朝日新聞の意見については憲法9条を守る立場からも異論があるでしょう。そうではありますが、日本を代表する新聞が「だから、変えない」と言いきってくれたのはとても頼もしいし、この時期に意味の大きいことだと思います。どうか社是として今後の政権党の攻撃にもめげず、憲法をそして国民を守っていってほしいと願うばかりです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年5月 2日 (水)

日米首脳会談 謝る相手が違わないか

【4月29日 朝日新聞社説】

 安倍首相が就任後初めて米国を訪問し、ブッシュ大統領と会談した。
 首相は旧日本軍の慰安婦問題で謝罪し、大統領はそれを受け入れた。両首脳は、拉致問題を含めて北朝鮮に強い姿勢で臨むことを確認した。ともに両国間にすきま風が吹いていた課題だ。
 亀裂はとりあえず修復され、初の訪米は無難に終わったと言えるだろう。しかし、問題は本当に解決に向かっているのだろうか。
 慰安婦の話題を持ち出したのは首相の方からだった。
 「人間として、首相として、心から同情している。申し訳ない思いだ」
 大統領は「慰安婦問題は世界史における残念な一章だ。私は首相の謝罪を受け入れる」と応じた。
 首相は胸をなで下ろしたことだろう。だが、このやりとりは実に奇妙である。
 首相が謝罪すべきは元慰安婦に対してではないのか。首相はかつて河野談話に反発し、被害者に配慮ある発言をしてきたとは言い難い。国内で批判されても意に介さないのに、米国で紛糾すると直ちに謝罪する。何としたことか。
 問題が大きくなったきっかけは「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかった」という首相の発言だった。日本としての責任を逃れようとしているものと、海外では受け止められた。
 米議会では、慰安婦問題で日本に公式に謝罪を求める動きがあり、これに弾みを与えた。メディアも「拉致で国際的支援を求めるならば、日本の犯した罪を率直に認めるべきだ」(ワシントン・ポスト紙)と厳しかった。米政府内にも首相の見識を問う声が出た。
 慰安婦は、単なる歴史的事実の問題ではない。国際社会では、女性の尊厳をめぐる人権問題であり、日本がその過去にどう向き合うのかという現代の課題と考えられているのである。
 首相の謝罪で、米国内の批判に対する火消し効果はあったかもしれない。しかし、日本が自らの歴史とどう向き合っていくかという大きな問題は、実は片づいていない。
 対北朝鮮では、核問題を進展させるために対話路線に転じた米国と、拉致問題が進まなければ支援に応じないとする日本との間に、溝ができていた。
 会談では、北朝鮮が核廃棄に向けての合意の履行を遅らせたら追加的な経済制裁をすることを確認した。大統領が拉致問題への怒りを改めて表明するなど、足並みをそろえて見せた。
 だが、北朝鮮が合意の履行に動けば、再び溝が現れる。テロ支援国家の指定をはずすかどうか、重油などの支援を広げるかどうか。今回の日米連携の確認は、そこまで踏み込んだものではなさそうだ。
 首相と大統領は「揺るぎない日米同盟」をうたい、それを象徴するバッジをおそろいでつけた。演出は結構だが、今後はその内実が問われることになる。

【私の意見】Up63_20

 衛星放送でアメリカ市民がホワイトハウス前で、安倍首相の訪米に反対するプラカードををかかげて抗議行動をしているのを見ました。その中にShame(恥)と書いたプラカードをもった日系人(もしくは日本人)の女性が居ました。すっかり保守性が身についた日本国内に住む国民は自国の首相が国際的に恥ずべき言動を行っても誰も異を唱えようともしません。マスコミもアメリカにおける抗議行動を報道する姿勢を欠いています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年4月 | トップページ | 2007年6月 »